解説

Pentium 4の新チップセット「Intel 845G」の機能と性能
――企業向けPCの新プラットフォームを検証する――

2. Intel 845Gのグラフィックス機能の特徴

元麻布春男
2002/05/28


Intel 845Gに搭載のグラフィックス機能

 さて、Intel 845G/GLが内蔵するグラフィックス機能だが、「Intel Extreme Graphics」という、かなり立派な名前がつけられている。が、実際はすでにモバイルPentium III向けチップセットのIntel 830Mが内蔵するグラフィックス機能の流れを汲むものだ。つまり、完全な新アーキテクチャによるものではない。内部256bitのグラフィックス・コアは、動作クロックがIntel 830Mの166MHzから200MHzへとアップしている一方で、レンダリング・パイプライン(1パスで4つのテクスチャを貼り付け可能)は2本から1本へと減らされており、必ずしもアップグレードとは呼べない側面もある。

 グラフィックス・メモリは、メイン・メモリをプロセッサやPCIバスマスタと共有する、いわゆるUMA方式を採用している(メイン・メモリ内にグラフィックス・メモリが確保される)。BIOSセットアップでフレームバッファとして占有するメモリ量を最低限指定し(512Kbytes、1Mbytes、8Mbytesからの選択)、あとはグラフィックス・ドライバが必要に応じてダイナミックにメイン・メモリを取得することができる。

 実際のグラフィックス機能や性能についても、名前(Extremeは究極とか最先端という意)に見合うほどのものかというと、それも少々厳しい。Extreme Graphicsの機能リストには、最先端のグラフィックス・チップがサポートしているDirectX 8.x互換のプログラマブル・シェーダどころか、DirectX 7互換のハードウェアT&Lさえ見当たらず、機能的はDirectX 6前後相当といった感じだ。

 ただし、3Dグラフィックス性能を追求することが、必ずしもチップセットに内蔵されたグラフィックス機能の目的ではない。メモリ帯域をプロセッサと共有するため、特別な工夫でもしない限り、利用可能なメモリ帯域という点では通常のグラフィックス・カードより劣るし、逆に内蔵グラフィックスが3Dグラフィックス性能を追求するあまりプロセッサのメモリ帯域を圧迫しては、かえってシステム性能が低下する可能性もあるからだ。特に現在のように最先端のグラフィックス・チップが半年のサイクルで入れ替わる時代に、チップセット内蔵グラフィックス機能に最先端を求めるのは無駄が多い。

 過去に、内蔵グラフィックスで最先端のグラフィックス性能を追求した例として、SGIがIAワークステーション用に自社開発したCobaltチップセットの例が挙げられる。だが、PC用グラフィックス・チップのあまりにもサイクルの短いアップデートについていけず、アッという間に陳腐化してしまった。単体のグラフィックス・チップを考えても、最先端はめまぐるしく入れ替わる(GeForce3 → GeForce3 Ti → GeForce4 Ti)が、バリューPC向けはそうでもない(GeForce4シリーズが登場している現在でも、2世代前のアーキテクチャを採用するGeForce2 MXシリーズが生き残るなど寿命が長い)ことが理解していただけるだろう。チップセット内蔵グラフィックスの機能や性能は、ほどほどで構わないのである。

 むしろ、こうした3Dグラフィックスにおける機能や性能よりも、チップセット内蔵グラフィックスで気になるのは、サポート可能な解像度やリフレッシュ・レート、あるいはDVDビデオの再生などに欠かせないハードウェア・オーバーレイが利用可能な解像度に制限がないか、といった項目かもしれない。Intel 810やIntel 815の内蔵グラフィックスでは、解像度を1600×1200ドットに設定すると256色表示しか行えないなど制約が多く、事実上ローエンドでしか使えなかった。

 こうした部分について、Intel 845G/GLのグラフィックスは確かに改善されているようだ。内蔵RAMDACのドット・クロックが350MHzに引き上げられており、スペック上、解像度に関する制約はなくなった。下表は、実際のマザーボード(後述のIntel D845GBV)で調べた、Intel 845Gで利用可能な最大解像度だが、少なくとも解像度に関する限り、一般的なグラフィックス・カードに見劣りすることはない。また、ハードウェア・オーバーレイも、1600×1200ドット/32bitカラー時に利用可能なことを確認している。つまり、デジタル・ビデオ編集といった用途でも、1600×1200ドットという高解像度の利用が可能になったわけだ。

色数 最大解像度 最大リフレッシュ・レート
16bitカラー 2048×1536ドット 75Hz
1600×1200ドット 100Hz
32bitカラー 1920×1440ドット 75Hz
1600×1200ドット 100Hz
Intel 845G内蔵グラフィックスの最大解像度
・1600×1200ドット/32bitカラー時でもビデオオーバーレイ可能
・1280x1024ドット以上の高解像度では文字等がにじむ傾向あり

 もう1つ、Intel 845G/GLのグラフィックス機能で触れておかなければならないのは、デジタル出力とデュアル・ディスプレイのサポートだ。Intel 845G/GLの内蔵グラフィックスは、最大2048×1536ドットのデジタル出力が可能となっている。Intel 845G/GLはTMDSトランスミッタを内蔵していないため、実際にデジタル出力できる解像度の上限は、外付けのトランスミッタ・チップに依存することになるのだが、このトランスミッタ・チップの接続に一工夫ある。

 これまでのIntel 810/815Eでは、TMDSトランスミッタをマザーボード上、あるいは専用コネクタを利用したパドルカードで実装することになっていた。しかし、専用コネクタはマザーボード・ベンダごとに異なるため、このオプションが利用されることは、極めてマレだった。Intel 845GLでは利用できないが、外部AGPスロットを持つIntel 845Gでは、AGP Digital Display(ADD)カードと呼ばれるオプションを追加することでデジタル出力機能を後から追加することが可能となっている。AGPスロットに差すADDカードは、マザーボード・ベンダを問わず利用できるため、単体で流通する可能性を秘めている。

Intel 845Gに対応したADDカード
IDF Spring 2002で展示されていたLow Profile仕様のADDカード。コストは数ドルから10数ドル程度だという。

 このADDカードをシステムに追加した場合だが、Intel 845Gでは、アナログ出力とADDカードによるデジタル出力の両方を同時に利用できる。ただし、残念なことにディスプレイ・コントローラが1つしか内蔵されていないため、2つのディスプレイに同じものを表示すること(Clone)しかできない。要するに、2台のディスプレイは、解像度、色数、リフレッシュ・レートともに同じで、表示内容も同じになってしまう(2つのディスプレイを合わせて、単一の広い画面を実現することはできない)。このあたりはコストの制約が現れたところだろう。

 今回発表となった3種類のチップセットに組み合わされるICH4(82801DB)だが、これまで使われてきたICH2(82801BA)と比べてみたのが下表だ。USB 2.0のサポートが加わったことが最大のメリットである反面、ATAのサポートはICH2と変わらずUltra ATA/100のままで、Ultra ATA/133のサポートは見送られている。Intelはかねてより、Ultra ATA/100の次はシリアルATAへ移行する方針を明らかにしているので、今後もUltra ATA/133のサポートが行われることはないかもしれない。

  ICH2 ICH4
USB 1.1ポート 4ポート 6ポート *2
USB 2.0ポート なし 6ポート *2
HomePNAサポート あり なし
AC'97コントローラ Rev 2.1 Rev 2.3
Ultra ATA(IDEホスト・コントローラ) 33/66/100 33/66/100
BGA端子数 360 421
LPC-ISAブリッジ・サポート 可能 不可
ICH2とICH4の機能比較
*2 6つあるUSBポートのすべてがUSB 1.1としてもUSB 2.0としても使えるが、合計で12ポート使えるわけではない
 
オンボードのICH4
ICH4は、USB 2.0をサポートしたことが最大の特徴である。基板上にICH4のシルク印刷が見える(赤矢印の先)。

Intel 845G搭載のマザーボードは?

 以上のように、どうやら同じIntel 845シリーズのチップセットであっても、Intel 845Eが前世代を継承したものであるのに対し、Intel 845Gは新しい世代に属するもののようだ。機能的に、Intel 845GがIntel 845Eの上位互換になっていることからも、やはり気になるのはIntel 845Gではなかろうか。そこで、ここではIntel 845Gを搭載したIntel製マザーボード「D845GBV」を例に、Intel 845Gについて細かく見ていくことにしたい。なお、ここで用いたD845GBVは、極めて製品に近いとはいえ、プリプロダクション・モデルであることをお断りしておく。

 さて、下の写真がD845GBVの全景だが、標準的なATXフォームファクタのマザーボードで特に変わったところはない。MCH(Memory Controller Hub)チップに取り付けられた大型のヒートシンクが目につくが、ハンダ付けで固定されており、取り外すことはできない。DIMMソケットは2本で、1Gbytes DIMMを2本差した2Gbytesが最大容量となる。

Intel製Intel 845G搭載のマザーボード「D845GBV」
標準的なATXフォームファクタを採用している。Intel 845Gはグラフィックス機能を内蔵しているが、D845GBVではAGPスロットにグラフィックス・カードを実装することも可能。
  プロセッサ・ソケットのSocket 478(μPGA478 Socket):400MHz/533MHzのFSBに対応しており、Pentium 4とNetBurstアーキテクチャ採用Celeronが搭載可能。
  MCHの82845G:グラフィックス機能が内蔵されているためか、ヒートシンクが82845Eのものよりも若干大きいようだ。
  ICH4の82801DB:今回発表されたIntel 845E/G/GLでは、すべてICH4との組み合わせとなっている。USB 2.0のサポートが最大の特徴。
  FWH(Firmware Hub):BIOSが内蔵されたフラッシュメモリ。
  DDR SDRAMソケット:2本のDDR SDRAMソケットを搭載している。1Gbytes DIMMを差すことで最大2Gbytesの搭載が可能。
  AC'97 CODECのAD1981A:Analog Devices製のCODECチップ。
  AGPスロット:Intel 845Gでは、内蔵グラフィックスのほか、AGPによる外付けグラフィックス・カードの利用が可能。
  PCIスロット:32bit/33MHzのPCIスロットが6本装備されている。
  CNRスロット:オンボードでLANが搭載されている場合は、CNRスロットは装備されない。
  USBポート:シリアル・ポートを挟んだ両側に合計4ポートのUSBポートが装備されている。どちらもUSB 2.0に対応している。
  オーディオ・ポート
  シリアル、パラレル、VGAの各ポート
  PS/2キーボード/マウス

 オンボードで搭載されるI/Oは、基本的にICH4が内蔵する機能を利用したもののみだ。サウンド機能に使われるAC'97 CODECが、これまで使われてきたAD1885/1886に代わり、AD1981Aに更新されているが、同じAnalog Devices製であり、SoundMAXソフトウェアがバンドルされていることも変わらない。USBポートは背面のI/Oパネル部に4ポート、フロント・パネル用のヘッダ・ピン(マザーボードとフロント・パネルのUSBコネクタの間を接続するケーブル用のコネクタ)に2ポート用意されている。つまり、合計6ポートのUSBがサポートされていることになる。USB対応の周辺機器が増えてきた現在、USBポートが多いのは、別途ハブを用意する必要がないので便利だろう。

AC'97 CODECの「AD1981A」
オンボードのAC'97 CODECは、これまで使われてきたAD1885/1886から、AD1981Aに切り替わった。ただ、同じAnalog Devices製であり、サウンド機能を制御するSoundMAXという専用ソフトウェアがバンドルされる点に変更はない。
 
ICH4が内蔵するUSBコントローラとポートの関係
2ポートをサポート可能なUSB 1.1対応のUHCIコントローラ3つと、6ポートをサポート可能な480Mbits/s対応のEHCIコントローラ1つで構成されている。

 次ページからは、Intel 845Gの性能を計測し、Pentium 4のプラットフォームとしてどのチップセットが最適なのか検証してみる。


 INDEX
  Pentium 4の新チップセット「Intel 845G」の機能と性能
    1.Intel 845Eシリーズの位置付け
  2.Intel 845Gのグラフィックス機能の特徴
    3.Intel 845Gの性能と評価
    4.ベンチマーク・テストの結果
 
 「System Insiderの解説」


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