解説 Pentium 4の新チップセット「Intel 845G」の機能と性能――企業向けPCの新プラットフォームを検証する―― 1. Intel 845Eシリーズの位置付け 元麻布春男 |
2002年5月21日、インテルは、「Intel 845E」「Intel 845G」「Intel 845GL」の3種類のチップセットを発表した(インテルの「Intel 845Eシリーズに関するニュースリリース」)。いずれもメイン・メモリに今後主流になると見られているDDR SDRAM(DDR-200/266)をサポートしたチップセットだ。5月7日に発表されたFSBが533MHzに変更となったPentium 4にも対応しており、ここしばらくは、この3種類がクライアントPC向けチップセットの主流となりそうだ。企業のクライアントPCは、2000年問題を前にした1999年に大量に導入が行われており、2002年後半はこれらのPCのリプレース時期にあたる。つまり、今回発表となったチップセットが、リプレース用クライアントPCの対象となるわけだ。そこで、今回は「Intel 845E」「Intel 845G」の2種類を取り上げ、機能や性能を評価するとともに、どちらがクライアントPC向けのチップセットとして望ましいのかを検証してみようと思う。
Intel 845シリーズはPentium 4の主力プラットフォームなのか?
「解説:最新Pentium 4-2.53GHzに見るPCの買い替え時」で取り上げたPentium 4-2.53GHzは、現時点で最も高速なPC用プロセッサとなる。しかしこれは、FSBが533MHzに引き上げられており、400MHzまでしか対応していない既存のチップセットでは公式にサポートできなかった。そこでFSB 533MHzに対応したチップセットとしてIntel 850Eがリリースされたのだが、次世代のプラットフォームとして多くの人に勧めるには、いくつかの点で疑問を拭いきれないものであった。1つは、対応するメモリが高価かつ高性能なものの、今後主流になることはないと考えられているDirect RDRAMであったことだ。
もう1つは、Intel 850Eのサウスブリッジに相当するICH*1が、従来のIntel 850やIntel 845と同じICH2で、USB 2.0対応のホスト・コントローラを内蔵していないことである。もしIntelがIntel 850Eを本命のプラットフォームと考えているのであれば、USB 2.0対応のホスト・コントローラ機能を内蔵した最新のICH4を組み合わせるハズではないか。Intel 850EがPentium 4で最高の性能を得るためのプラットフォームであることは間違いないものの、釈然としないものを感じていたのは筆者だけではないだろう。
*1 ICHとは「I/O Controller Hub」の略で、現在のIntel製チップセットにおいて、IDEやUSBなど各種I/Oのインターフェイス回路を集積したチップ。 |
こうした疑問に答えるかのように、登場したのが「Intel 845E」「Intel 845G」「Intel 845GL」である。ICHチップも、最新のICH4に更新され、USB 2.0ホスト・コントローラが内蔵された。絶対性能はともかく、主流となるのはこのIntel 845ファミリのようだ。実際、発表から2週間が経過してもサードパーティ製マザーボードさえほとんど見かけないIntel 850Eに比べ、Intel 845EとIntel 845Gを搭載したPCやマザーボードは発表と同時に多くのベンダから出荷されていることからも、このことがうかがえる。
DDR SDRAM対応のPentium 4向けチップセット「Intel 845G」 |
写真左側はPentium 4、右上がICH4、右下がMCH(Memory Controller Hub)。Intel 845Gグラフィックス機能の内蔵やUSB 2.0のサポートなど、Pentium 4向けチップセットの主流となる機能性を備えている。 |
Intel 845Eは、すでに販売されているIntel 845に、533MHzのFSBサポートを加えたもの、と考えて間違いない。下表に今回リリースされたチップセットを含めた、Intel 845シリーズ5種の比較をまとめておいたが、パッケージ(FC-BGA)の端子(ボール)数も含め、Intel 845とIntel 845Eはまったく同じである。ただ、バリデーション(検証)・コストを削減するためか、PC133 SDRAMのサポートが省略されている。位置付け的にも、グラフィックス機能を内蔵しないIntel 845Eは、パフォーマンスPCセグメント向けであり、そうである以上、PC133 SDRAMのサポートは不要、ということなのだろう。533MHzのFSBサポート以外は目新しい機能がないものの、最も堅実な仕様なのはこのIntel 845Eだ。
Intel 845 | Intel 845 B0 Step | Intel 845E | Intel 845G | Intel 845GL | |
対応FSB | 400MHz | 400MHz | 400/533MHz | 400/533MHz | 400MHz |
対応ICH | ICH2 | ICH2 | ICH4 | ICH4 | ICH4 |
対応SDRメモリ | PC133 | PC133 | N/A | PC133 | PC133 |
最大SDRメモリ容量 | 3Gbytes | 3Gbytes | N/A | 2Gbytes | 2Gbytes |
対応DDRメモリ | N/A | DDR-200/266 | DDR-200/266 | DDR-200/266 | DDR-200/266 |
最大DDRメモリ容量 | N/A | 2Gbytes | 2Gbytes | 2Gbytes | 2Gbytes |
ECCサポート | あり | あり | あり | なし | なし |
AGP | 4x 1.5V専用 | 4x 1.5V専用 | 4x 1.5V専用 | 4x 1.5V専用 | なし |
内蔵グラフィックス | なし | なし | なし | あり | あり |
BGA端子数 | 593 | 593 | 593 | 760 | 760 |
Intel 845シリーズの機能比較 |
Intel 845GおよびIntel 845GLは、Intel製Pentium 4向けチップセットとして、今回初めて登場したグラフィックス統合型チップセットだ。しかし、どうやら単にIntel 845/845Eにグラフィックス・コアを追加したものではなさそうだ。PC133 SDRAMを用いた場合の最大メモリ容量が、Intel 845の3Gbytesから2Gbytesに減少していること、Intel 845Eまで維持されてきたECCメモリのサポートがなくなったことからすると、Intel 845Gのメモリ・コントローラにも変更が加わっていると推測される。
実はこうした変更は、チップセットの用途にも影響してくる。Intel 845/845Eは、ECCがサポートされていることから、シングルプロセッサのエントリ・サーバでも利用可能で、適用範囲が広い(信頼性が重視されるサーバ用途では、メモリ・エラーの確率を下げるECCが必須とされる)。一方、Intel 845GはECCサポートがなくなったことで、サーバではほとんど利用できなくなってしまった。
メモリ・コントローラの変更を裏付けるように、すでに販売されているIntel 845G搭載マザーボードの一部(AOpen AX4G Pro)には、現時点でIntelがサポートしないDDR-333メモリへの対応をうたうものまで存在する。同じメーカーのIntel 845E搭載マザーボード(AX4B Pro-533)がDDR-333メモリに対応していないことからすると、Intel 845Eのメモリ・コントローラはDDR-266までで、新しいIntel 845Gのメモリ・コントローラはDDR-333にも対応可能、と推定することもできそうだ。Intelが保証するより高速なメモリの動作をうたうサードパーティ製マザーボードの存在は、Intel 850Eチップセットでも見られている。2003年登場する開発コード名「Prescott(プレスコット)」で呼ばれる次期Pentium 4には、デュアル・チャネルのDDR-333メモリをサポートするチップセットが用意されることが明らかにされている。慎重なIntelのこと、事前にシングル・チャンネルのDDR-333対応チップセットをリリースして、地ならしをしてもおかしくない。しばらくして、DDR-333をサポートしたIntel 845Gが登場する可能性もあるだろう。
今回発表された3種類のチップセットのうち、最後のIntel 845GLは、単にIntel 845Gから533MHzのFSBと外部AGPインターフェイスのサポートを省略したもののようだ。これは、両者のデータシートが同一であるうえ、外部AGPインターフェイスの有無にかかわらず、Intel 845GとIntel 845GLでパッケージの端子数が変わらないことから推測できる(本来なら外部AGPスロットをサポートしないIntel 845GLの端子数は、もっと少なくてよいハズである)。Intel 845GLの位置付けが、NetBurstアーキテクチャ対応Celeronと組み合わせて、バリューPC向けに安価なプラットフォームを提供することにあるということのようだ。
次ページからは、Intel 845Gの新機能について見ていこう。
関連記事 | |
最新Pentium 4-2.53GHzに見るPCの買い替え時 |
関連リンク | |
Intel 845Eシリーズに関するニュースリリース |
INDEX | ||
Pentium 4の新チップセット「Intel 845G」の機能と性能 | ||
1.Intel 845Eシリーズの位置付け | ||
2.Intel 845Gのグラフィックス機能の特徴 | ||
3.Intel 845Gの性能と評価 | ||
4.ベンチマーク・テストの結果 | ||
「System Insiderの解説」 |
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