解説 PCI-X 2.0とPCI Expressのインパクト(後編)――新しい拡張インターフェイスの実体とその影響を探る―― 5. PCI-X 2.0とPCI Expressの関係は? 元麻布春男 |
PCI-X 2.0やPCI ExpressにOSのサポートは必要となるのか?
ここまでPCI-X 2.0とPCI Expressの概要を見てきたが、いずれも商品化は2003年後半から、本格的な普及は2004年以降になると考えられている。いずれも、PCI 2.2/2.3をサポートした既存のOS(Windows XPなど)で、そのまま動作することをうたっている。ただ、ここで気を付けておかなければならないのは、既存のOSでそのまま動くことと、既存のOSでPCI-XやPCI Expressの全機能・性能が十分に発揮できることとは違う、ということだ。
例えばPCI-X 2.0がサポートするピア・ツー・ピアのデータ転送や、PCI ExpressのQoSといった機能は、これらの機能を持たないPCIのソフトウェア・モデルではサポートできない。PCI-X 2.0やPCI Expressでは、拡張された機能をサポートするため、コンフィグレーション用のデータ領域がPCIの256bitsから32Kbitsに大幅に拡張されている。しかし、既存のOSはこの拡張されたエリアにアクセスすることができない。PCIのソフトウェア・モデルで利用するということは、それぞれのバスがサポートする機能のうち、PCI相当の機能しか利用できない、ということなのである。
もちろん、新しい機能の一部は、OSのサポートがなくてもBIOSによるサポートで利用可能になるだろう。OSそのものを変更しなくても、デバイス・ドライバによる対応で実現できる新機能もあるかもしれない。しかし、いずれにしてもPCI-XやPCI Expressの機能と性能を発揮させるには、カーネルやHALといったOS本体での対応が必要になるハズだ。つまり、Service Packでの対応は完全なものにならない。現時点で、PCI-X 2.0やPCI ExpressをPCIソフトウェア・モデルではなく、それぞれのネイティブ・モデルでサポートする最初のOSは開発コード名「Longhorn(ロングホーン)」で呼ばれるWindowsになるといわれている。それでも、既存のOSで利用できるということ自体が、重要であることも事実である。
PCI-XとPCI Expressは競合するのか?
さて、PCI-X 2.0とPCI Expressで議論になっていることの1つが、両者の関係だ。いずれのバスも、PCIに比べ広い帯域を備えた将来のバスである。しかも、登場時期もほぼ同時になりそうだ。両者は競合するのではないか、といわれても仕方のない側面もある。もちろん、2つの規格を管理するPCI-SIGは、これを否定する。PCI-SIGによると、PCI-X 2.0が既存のPCIバス資産やPCI-X 1.0の資産を継承しながら、近い将来サーバに必要となる帯域の需要を満たすものであるのに対し、PCI Expressはまったく新しく開発された、すべてのPCセグメントをカバー可能なI/O技術であり、両者は並立可能なのだという。そして、PCI Expressへの移行を急ぐか、PCI-X 2.0を選ぶかはベンダしだいであり、このような選択肢があること自体、健全なことだとしている。両者がある部分で競争することで、問題のフィードバックなども加速される、という説明であった。
PCI-X 2.0かPCI Expressか、といった見方がされる一因となったのは、サーバ向けチップセット・ベンダ大手のServerWorksが、PCI Expressに否定的な見方をしている、と一部メディアで報道されたことである(PCI-SIGによると、ServerWorksの社内にも、PCI Expressのメリットを認めている人は大勢いる、とのことだが)。これをもって、IntelがDirect RDRAMの導入を強引にすすめたときにならい、PCI-X 2.0をDDR SDRAMに、PCI ExpressをRDRAMにたとえるムキも一部にあるようだが、それはどうだろうか。
下表は、Direct RDRAMとDDR SDRAMの対比にならって、PCI ExpressとPCI-X 2.0の応用分野を比較したものだ。少なくともPCのセグメントについて、DDR SDRAMがすべてをカバーしていたのに対し、PCI-X 2.0の応用分野はほとんどサーバに限られる。デスクトップPCへの応用は、コスト的に限りなく困難だし、ノートPCに用いることは規格上想定さえされていない。
Direct RDRAM | DDR SDRAM | PCI Express | PCI-X 2.0 | |
サーバ |
×
|
○
|
○
|
○
|
ワークステーション |
○
|
○
|
○
|
△
|
デスクトップPC |
○
|
○
|
○
|
×
|
ノートPC |
×
|
○
|
○
|
×
|
組み込み |
○
|
×
|
○
|
×
|
PCI ExpressとPCI-X 2.0の応用分野 |
ワークステーション用途にしても、取りあえずAGP 8xの世代はPCI-X 2.0をベースにしたワークステーションがあり得るだろうが、グラフィックスの主流がPCI Expressのx16に移行してしまったら、対応が困難になるだろう。グラフィックス・チップ・ベンダはPCI Expressへの対応を表明しているが、PCI-X 2.0に対応したグラフィックス・チップというのは聞いたことがない。可能性があったのは、むしろHyperTransportだと思うが、開発元であるAMD自身がPCI-SIGの幹事メンバーとしてPCI ExpressをPCIバスの後継にすることを承認している。また、AMDのCEOに就任したばかりのヘクター・ルイズ(Hector Ruiz)氏が、最近LA Times(ロサンゼルス・タイムズ)のインタビューで、自社Fab主義の放棄ならびにチップセット開発からの撤退といった方針転換を明らかにしていることを考えると、グラフィックス・チップのHyperTransport採用の可能性は限りなくゼロに近いだろう。
グラフィックスのためにPCI Expressに対応するのなら、汎用外部バスもPCI Expressをベースにしたアーキテクチャに移行した方が自然だし、PCI-Xをサポートする場合もPCI Express−PCI-Xブリッジを用いる形になるハズだ。何らかの形でPCI Expressがつまずかない限り、PCI Expressが次世代のI/Oインターフェイスの主役となることはまず間違いないだろう。PCI-Xは、ISAとPCIの間をつないだ、EISAのような役割を果たすものと考えられる。
INDEX | ||
PCI-X 2.0やPCI Expressのインパクト | ||
1.従来のPCIの後継「PCI 3.0」とは? | ||
2.PCI-Xは2.0でさらに高速化 | ||
3. 次世代のI/O規格「PCI Express」は何が変わるのか? | ||
4. PCI Expressの実装方法 | ||
5. PCI-X 2.0とPCI Expressの関係は? | ||
「System Insiderの解説」 |
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