解説

PCI-X 2.0とPCI Expressのインパクト(後編)
――新しい拡張インターフェイスの実体とその影響を探る――

4. PCI Expressの実装方法


元麻布春男
2002/10/11

解説タイトル


 図7は、Intelが2003年第1四半期に開発者向けに提供を開始するとしているPCI Expressのテスト・ボードに関するものだ。低価格を実現するため、デスクトップPCに用いられてきたのと同じ4層基板が使われることになっている。また、これまでAGPスロットがあった位置にPCI Expressのx16スロットが、その隣に汎用のPCI Expressのx1スロットとPCIスロットが設けられている。

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図7 PCI Express対応マザーボードの配線パターン
IntelがIDFで公開したPCI Express対応マザーボードの配線パターン。Pentium 4クラスのプロセッサに対応し、デュアルチャネルのメモリ・バスを備えていることが分かる。これまで公開されてきたブロック図と異なり、PCI Expressを提供するのはノースブリッジの役割となっている。

 この図では、既存のPCIバスとPCI Expressが共存していることが分かる。2001年夏に配布されたホワイトペーパーでは、PCIスロットと3GIOスロットが一直線上に並び、拡張スロットにPCIと3GIOのどちらでも好きなカードがインストールできるようになっていた。ところがテスト・ボードでは、PCIスロットとPCI Expressスロットが独立した位置を占めるように変更されていた。これは、PCIスロットとPCI Expressスロットを一直線に並べたデザインの必要性を訴えるPCベンダが1社もなかったためという。また、このテスト・ボードでは汎用のx1スロットへの信号をノースブリッジ・チップが提供しているが、製品がこれと同じになるのかどうかは現時点では不明だ(PCI Expressをサポートするノースブリッジに対し、サウスブリッジは既存のHubLink対応のものを流用することも考えられる)。

写真2 NECのPCI Express物理層チップ
4レーンのPCI Expressを実装したNECの物理層チップ。現在同社は、ASICライブラリとしてPCI Express関連の開発を行っている。写真奥側には、PCI Express対応のコネクタと対応カードが実装されている。
 
写真3 PCI Express対応コネクタ部分
写真2に使われていた4レーンのPCI Express対応コネクタ部分を拡大したもの。写真では若干見えにくいが、手前にリテンション用のツメが用意されている。

PCカード・スロットの置き換えも狙うノートPC向けのPCI Express

 一方、ノートPC向けの機能だが、現在2つの方向で開発が進められている。1つは、内蔵用に現在使われているMini PCIを置き換える「Mini PCI Express」、もう1つはPCカードの置き換えを狙う「モジュール」だ。まずMini PCI Expressだが、基本的には現行のMini PCI Type IIIカードと同じ面積に、2枚のカードが実装できるようになっている(図8)。現在のMini PCIでは、1枚しかカードを実装できないため、モデムと無線LANのように、複数の機能を備えたマルチファンクション・カードにしなければならず、OEMの在庫管理が複雑になっていた。つまり、モデム+無線LAN、モデムのみ、無線LANのみといった具合に、2種類の機能に対して3種類のカードをラインアップしなければならなかった。Mini PCI Expressでは、同じ面積に単機能のカードを2枚差せる形状にすることで、この在庫管理を容易にする。また、外部コネクタやアンテナといったI/Oコネクタの位置も標準化することで、BTOなどを容易にすることも考えている。なお、このMini PCI Expressコネクタには、1レーンのPCI Expressに加え、USB 2.0の信号も提供される。

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図8 Mini PCI Expressカードの概要
現在、検討されているMini PCI Expressカードの概要。現在のMini PCI Type IIIカードのサイズに2枚のMini PCI Expressカードが差せるようになる予定だ。

 残る「モジュール」の方だが、IntelがPCカードの置き換えを狙っているのは図9のもので、現行の幅54mm×奥行き85.6mm×厚さ5mmであるType II PCカードに比べて、33.7mm×60mm×5mmとかなり小さい。モジュールの取り外しは、直接モジュールを持って引き抜く方式をとるため、スロットも小さく安価になる見込みだ(図10)。PCI Expressの信号をそのまま利用することで、PCカードのようなコントローラ・チップ(PCカード・インターフェイスとPCIバスを相互接続するブリッジ・チップ)も不要となる。小さく、安くなる上、PCカードが内包するレガシー(PCMCIAカードとの互換性)も排除できると、システムにとっては良いことづくめだが、市場がこのような互換性のない大幅な変更をすんなりと受け入れるかどうかが問題だ。

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図9 PCI Express採用のモジュール形状
ノートPC向けにPCカードの置き換えを狙うモジュール。メモリースティックより一回り大きい、というサイズになっている。
 
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図10 モジュールの着脱方法
モジュールの引き抜きは、そのまま手で持って行う。そのため、モジュールはスロットから15mmほど飛び出す形となる。

 実はこのノートPC向けを狙うモジュールは、現在検討されているモジュールのうち、最も小さいものである。Intelは相当モジュール形式による周辺機器の実装に執心なようで、図11のように3種類のモジュールを考えている。これはノートPCだけでなく、省スペース・デスクトップPCへの採用も狙っているためだ。Intelは、「PCI ExpressでPCのフォームファクタが変わる」と述べているが、これはPCの拡張にもこのモジュールを採用することが念頭にあるからに違いない。それどころか、図12のように、サーバやワークステーションにもPCI Expressベースのモジュールを採用することを研究しているようだ。

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図11 Intelが検討しているPCI Expressベースのモジュール
Intelは、ノートPCのみならず、省スペース・デスクトップPCへの応用も狙っている。それにより、PCのフォームファクタも変わることを予想している。
 
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図12 サーバ/ワークステーション向けモジュール
Intelがサーバ/ワークステーションへの応用を目指して研究しているPCI Expressベースのモジュール。まだ仕様は決まっておらず、ノートPCやデスクトップPC向けのモジュールよりは、研究・開発の早期段階にあると思われる。

 こうしたモジュールの構想を聞くと、立ち消えになったデバイス・ベイを思い出してしまうのは筆者だけだろうか。Intelによると、USBやIEEE 1394などの複数バスが相乗りする形になったデバイス・ベイと異なり、「PCI ExpressのモジュールはPCI Expressがストレートに出力されるため、極めて簡潔な点が違う」というのだが、これまでデスクトップPCでは最も安価なものしか生き残ってこれなかった歴史がある。ニッチではなく、拡張カードを置き換えるほどモジュールが広く使われることになるのかどうか、PCベンダの反応をまずは見たいところだ。

 もう1つ、PCI Expressで触れておきたいのは、プロトコルの拡張による新しい機能のサポートだ。PCI ExpressではCRCによるエラー・チェックに加え、障害報告の機能を備えている。また、PCI Expressの帯域を複数の仮想チャネルに見立て、そこに優先順位を設けたトラフィックを流すことで、QoS(Quality of Service:通信品質の保証)やIsochronous転送(等時間性転送:一定時間当たりのデータ転送量を保証する転送)のサポートを可能にする。スケーラビリティを伴った広帯域と低コストに加え、これらの新機能により、PCI Expressはこれからの10年間利用可能なI/Oバスになる見込みだ。

 次ページでは、PCI-X 2.0とPCI Expressがどのようにサポートされていくことになるのかを見ていくことにする。


 INDEX
  PCI-X 2.0やPCI Expressのインパクト
    1.従来のPCIの後継「PCI 3.0」とは?
    2.PCI-Xは2.0でさらに高速化
    3. 次世代のI/O規格「PCI Express」は何が変わるのか?
  4. PCI Expressの実装方法
    5. PCI-X 2.0とPCI Expressの関係は?
 
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