解説 PCI-X 2.0とPCI Expressのインパクト(前編)――新しい拡張インターフェイスの実体とその影響を探る―― 1. 従来のPCIの後継「PCI 3.0」とは? 元麻布春男 |
現在、サーバ、クライアント、ノートPCを問わず、ほとんどのPCで使われているPCIバス。その規格を管理する非営利団体であるPCI-SIGが組織されて10年を迎えた。この間、PCIの応用分野はPCを超えて、通信機器や各種組込み機器にも広がり、業界標準と呼ぶにふさわしいほどの普及を成し遂げている。しかし、この業界にあって10年という歳月は十分に長い。さすがのPCIバス規格も、次の世代に向けた変革の時期に入った。すでに、既存のPCIをベースにサーバ向けの拡張を施したPCI-Xや、PCIのソフトウェア・モデルを継承しながらまったく新しいシリアル・バスへの移行を目指すPCI Expressといった新しい規格が登場している。
特にPCI-Xは、すでに最初のRevision 1.0の規格がサーバに実装され始めており、サーバのI/O性能の向上に一役買っている。しかも、さらに性能を高めたRevision 2.0の仕様はすでにPCI-SIGでは承認済みで、正式なリリースとハードウェアへの実装が待たれている。一方で、PCI ExpressはデスクトップPCのみならずサーバ/ワークステーションなども大きく変える可能性を秘めている。特に、平均して4〜5年といった長期間使われるサーバに関しては、今後数年の動向に注目しながら導入を決める必要がある。そのためには、変わりつつあるPCI規格の内容を知っておく必要があるわけだ。そこで本稿では、こうした新しいPCI関連規格の概要について紹介することにしたい。前編である今回は、従来のPCIの後継である「PCI 3.0」と、おもにサーバ向けである「PCI-X 2.0」について解説する。
細分化されてきたPCI関連規格
まず最初に、PCI-SIGが管理するPCI関連規格が、規格書としてどのような形でまとめられているか、説明しておこう。基本的にPCI-SIGの規格書は、PCI-SIG会員(年会費3000ドル)には無償で、非会員には有償で配布される。PCI-SIGの規格がいわゆるPCIバス規格(PCI Local Bus Specification)だけであったころは、PCI 2.0、PCI 2.2など、規格そのもののリビジョン番号で管理されていた。しかし、現在ではPCI-XやMini PCIなど複数の規格を内包することになったため、2002年から規格書全体は年号で管理されることになった。これは各規格ごとにリビジョン番号が異なるため、誤解が生じやすくなったためと思われる。つまり、2002年ならPCI-SIGマニュアル2002、という具合だ。このマニュアルは、複数の「Book(ブック)」で構成されており、PCI-SIGマニュアル2002を例にとると、Book IにPCIバス規格の中核であるバス自体の規格、Book IIにそれを補完する規格が、そしてBook IIIには設計ガイドが、それぞれまとめられている。PCI-SIGマニュアル2002の構成は下表のとおりだ。
パート | 規格名称 | 概要 |
Book I: Core Specifications(2002年第4四半期刊行予定) | ||
Part 1 | PCI 3.0 | 従来のPCI 2.xを引き継ぐ拡張インターフェイス規格 |
Part 2 | PCI-X 1.0b and PCI-X 2.0 | パラレル伝送方式を採用したサーバ/ワークステーション向けの拡張インターフェイス規格 |
Part 3 | PCI Express 1.0 | シリアル伝送を採用した次世代拡張インターフェイス規格 |
Book II: Ancillary Specifications(2003年第1四半期刊行予定) | ||
Part 1 | PCI Firmware | PCI BIOSなどファームウェア関連の規格 |
Part 2 | PCI-to-PCI Bridge | PCIバス同士を相互接続するブリッジ・チップに関する規格 |
Part 3 | PCI Hot-Plug | 通電中にPCIカードを装着するホットプラグ機能に関する規格 |
Part 4 | PCI SHPC | PCIホットプラグを実現するコントローラに関する規格。SHPCはStandard Hot Plug Controllerを表す |
Part 5 | PCI Power Management | PCIの電力管理機能を規定した規格 |
Part 6 | Mini PCI | ノートPCなど小型のフォームファクタ向け拡張バス規格「Mini PCI」の規格書 |
Book III: Design Guides(2003年第2四半期刊行予定) | ||
Part 1 | Mobile Design Guide | ノートPCなどのモバイル・プラットフォーム向けの設計ガイド |
PCI-SIGマニュアルの構成例 | ||
これは2002年度版(PCI-SIGマニュアル2002)の構成である。 |
まもなく登場するPCI 3.0の変更点は意外に少ない?
Book IのPCI-X 2.0とPCI Express 1.0について概要を紹介する前に、現行PCIの後継であるPCI 3.0についても簡単に触れておこう。現在主流となっているPCIバスは、クライアントPC向けには32bit幅で動作クロック33MHzのものが、サーバ向けには32bit/64bit幅で33MHz/66MHz動作のものが、それぞれ使われている。これらは通称「32bit/33MHz PCI」「64bit/66MHz PCI」などと呼ばれる。こういった現在の製品に実装されているPCIバスは、基本的にPCI 2.2規格に準拠したものだ。その次の規格となるPCI 2.3はすでに発表されており、5V動作*1のカードがなくなり、すべての拡張カードが3.3V動作になると規定されている。ただし、マザーボード側は5V動作のサポートが認められており、既存の5V動作カードとの互換性が維持される。PCI 3.0では、マザーボード側からも5V動作のサポートがなくなり、PCIバスは完全に3.3V動作を前提にしたものになる予定だ。
*1 5V動作または3.3V動作というのは、基本的にバスの動作電圧であり、おおよそバスの電気信号の振幅電圧に相当する。厳密にいえば、PCIデバイス・チップの動作電圧(コア部分に供給される電力の電圧)とは異なる。ただし、バスもチップも動作電圧が下がる傾向にあることは共通している。 |
写真1 PCIカード/スロットの動作電圧と誤挿入防止用キーの関係 | |||||||
PCIでは、動作電圧の異なるカードとスロットの組み合わせで装着するのを防ぐために、誤挿入防止用キーがコネクタ部分に付いている(赤色の矢印の部分)。左側の写真は32bit PCIにおける5V用のカードとスロットの組み合わせで、右側の写真は64bit PCIにおける3.3V/5V両用のカードと3.3V用スロットの組み合わせだ。 | |||||||
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PCI 3.0の動作電圧低下は速度向上のためではない
PCI 2.2から2.3へ、そしてPCI 3.0へという動きの中で、データ転送速度の引き上げは行われない。PCに用いられている多くの半導体パーツは、世代を重ねるたびに動作電圧が下がり、同時に高速化も実現されることが多い。しかし、これはPCI 3.0に当てはまらない。つまり、5V動作から3.3V動作に変わるからといって、高速化が図られるわけではないのだ。
PCI 3.0における低電圧化の主眼は、速度向上ではなく、半導体製造プロセスの微細化に伴うものだろう。プロセッサを例にとると、その製造プロセスは微細化の一途をたどっている。現在Intel製プロセッサは0.18μmから0.13μm(130nm)へと切り替わりつつあるところ(IA-32はほぼ切り替わりつつあるが、IA-64はこれから)だが、2003年後半にも90nmプロセスの導入が始まる。Intelフェローのマーク・ボーア(Mark Bohr)氏のプレゼンテーションによれば、90nmプロセスでは動作電圧は1.2Vあるいはそれ以下が望ましいとされており、1.5V前後で動作する0.13μmプロセスよりもさらに低電圧化が進むことになる。
このような微細化と低電圧化は、性能向上を可能にすると同時に、
- 性能向上に伴う消費電力の増加を抑える(低消費電力化とはいかないまでも)
- 既存のシャシーや冷却ソリューションの流用を可能にする
といったメリットがあるため、避けることはできない。同じことはメモリ・デバイスにも該当するし、実際にメモリ・チップ/バスの動作電圧は下がってきている。このようにデバイスが低電圧化する一方で、拡張バスの動作電圧を従来どおり維持し続けることは、回路基板やチップセットの設計・製造の面から負担が大きい。より高性能なPCをこれまでと変わらないコストで実現していくには、PC全体の低電圧化が必要であり、拡張バスもその例外ではないということだ。
一例を挙げると、すでにIntel製の最新チップセットでは、AGPのサポートも従来の3.3V/1.5V両用から1.5Vのみの動作になっている。また新しいAGP 3.0で規定されたAGP 8X(8倍速モード)では、0.8V動作へとさらに引き下げられる(AGPの場合は、バスそのものの高性能化も含まれているが)。PCI 3.0に至るPCIバスの低電圧動作化もこうした流れに沿ったものだ。
拡張スロット(マザーボード) | 拡張カード | |
PCI 2.2以前 | 5V用、3.3V用の2種類 | 5V用、3.3V用、5V/3.3V両用の3種類 |
PCI 2.3 | 5V用、3.3V用の2種類 | 3.3V用、5V/3.3V両用の2種類 |
PCI 3.0 | 3.3V用のみ | 3.3V用、5V/3.3V両用の2種類 |
AGP2.0 | 3.3V用、1.5V用、3.3V/1.5V両用の3種類 | 3.3V用、1.5V用、3.3V/1.5V両用の3種類 |
AGP3.0 | 0.8V用、1.5V/0.8V両用、3.3V/1.5V/0.8V兼用の3種類 | 0.8V用、1.5V/0.8V両用、3.3V/1.5V/0.8V兼用の3種類 |
各バス規格における実装可能な動作電圧の組み合わせ | ||
拡張スロット(マザーボード)と拡張スロットそれぞれの動作電圧をまとめてみた。当初、5Vという高めの動作電圧を採用したPCIは、半導体の低電圧化にともない、PCI 3.0で完全に5Vを切り捨てざるをえなくなってしまった。一方、3.3Vとやや低めの電圧から始まったAGPは、新規に0.8V動作を追加しつつ、古い3.3V動作もサポートし続けている。 |
ただし、3.3V以下の低電圧化をどのように実現するか、という点でPCIはAGPと若干異なる道を歩むこととなった。近い将来のサーバ向けには、AGPと同様に、データ転送レートの引き上げと低電圧化をはかるPCI-X 2.0を用意する一方で、従来のPCIの後継には単に低電圧化するだけでなく、バス全体をシリアル化するPCI Expressの採用を決めたのである。PCI Expressは、デスクトップPCやノートPCだけでなく長期的にはサーバやワークステーションにも用いられることになるハズだ。
次ページでは、サーバ/ワークステーション向けの汎用拡張バス「PCI-X」の概要と、新しいRevision 2.0の高速化手法について解説する。
INDEX | ||
PCI-X 2.0やPCI Expressのインパクト | ||
1.従来のPCIの後継「PCI 3.0」とは? | ||
2.PCI-Xは2.0でさらに高速化 | ||
3. 次世代のI/O規格「PCI Express」は何が変わるのか? | ||
4. PCI Expressの実装方法 | ||
5. PCI-X 2.0とPCI Expressの関係は? | ||
「System Insiderの解説」 |
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