解説
企業クライアントの更新における最適なIT投資法とは? 1. クライアントPCの更新が必要な理由 元麻布春男 |
1999年から2000年にかけて、いわゆる2000年問題への対策の意味もあって、企業には大量のクライアントPCが導入された。それから足掛け4年、そろそろそれらのクライアントPCが更新の時期となっている。しかし、どうもその足取りは重い。おりからの不況で企業は支出を抑制しており、IT予算も決して聖域ではないからだ。
それでは、このままクライアントPCの更新をズルズルと引き伸ばしてよいものなのだろうか。一見すると現在は、4年前の2000年問題のように、クライアントPCを更新する逼迫した切実な理由がないように感じられる。ユーザーが日常的に使っているワードプロセッサや表計算ソフトウェアといった、いわゆるプロダクティビティ・ツールを使う分には、いまのクライアントPCでも満足とはいわないまでも性能は十分足りている、と考える管理者も多いかもしれない。しかし、逼迫した特別な理由がない限り、クライアントPCの更新を先送りしてよいのだろうか。いつまでも古いクライアントPCを使い続けて問題はないのだろうか。ここでは、企業のクライアントPCの導入、特に買い替えに重点を置き、その導入方法について検討してみることにしよう。
1999年当時のクライアントPCとは
1999年にメインストリームだったクライアントPCは、おおむね次のような仕様である。
プロセッサ | Pentium IIまたはPentium III(動作クロック:400〜600MHz) |
チップセット | Intel 440BX/440EX/440ZX/810 |
実装メモリ | Intel 440BX/810:最大512Mbytes |
Intel 440EX/440ZX:最大256Mbytes | |
ハードディスク | 10G〜13Gbytes(Ultra DMA/33対応) |
1999年当時のメインストリーム・クライアントPCの主な仕様 |
この当時のクライアントPCにインストールされていたOSは、Windows 98がほとんどで、Windows 98 Second Edition(日本語版は1999年9月リリース)を搭載しているPCは少数派だろう。企業向けのOSとして、Windows NT Workstation 4.0もリリースされていたが、デバイス・サポートが限定的であったことなどから、クライアントPCでの利用はそれほど多くなかった。現在、企業向けクライアントPCでの採用が最も多いと思われるWindows 2000が登場したのは、2000年2月である。
ここで問題となるのが、マイクロソフトによるOSのサポートが終了してしまうということだ。すでにWindows 95は、2002年12月31日にサポートが完全に終了している。同様にWindows 98とWindows 98 SEは、2005年1月にサポートが打ち切られることが明らかになっている(Windows NT 4.xはそれより早い2004年6月まで)。サポートが打ち切られるというのは、Internet Explorerのような重要な機能を担うアドオン・ソフトウェアが提供されなくなるばかりか、既存のOSに潜むセキュリティホールに対する修正プログラムが提供されなくなるということを意味する。つまり、サポートが終了したOSを使い続けることは、重大なセキュリティ・リスクを負うこととなる。なお、Windows 2000については、新しい「製品ライフサイクル フェーズ」が採用され、2008年3月31日までサポート対象となる。
クライアントPC向けOS | メインストリーム・フェーズ終了日 | 延長フェーズ終了日 | サポート終了日 | |
旧Windowsデスクトップ製品ライフサイクルに準拠 | MS DOS x.xx | N/A | 2001年12月31日 | 2002年12月31日 |
Windows 3.xx | N/A | 2001年12月31日 | 2002年12月31日 | |
Windows 95 | 2000年12月31日 | 2001年12月31日 | 2002年12月31日 | |
Windows NT 3.5x | N/A | 2002年3月31日 | 2003年3月31日 | |
Windows 98/98 SE | 2002年6月30日 | 2004年1月16日 | 2005年1月16日 | |
Windows NT 4.xx | 2002年6月30日 | 2003年6月30日 | 2004年6月30日 | |
Windows Me | 2003年12月31日 | 2004年12月31日 | 2005年12月31日 | |
新しいプロダクト・ライフサイクル・ガイドラインに準拠 | Windows 2000 Professional | 2005年3月31日 | 2007年3月31日 | 2008年3月31日 |
Windows XP Professional | 2006年12月31日 | 2008年12月31日 | 2009年12月31日 | |
Windows XP Home Edition | 2006年12月31日 | 2006年12月31日 | 2007年12月31日 | |
マイクロソフトのクラアイントPC向けOSのサポート期間 | ||||
メインストリーム・フェーズとは、マイクロソフトが提供する現行の全サポート・プログラム (無償サポート、時間制/インシデント制有償サポート、ホットフィックスサポート) を提供するもの。延長フェーズでは、時間制有償サポート、および有償ホットフィックス・サポートのみのサポートとなる。サポート終了日とは、オンラインで提供されるサポート技術情報、FAQ、そのほかの情報の提供も止まる日のことである。 |
その意味で、Windows 98ベースのクライアントPCを2005年1月以降も使い続けることは難しいし、移行に伴う不可抗力のトラブルへの対策に対する準備期間などを考えれば、遅くとも2004年中ごろには移行作業を始める必要がある。つまり、クライアントPCの更新を伸ばしたとしても、あと1年あまりということになる。
もちろん個人ユーザーであれば、プロセッサ・アップグレードやメモリの増設、OSのアップデートを行うことで、延命を図ることも有力な選択肢となるだろう。しかし、数百台、数千台規模で導入されている企業のクライアントPCに対して、このような作業を行うことは、手間1つ考えてもあまり現実的ではない。数百台規模のPCのケースを1台ずつ開けて、メモリを増設していくというのは気の遠くなる作業であり、一部仕様の異なるPCでも混じっていようものなら、作業の複雑性はさらに増大する。
また、メモリの増設1つをとっても、現在主流となっているのはPC2100あるいはPC2700といったDDRメモリであり、4年前のPCで主流だったPC100 SDRAM(それも互換性を考えると64Mbit DRAMチップを用いたもの)は、価格、入手性ともに悪化している。メモリの増設が難しいということは、同時にOSのアップデートが難しい、ということも意味する。Windows 2000やWindows XPを快適に利用するには、256Mbytes以上のメモリを搭載することが望ましいと考えられているからだ。
こうした事情の一方で、PCの価格そのものは着実に低下している。PCは典型的なデフレ製品であり、新製品が登場するたびに性能が向上し、価格は下がる傾向にある。1999年時点における、クライアントPCの中心価格は12万〜15万円程度と考えられるが、現在では15インチ液晶ディスプレイとのセットで10万円を切るものも珍しくない。ディスプレイなしなら5万円を切るPCさえ見られるほどだ。1台のPCのアップデートに要するコスト(上述したハードウェアとソフトウェアの直接コストに加え、ハードウェアのアップグレードとOSのアップデート作業に要する工数)を考えれば、企業におけるクライアントPCの更新は、事実上新しいPCの新規導入しかないといっても過言ではないだろう。既存のシステムのアップデートは、部門やユーザーを限定した特殊な措置としてしかありえないことが分かる。
つまり問題は、更新を先延ばししてもいいのか、もし先延ばしするべきでないとしたら、どんなPCを買うべきなのか、ということになる。これは非常に複雑かつ難しい問題で、一筋縄で答えが出る問題ではない。そこで、ハードウェアについて大きな影響力を持つと同時に、自らも大規模なITユーザー企業でもあるインテルのプラットフォーム&ソリューションズ マーケティング本部の町田栄作本部長と同本部プログラム推進部の矢嶋哲郎部長にお話をうかがった。
3年サイクルでPCを更新しよう
まずクライアントPCの更新サイクルだが、基本的には3年サイクルが望ましいとインテルは考えている。この3年サイクルというのは、3年に1度、すべてのPCをリプレイスするというのではなく、毎年3分の1ずつPCを置き換えていき、3年ですべてのPCが新しくなる、というイメージだ。こうすることで、PCクライアントの置き換えを担当するIT部門の負担を平準化し、新しいPCを導入する際のリスクを軽減することもできる。すべてのPCを一度に更新しない理由としては、そのPCに使われている部品や技術に何らかの問題があった場合に、その影響が全社に及んでしまうというリスクを避けるということもある
少なくともITバブルがはじける前の米国では、ほとんどの大企業でこの3年サイクルのリプレイスが行われていたという。現在は、一部の企業で3年サイクルを伸ばす動きが見られるとのことだが、ユーザー企業としてのインテルはいまでもこの3年サイクルを堅持しているということであった。
クライアントPCの置き換え推移 |
ITバブル崩壊前の米国では、3年サイクルでのPCのリプレイスを実施していた。しかし、2000年以降、そのペースは落ち、2003年では導入後3年以上経ったPCが50%になると予想している。(出典:インテル) |
さて、クライアントPCの更新を先延ばしするということは、2つの点で影響を及ぼす。1つは、翌年更新を迎えるPCが増大すること、そしてもう1つは、企業内に4年目を迎える古いPCを生み出すことだ。例えば、3000台のクライアントPCを持つ企業があったとしよう。前述の「毎年3分の1ずつPCを置き換えていく」という法則に従えば、本来は全クライアントPCの1/3である1000台の更新が必要であったはずだ。しかし、そのうち500台を先延ばししたとすると、翌年は本来更新を迎える1000台に加え、先延ばしした500台が加わり、1500台が更新の候補となる。ここでも500台しか更新しなかった場合、その翌年は2000台が更新の候補ということになってしまう。当然、古いOSを搭載したクライアントPCが増えることになり、前述のようにマイクロソフトのOSサポートが終了してしまうと、平時より大量のPCを一度に更新しなければならなくなる。毎年、平均してクライアントPCの更新を行うということは、IT投資を平均化できるというメリットもあるのだ。
INDEX | ||
企業クライアントの更新における最適なIT投資法とは? | ||
1. クライアントPCの更新が必要な理由 | ||
2. インテルが実践したクライアントPCの導入法 | ||
「System Insiderの解説」 |
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