解説2004年冬のグラフィックス市場を分析する3. NVIDIAに対抗するATIはRADEON X800シリーズ元麻布春男2004/12/09 |
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■既存アーキテクチャをベースに開発されたハイエンドのRADEON X800シリーズ
NVIDIAのラインアップに対抗するATI Technologiesのラインアップのうち、ハイエンドに位置するのがRADEON X800シリーズだ。GeForce 6xシリーズでフルモデルチェンジを敢行、シェーダモデル3.0をサポートしたNVIDIAと異なり、RADEON X800シリーズは既存のアーキテクチャのマイナーチェンジとなっている。RADEON 9700シリーズ、RADEON 9800シリーズと、ATI Technologiesのアーキテクチャがシェーダの性能でNVIDIAをリードしてきたことも、RADEON X800シリーズが既存アーキテクチャのマイナーチェンジになった理由だろう。しかしそれだけではなく、PCI Expressに対応した第1世代のGPUで、フルモデルチェンジすることを避けたかったことも大きな理由ではないかと考えられる(フルモデルチェンジを行ったNVIDIAも、当初はブリッジ・チップでPCI Express対応を行う予定だった)。インターフェイスやコア・アーキテクチャの変更は、開発側にとって大規模な変化であり、それだけリスクも大きいためだ。
したがってRADEON X800シリーズは、レジスタの追加やテクスチャ圧縮に関する新技術の搭載など、拡張はあるものの、基本的にDirectX 9.0bのシェーダモデル2.0b対応となっており、ジオメトリ処理の浮動小数点精度も24bit止まりとなっている。トランジスタ数もGeForce 6800シリーズに比べれば少ない1億6000万トランジスタに抑えられており、ヒートシンクも比較的小さなもので済んでいる。
RADEON X800シリーズは、AGP対応版(開発コード名:R420)と、PCI Express対応版(開発コード名:R423)の2つで構成され、それぞれ共通の3グレードが用意される。最上位はRADEON X800 XT Platinum Editionで、コア・クロックが520MHz、メモリ・クロックが1120MHz(GDDR3)で動作する。中位がRADEON X800 XTで、クロックはそれぞれ500MHzと1000MHzで、この2つのグレードについては16本のPixelパイプライン、6本のVertexシェーダ・ユニットなど仕様は共通しており、違いはクロックだけである。
ATI TechnologiesのRADEON X800 XT |
RADEON X800シリーズの中位モデルに位置付けられるRADEON X800 XTのGPU。コア・クロックは500MHzと、上位モデルのRADEON X800 XT Platinum Editionに比べて若干低くなっている。 |
現時点でRADEON X800シリーズの最下位モデルであるRADEON X800 PROは、コア・クロックを450MHz、メモリ・クロックを900MHzに落としてあることに加え、Pixelパイプラインの数が12本に減少している。ATI Technologiesは、Pixelパイプラインの数をさらに8本まで落とした構成をリリースする可能性を示唆しており、RADEON X800、あるいはRADEON X800 SEといったネーミングになるのではないかと考えられる。
RADEON X800シリーズ | |||
XT Platinum Edition | XT | PRO | |
コア・クロック | 520MHz | 500MHz | 450MHz |
メモリ・バス幅 | 256bit | 256bit | 256bit |
メモリ・クロック | 1.12GHz | 1.0GHz | 900MHz |
Pixelパイプライン数 | 16本 | 16本 | 12本 |
よく聞かれることの1つは、RADEON X800シリーズとGeForce 6800シリーズのどちらが高速なのか、ということだが、これに答えることは非常に難しい。機能的にはシェーダモデル3.0に対応したGeForce 6800シリーズが上に違いないが、アプリケーション・レベルの性能となると、アプリケーションがどちらに最適化したか、どちらのGPUが得意とする処理が多用されているか、といったことにより変わるからだ。いずれにせよ、どちらのGPUもハイエンドに相応しいスペックであることは間違いないし、最上位モデル(NVIDIAのUltraとATI TechnologiesのPlatinum Edition)の入手性は極めて悪い。
■RADEON X600シリーズとRADEON X700シリーズはPCI Expressのみで提供
RADEON X800の下に位置付けられるATI Technologiesのメインストリーム製品は、RADEON X600シリーズ(開発コード名:RV380)およびRADEON X700シリーズ(開発コード名:RV410)だ。2004年の春、Intelのチップセットとほぼ同時にPCI Express対応GPUを発表した際にはRADEON X600シリーズのみだったが、NVIDIAのGeForce 6600シリーズに対し性能面で明らかな差が生じたためか、RADEON X700シリーズが急遽投入されたようだ。本稿執筆時点において市場での流通量が多いのはRADEON X600シリーズだが、すでにRADEON X700シリーズを搭載したカード製品の流通が始まっており、間もなく逆転するものと思われる。
いずれのチップも対応するのはPCI Expressのみで、AGP向けにはRADEON 9000シリーズを継続するというのがATI Technologiesの基本プランだ。RADEON X600は、AGP対応のRADEON 9600(開発コード名:RV360)をベースにPCI Express化を図ったものだといわれており、RADEON X600のAGP版を作るのはナンセンスである。このRADEON X600シリーズには上位のRADEON X600 XTと下位のRADEON X600 PROの2グレードがあるが、4本のPixelパイプライン、128bit幅のメモリ・バスといった主要な機能は同じだ。違うのはクロックのみで、前者がコア・クロック500MHz、メモリ・クロック740MHzであるのに対し、後者はそれぞれ400MHzと600MHzに抑えられている。
これに対して新しくリリースされたRADEON X700シリーズは、RADEON X800シリーズの簡易版と考えられている。Pixelパイプラインが8本に減らされている上、メモリ・バス幅が128bitに抑えられているが、そのほかの主要な機能はほぼRADEON X800のそれを踏襲している(ただし製造プロセスはX800の0.13μmに対し、0.11μmへと微細化されている)。RADEON X700には動作クロックにより、「XT」「PRO」「無印」の3グレードが設定されており、それぞれコア・クロックとメモリ・クロックは475MHz/1050MHz、420MHz/860MHz、400MHz/700MHzになっている。
RADEON X600シリーズ | RADEON X700シリーズ | ||||
XT | PRO | XT | PRO | 無印 | |
コア・クロック | 500MHz | 400MHz | 475MHz | 420MHz | 400MHz |
メモリ・バス幅 | 128bit | 128bit | 128bit | 128bit | 128bit |
メモリ・クロック | 740MHz | 600MHz | 1.05GHz | 860MHz | 700MHz |
Pixelパイプライン数 | 4本 | 4本 | 8本 | 8本 | 8本 |
■ローエンド向けのRADEON X300シリーズ
ATI TechnologiesのPCI Express対応GPUでローエンドに位置付けられるのがRADEON X300シリーズだ。4本のPixelパイプラインを内蔵するRADEON X300シリーズも、RADEON 9600シリーズの派生型ではないかと考えられる。ただ、RADEON X600シリーズよりさらに動作クロックが抑えられている(コア・クロック325MHz、メモリ・クロック400MHz)。RADEON X300シリーズには「無印」と「SE」の2グレードがあるが、クロックの違いはなく、メモリ・バス幅の違いで差別化が図られている(無印が128bit幅、SEは64bit幅)。このRADEON X300と同じグラフィックス・コアは、2004年11月に発表されたATI TechnologiesのPCI Express対応チップセット(RADEON EXPRESS 200)にも採用された。
RADEON X300シリーズ | ||
無印 | SE | |
コア・クロック | 325MHz | 325MHz |
メモリ・バス幅 | 128bit | 64bit |
メモリ・クロック | 400MHz | 400MHz |
Pixelパイプライン数 | 4本 | 4本 |
PCI Express対応で出遅れるそのほかのベンダ
以上がNVIDIAとATIの主要なラインアップだが、この2社以外はまだPCI Expressへの対応ができていない。DirectXの仕様決定に対する影響力も含め、NVIDIAとATI Technologiesの2社がグラフィックス・カード市場で拮抗する構図は当面変わらないものと思われる。ただ、この2社以上に影響力を持つのがIntelであることも間違いない。同社のグラフィックス・ビジネスはチップセット統合型のみで、スタンドアロンのGPUを持たないが、Intel 915シリーズのチップセットに搭載された新しいグラフィックス・コア(GMA900)は、DirectX 9に対応するなど、熱心なゲーマー以外であれば、特に不満のない機能を備えるに至った。内蔵グラフィックス・コアの出力をデジタル化する変換カード(ADD2カード)も登場しており、デジタル出力も可能だ。
デジタル出力カード「ADD2カード」 |
Intel 915チップセットが内蔵するグラフィックス・コアの出力をデジタル出力するADD2カード(リファレンス・デザイン)。x16対応のカードだが、実際の信号線はx2レーン分程度しかない。 |
同時にメモリの帯域も向上しており、以前のように統合型グラフィックス機能では、グラフィックスの性能が低いだけでなく、CPU(メイン・メモリ)の性能まで足を引っ張られる、ということも少なくなった。Intel 915シリーズに内蔵されているGMA900は、DirectX 9に対応しており、次期WindowsのLonghornの稼働条件を満たしている(Longhornに採用されるAeroと呼ばれるグラフィカル・ユーザー・インターフェイスを利用するには、DirectX 9のサポートが必要だとされている)。このままローエンドだけでなく、メインストリーム市場までチップセット統合型グラフィックスに侵食され、グラフィックス・カードはハイエンドにのみ生き残ることになるのか、アップグレード余地も含めグラフィックス・カードが支持され続けるのか、ここ数年で決まることになるだろう。
INDEX | ||
[解説]2004年冬のグラフィックス市場を分析する | ||
1.PCI Expressの登場で変わるグラフィックス市場 | ||
2.NVIDIAのラインアップはGeForce 6xシリーズが主流 | ||
3.NVIDIAに対抗するATIはRADEON X800シリーズ | ||
「System Insiderの解説」 |
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