解説

2004年冬のグラフィックス市場を分析する

1. PCI Expressの登場で変わるグラフィックス市場

元麻布春男
2004/12/09
解説タイトル

 2004年のグラフィックス・ハードウェア市場で最大の話題は、PCI Expressの登場だろう(PCI Expressについては、「解説:PCI-X 2.0とPCI Expressのインパクト」参照のこと)。これまでグラフィックス機能のインターフェイスとして使われてきたAGPに代わり、16レーン(x16)のPCI Expressが6月に登場した。PCI Expressは、ポイント・ツー・ポイントのシリアル伝送技術を採用し、1レーン(x1)で500Mbytes/s(双方向)、グラフィックス用の16レーン(x16)では8Gbytes/s(双方向)という高い実効データ転送レートを誇る。PCI Expressの登場により、次々と新しいグラフィックス・チップ/カードがリリースされている。ここでは、AGP対応とPCI Express対応が混在する2004年末現在のグラフィックス製品を整理することにする。

普及期に入るPCI Express対応グラフィックス・カード

 新しいインターフェイスの場合、どのようなものでも立ち上がりには時間がかかるものだ。登場から6カ月が経過した現時点においても、PCI Express対応のグラフィックス・カードの種類は限定的である。またIntelが、PCI Expressの立ち上げに際して、プロセッサのソケットなどを同時に変更したことも急速な普及に至っていない要因の1つとなっていると思われる。

 PCI Expressをサポートするプラットフォームでは、新しいLGA775ソケットのプロセッサ(プロセッサ・コア自体はPrescottから変更はない)、新しいプロセッサ・ヒートシンクが必須である。また将来性を考えれば、24ピン・コネクタを備えた新しい電源ユニットやDDR2メモリもこのタイミングで移行を行った方が望ましいという状況だ。どうしてもPCI Expressのプラットフォームは割高になる。

 こうした価格面での不利を性能の向上で補えればよかったのだが、残念ながら現時点ではPCI Expressの性能上のメリットを引き出すアプリケーションはあまり多くない。グラフィックス・カード以外のPCI Express対応製品が極めて限られる上、グラフィックスにしてもAGPが明白なボトルネックにはまだなっていないからだ。その上、PCI Expressに対応したハイエンドのグラフィックス・カードがなかなか発売に至らなかったことも、PCI Expressへの切り替えが進まなかった1つの理由だと考えられる。通常、新しい技術は割高になるため、高機能・高性能を求める市場セグメントの上位から浸透するのがこれまでのパターンである。しかしPCI Expressでは、そのセグメントにふさわしいグラフィックス・カードが提供されていない。

ようやく登場し始めたハイエンドのPCI Express対応カード

 ここにきてようやくハイエンド向けのPCI Express対応グラフィックス・カードの流通が始まりつつある。まだ市場には登場していないが、NVIDIAやATI Technologies、VIA Technologies、SiSといったサードパーティ製のPCI Express対応チップセットも発表され、間もなく搭載したマザーボードが発売になると見られている。2004年11月19日にはNVIDIAとIntelの間でクロスライセンス契約も締結され、そう遠くない将来、NVIDIAからIntelのプロセッサに対応したチップセットがリリースされることが期待される。そのチップセットがAGPをサポートしたものになると考える人は誰もいないだろう。いよいよPCI Expressが本格普及する局面を迎えている。

 つまり、PCI Expressの普及前夜とでもいうべき2004年のクリスマス商戦は、ハイエンド市場においてAGPとPCI Expressが共存する最後の時期となりそうだ。次の商機である2005年の夏商戦では、ハイエンドはPCI Expressで占められることになるだろう。現在、グラフィックス・カード向けのGPU(グラフィックス・チップ)市場を事実上2分するNVIDIAとATI Technologiesは、いずれもPCI Expressへの対応を済ませており、開発の軸足はすでにPCI Expressにある。しかし、だからといってAGPシステムのユーザーがPCI Express対応を急ぐ必要はない。すでに述べたように、現時点でのハイエンド・チップにおいてさえ、8xのAGPバスは明確なボトルネックにはなっていない。それに加え、グラフィックス以外のPCI Express対応製品はほとんど存在しないのも実情だからだ。

 AGP対応製品とPCI Express対応製品がしのぎを削る関係上、2004年のクリスマス商戦を彩るグラフィックス・カードは非常に品数が多い。ローエンドからハイエンドまで、それぞれのセグメントごとにAGP版とPCI Express版の両方があるのだから当然だ。しかも、最近はGPUの基本的なグレードを示す数字の型番に加え、末尾のアルファベットでさらに細かい序列が決められるため余計にややこしい。そこで、次ページからNVIDIAとATI TechnologiesのGPUについて見ていくことにしよう。

NVIDIA ATI Technologies
↑ 最上位 Ultra XT Platinum
GT XT
無印 PRO
LE/LX 無印
↓ 最下位 XT SE
表区切り
NVIDIAとATI両社がグレード付けに用いるアルファベット
 
  ハイエンド メインストリーム ローエンド
NVIDIA
チップ名 GeForce 6800 GeForce 6600 GeForce 6200
開発コード名 NV40/NV45 NV43 NV43V
製造プロセス 0.13μm 0.11μm 0.11μm
コア・クロック 325MHz〜400MHz 300MHz〜500MHz 300MHz
メモリ・バス幅 256bit 128bit 128bit
メモリ・クロック 700MHz〜1.1GHz 550MHz〜1GHz 400MHz〜550MHz
Pixelパイプライン 12〜16本 8本 4本
 
ATI Technologies
チップ名 RADEON X800 RADEON X700 RADEON X300
開発コード名 R420/R423 RV410 RV370
製造プロセス 0.13μm 0.13μm 0.11μm
コア・クロック 475MHz〜520MHz 400MHz〜475MHz 325MHz
メモリ・バス幅 256bit 128bit 64bit〜128bit
メモリ・クロック 900MHz〜1.12GHz 700MHz〜1.05GHz 400MHz
Pixelパイプライン 12〜16本 8本 4本
表区切り
2004年冬商戦におけるNVIDIAとATI Technologiesのラインアップ(主要なもの)
 
  関連記事 
PCI-X 2.0とPCI Expressのインパクト
 
 

 INDEX
  [解説]2004年冬のグラフィックス市場を分析する
  1.PCI Expressの登場で変わるグラフィックス市場
    2.NVIDIAのラインアップはGeForce 6xシリーズが主流
    3.NVIDIAに対抗するATIはRADEON X800シリーズ
 
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