解説

IDF Fall 2005レポート
モバイルからサーバまで対応する新マイクロアーキテクチャの概要を発表

1. 消費電力当たりの性能にフォーカスした新マイクロアーキテクチャ

元麻布春男
2005/10/01

解説タイトル

 第17回目となるIntel Developer Forum(IDF) Fall 2005が、2005年8月23日から3日間にわたって米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された。「Multi-Core Platforms. Accelerate Your Future(マルチコア・プラットフォームがあなたの未来を加速する)」というテーマで開催された今回は、これまで社長兼COOだったポール・オッテリーニ(Paul Otellini)氏がCEOに就いて初めてのIDFとなる。と同時に、AppleがIntel製プロセッサを採用すると表明してから最初のIDFでもある。とはいえ、オッテリーニ氏がIDF初日のトップ・キーノートをつとめるのは今回ですでに5回目だ。特に変わった様子もなかった。もちろん、キーノートにAppleのスティーブ・ジョブス(Steve Jobs)氏が招かれるといったイベントもなく、テクニカルセッションを含めApple関連の話題はほとんど聞かれなかった。

消費電力と性能の両立を目指した新マイクロアーキテクチャを発表

 IDF Fall 2005における最大の話題といえば、やはり新マイクロアーキテクチャ(現時点で名称はまだない)の発表ということになる。マイクロアーキテクチャを新しくする狙いは、従来のようにひたすら高性能を目指すのではなく、消費電力1W当たりの性能を目指すよう方向性をあらためる点にある。Intelは新マイクロアーキテクチャを、Pentium Mで使われてきたBanias(バニアス)Dothan(ドーサン)のマイクロアーキテクチャと、Pentium 4/Intel Xeonで使われてきたNetBurstマイクロアーキテクチャを融合させたものだとしている。

 その中核となるのは、高性能OOO(Out of Order)エンジンと呼ぶもので、4命令同時発行、より深いバッファ、14段のパイプラインで構成される。パイプラインの段数はNetBurstマイクロアーキテクチャよりBanias/Dothanのもの(数え方により異なるが11〜13段とされる)に近く、後者をベースにしたものだと推定される。消費電力の低いBanias/Dothanのコアをベースに、64bit拡張(EM64T対応)、仮想化支援技術の「Intel Virtualization Technology(VT)」、セキュリティ機能の「LaGrande Technology(LT)」といったNetBurstマイクロアーキテクチャにインプリメントされる機能を加えたものが新マイクロアーキテクチャの特徴だ。さらに、2つのコアで共有される2次キャッシュを備えているのも大きな特徴の1つで、動的に割り当てることで2次キャッシュ容量を有効に利用することができる。また、2つのコア間で2次キャッシュ間の整合性を取るためのデータ交換が不要になるため、FSBへの負荷を減らすこともできる。FSBへの負荷低減という意味では、異なるコア間の1次キャッシュ同士で直接データをコピーする機能も加わっている。

 この新マイクロアーキテクチャは、2006年末前後にモバイル用途に最適化された開発コード名「Merom(メロム)」、デスクトップ向け「Conroe(コンロー)」、デュアルプロセッサ・サーバ向け「Woodcrest(ウッドクレスト)」の3種類で投入される。それぞれの最適化の違いは、動作クロック、TDP(熱設計電力)、パッケージ形状、FSBクロック、2次キャッシュ容量の組合せになるものと思われる。新アーキテクチャの最大の狙いである消費電力(TDP)だが、モバイルは現在のまま据え置き、デスクトップは65W、サーバは80Wという数字がオッテリーニ社長のキーノートで登場している。Meromに比べてTDPに余裕のあるConroeでは、2次キャッシュ容量が大きい製品が提供される見込みだ。

マルチコア・プロセッサのロードマップ
デスクトップ向けとモバイル向けにはシングルコア製品が残るものの、サーバ向けではすべてがデュアルコア/マルチコアになる。2007年には、IPFが「Tukwila」と「Poulson(ポールソン)」で、Intel Xeon MPが「Whitefield」で4コア以上のマルチコア化が行われることになる。

 これらのプロセッサで用いられるプラットフォーム/チップセットだが、MeromがNapa(ナパ)を使うことが明らかにされている。Napaは、2005年末〜2006年初頭にかけて投入される、モバイル向けのデュアルコア・プロセッサであるYonah(ヨナ)用に用意されるものだ。Intel 945チップセットとIntel PRO/Wireless 3945ABG無線LANモジュールで構成される。

 今回のIDFではConroeに関する情報が極端に少なく、プラットフォームも明らかになっていない。が、もしIDF Spring 2005から計画の変更がなければ、次期デュアルコア・プロセッサのPresler(プレスラー)向けとなるAverill(アベリル)プラットフォーム(ビジネス・クライアント向け)およびBridge Creek(ブリッジ・クリーク)プラットフォーム(コンシューマ・クライアント向け)を用いることになるだろう(「解説:IDF Spring 2005から読み解くIntelのプロセッサ戦略」)。そうなるとデュアルプロセッサ・サーバ向けのWoodcrestも、次の世代のプラットフォームを流用すると考える方が自然だ。デュアルプロセッサ・サーバ向けの次世代プラットフォームはDempsey(デンプシー)プロセッサ向けのBensley(ベンスレイ)プラットフォームで、FB-DIMMに対応したBlackford(ブラックフォード)チップセットを用いる。

Bensleyプラットフォームに準拠したマザーボード
パット・ゲルシンガー副社長がキーノート・スピーチで見せたBensleyプラットフォームに準拠したマザーボード。プロセッサ・ソケットがLGAパッケージ向けになっているほか、8本のメモリ・スロットが用意されている点が印象深い。

 Merom、Conroe、Woodcrestは、それぞれYonah、Presler、Dempseyがリリースされてから1年以内に登場することになっているため、プラットフォームを流用した方が合理的だ。もともとIntelがプロセッサとチップセットを同時に更新することを避ける傾向にあることを考えれば、当然といえるかもしれない。

 この3つの市場セグメントに加え、2007年以降に提供されるマルチプロセッサ・サーバ向けのプロセッサ「Whitefield(ホワイトフィールド)」にも新マイクロアーキテクチャが採用されることが明らかにされた。これまでWhitefieldは、Itaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)と共通プラットフォームを採用する将来のIntel Xeon MPとしてのみ紹介されてきたが、そのマイクロアーキテクチャがどのようなものになるのかは、明らかにされていなかった。

 今回のIDFでは、Whitefieldが新マイクロアーキテクチャを採用した4コアのプロセッサであることが明らかにされると同時に、共通プラットフォーム構想が消えた。IDF Fall 2005の2日目に行われたパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)副社長のキーノートでは、共通プラットフォームを採用するIPF側のプロセッサであるTukwila(タクウィラ)のプラットフォームとして、既存のIntel 870チップセットが位置付けられている。従来語られていたWhitefieldは、NetBurstマイクロアーキテクチャに基づくものだったが、その開発がうまくいかなかった、あるいは性能で新マイクロアーキテクチャ・ベースのものに見劣りした、といった事情があるのかもしれない。

サーバのロードマップ
パット・ゲルシンガー副社長が示したサーバのロードマップ。Intel Xeon MPとItaniumプロセッサの共通プラットフォーム構想が消えていることが分かる。

 いずれにしても、共通プラットフォームがキャンセルあるいは延期されたことで、IPFは従来にも増してメインフレーム用マイクロプロセッサの色合いが強まるだろう。つまり、Hewlett-Packard(HP)、NEC、日立製作所、富士通、SGIといったベンダが中心で、Dellやいわゆるホワイトボックス系のサーバからはIPFは消えることになりそうだ(2005年9月に入って、DellがItaniumプロセッサ搭載サーバから段階的に撤退するという報道がなされている)。

 話をWhitefieldに戻すと、現在公開されているすべての資料において、WhitefieldはWoodcrestより大きな2次キャッシュを持つように描かれている。また、その2次キャッシュは中央で分離されており、2つのコアで1つの2次キャッシュを共有する仕組みになっているようだ。つまり、2次キャッシュを共有した2つのコアが1組となっており、それが2組搭載されているわけだ。それぞれの2次キャッシュ間でデータをコピーする機能があるかどうかは明らかにされていない。

新マイクロアーキテクチャの概要
Whitefieldは、4コアになる。この図では、2コアごとで2次キャッシュが共有されており、それが2組実装される形状となっている。またデュアルコアのWoodcrestに比べて2次キャッシュが2倍程度になることも分かる。

 以上が新マイクロアーキテクチャに関する概要だが、これは少なくとも2世代先の話となる。その前に2005年末から2006年初頭にかけて、次世代の製品が登場する。にもかかわらず、2世代先の話をするというのは、Intelが新マイクロアーキテクチャにかける期待の大きさの現れ、と考えるべきなのだろうか。いずれにしても、Intelが自信を持っていることは間違いなさそうだ。

  関連記事
IDF Spring 2005から読み解くIntelのプロセッサ戦略

  関連リンク
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 INDEX
  [解説]IDF Fall 2005レポート
  モバイルからサーバまで対応する新マイクロアーキテクチャの概要を発表
  1.消費電力当たりの性能にフォーカスした新マイクロアーキテクチャ
    2.影が薄くなった2005年末登場の次世代プロセッサたち
 
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