解説

IDF 2007, Beijingレポート
IntelがIDFで見せた次世代プラットフォーム

3. 次世代マイクロアーキテクチャは2008年に登場予定

元麻布春男
2007/05/08
解説タイトル

2008年には次世代マイクロアーキテクチャ採用プロセッサが登場

 2007年から出荷が始まるPenrynファミリにより、Intelのプロセッサは45nmプロセス時代に突入するものの、そのマイクロアーキテクチャはCoreマイクロアーキテクチャを継承したものである。2008年に登場するNehalem(ネハレム)ファミリのプロセッサは、同じ45nmプロセス製造でありながら、マイクロアーキテクチャを一新したプロセッサとなる。製造プロセスの更新とマイクロアーキテクチャの更新を、1世代おきに行うこの戦略を、IntelはTick-Tock(ティック・タック)モデルと呼んでいる。

IntelのTick-Tockモデル
パット・ゲルシンガー副社長のキーノートで紹介されたTick-Tockモデルの最新版。32nmプロセスの2世代目(新しいマイクロアーキテクチャを採用)の開発コード名が従来のGesher(ゲッシャー)からSandy Bridge(サンディ・ブリッジ)に変更されたが、こうしたコード名の変更は「靴下を替えるように、頻繁にあること」だという。

 そのNehalemだが、まだ登場まで1年余りを残していることもあり、提供された情報は限定的なものだ。現在明らかにされている情報では、Nehalemの同時実行命令数は4個のままで、Coreマイクロアーキテクチャと同じである。このことから考えて、コアの内部(パイプライン)には大きな変更はないことも考えられる。

 逆に大きな変更になることが明らかにされているのは、プロセッサの構成と外部インターコネクトだ。Nehalemは、プロセッサ内部に1〜8個のプロセッサ・コアと、メモリ・コントローラを内蔵する。パッケージ内にいくつのダイを内蔵するのかについての説明はないが、「現在うまくいっている方法(必要に応じ2枚のダイを封入するマルチチップ構成)を変える必然性があるとは考えていない」との声も聞かれた。ストレートに考えると、4個のコアを1つのダイに集積し、8コア版は2枚のダイを1つのパッケージに収める、ということになりそうだが、さらにもうひとひねりある可能性もある。最大8つのコアに加え、NehalemにはNetBurstマイクロアーキテクチャで採用されたHyper-Threadingに類似したマルチスレッド技術が採用され、同時処理可能なスレッド数を最大16スレッドに引き上げるとしている。

 Nehalemでは最大8個のプロセッサ・コアに加えて、メモリ・コントローラが内蔵される。これによりプロセッサとメモリを直結できるため、メモリ向けにプロセッサのFSBを外部に出力する必要がなくなる。そのFSBの代わりとなる外部インターコネクトとして、Nehalemではシリアルバス技術をベースにしたCSI(Common System Interconnect、あるいはCommon Socket Interface)が用いられる。CSIがどのようなものなのか、サードパーティへのライセンス提供はあるのか、といった情報は明らかにされていないが、必要とされる帯域と用途に応じて、1/2/4本のリンクを利用可能だという。物理的なインターフェイスはPCI Expressに近いものになるのではないかと予想されるが、リバース・エンジニアリングを防止するといった点から、完全に同じものになることはないだろう。

 プロセッサの外部インターフェイスがまったく異なるものになることで、Nehalem世代のプロセッサでは、既存のプラットフォームが継承できなくなる。プラットフォームをゼロから用意する必要があるわけだが、その一方でNehalemファミリが採用するCSIは、Itaniumプロセッサ・ファミリもTukwila(ツクウィラ)で採用する見込みだ。TukwilaとNehalemではバイナリ互換性を持たないが、新しいプラットフォーム展開も期待される。

 このNehalemについてはもう1つ、クライアントPC向けのプロセッサでは、グラフィックス・エンジンを内蔵する予定であることも明らかにされている。その性能は、「メインストリーム用途に必要な性能を満たすもの」ということだが、省電力性能が求められるノートPCには望ましい方向性に違いない。このようにNehalemは、プロセッサ・コア数、メモリ・コントローラのチャネル数、さらにはグラフィックス・コアの有無など、必要に応じてスケール可能なデザインが可能だという。そればかりか、動作中も必要に応じてダイナミックにこれらのリソースのオン/オフができるようだ。いずれにしてもNehalemでは、プラットフォームが大きく変更されることが確実であり、Intel自身が「プロセッサとシステムデザインに関してPentium Pro以来の飛躍」になると述べている。

Nehalemの特徴
2008年に登場するNehalemは、設計時、動作時ともスケーラブルなプロセッサになる。

IAベースの拡大を目指すIntel

 以上のようなPC向け、あるいはコンピュータ用途向けのプロセッサの話題以外で注目されたのは、IAプロセッサを非コンピュータ、あるいは伝統的なコンピュータの枠にとらわれないコンピュータへも広げていこうという試みだ。

 今回Intelは、IAベースのSoC(System on a Chip)ソリューションとして通信用途向けのTolapai(トラパイ)、IAベースの高並列アーキテクチャによるアクセラレータのLarrabee(ララビー)の開発を明らかにした。コンシューマ分野向けにもIAベースのSoCチップを2008年に提供するとしている。これら組み込み向け用途について、従来IntelはARMアーキテクチャに基づくXScale製品を展開していたが、プロセス技術の進歩などによりIAアーキテクチャ・プロセッサの低消費電力化が可能になったことで、組み込み用途のプロセッサにもIAアーキテクチャを積極的に活用しようとしている。これら組み込み用のIAアーキテクチャでは、コンピュータ向けの汎用プロセッサから不要な機能を省いたコアが採用されるものと思われる。

Tolapaiが実装する機能
通信用途向けのSoCであるTolapaiは、PCプラットフォーム用のアクセラレータとして用いられる。Intel QuickAssistはIntelのPCプラットフォーム用アクセラレータ技術の総称。
 
Larrabeeの構成
IAベースのテラフロップ・コンピューティング・チップのLarrabee。将来的にはグラフィックス・アクセラレータへの応用なども考えられる。

 コンピュータ向けの汎用プロセッサと、組み込み用途向けIAプロセッサのハイブリッド、とでもいえそうなのがUltra Mobileプラットフォーム向けの製品群だ。IntelはMicrosoftと連携して、Ultra Mobile PC(UMPC)を展開してきたが、市場のレスポンスは熱狂的であるとはいい難い。それでもIntelは、今後もこの分野に積極的に製品展開することで、この市場を育てるつもりのようだ。

 今回Intelが明らかにした2007年のUltra Mobileプラットフォームは、Intel A100/A110プロセッサ(Stealey:スティーリ)とIntel 946GUチップセット(Little River:リトル・リバー)を中核としたMcCaslin(マッカスリン)プラットフォームだ。プロセッサのパッケージがかなり小型化されているものの、アーキテクチャやチップ構成は通常のノートPCとあまり変わらない。展示されていたデモ機もかなり大きめであった。

Ultra Mobile向けプラットフォームのMcCaslin
2007年のUltra Mobile向けプラットフォームであるMcCaslin。パッケージが小型化されるなどの違いはあるものの、新しいプラットフォームというよりノートPCの縮小版という印象が強い。

 これに対し、2008年にIntelが提供しようとするMenlow(メンロウ)プラットフォームは、Silverthorne(シルバーソーン)プロセッサとPoulsbo(ポウルスボ)チップセットで構成される。このMenlowプラットフォームは、ノートPC向けの製品を改良したものではなく、「まったく新規に開発したもの」とされており、モックアップも劇的に小型化されていた。Intelは、ここにWiMAXも統合したいと考えているようだ。

Menlowプラットフォーム採用のモックアップ・モデル
大きさはWindows Mobileを搭載したハイエンド・スマートフォンに近い。

 このMenlowプラットフォームに使われるSilverthorneは、Penrynファミリの5種に続く、6番目の45nmプロセス製造のプロセッサとして開発が進められているものである。Ultra Mobileのようにまだ市場が確立していない製品に最新の製造プロセスを割り当てるのはIntelとしても異例のことだ。それだけこの市場の立ち上げを重視しているということなのだろう。

Ultra Mobileプラットフォーム向けのプロセッサとチップセット
中央がMcCaslinプラットフォーム向けのStealeyプロセッサとLittle Riverチップセット、右がSilverthorneプロセッサとPoulsboチップセットである。

 とはいえUltra Mobileデバイスのような新しいプラットフォームの立ち上げは、ハードウェアだけでは不十分だ。Intelは、ビジネス向けのUltra MobileデバイスをUMPC、コンシューマ向けをMID(Mobile Internet Device)の2つに分けて展開する考えを示した。UMPCは、すでに販売されている製品のように、基本的にWindows OSを搭載し、PCと同様の販売形態をとるのに対し、MIDはOSとしてWindowsのほかLinuxを想定しており、携帯電話キャリアなどによる販売(インセンティブを含んだ販売)も想定している。

 当初はMIDのOSとしてはLinuxを中心に考えていたようだが、社内でもさまざまな議論があり、OSについての縛りをなくす方向性に向かっているようだ。確かにプロセッサ・パワー、メモリ容量とも限られたUltra Mobileプラットフォームで現行のWindows Vistaを動かすことは大きな負担だし、将来的に500ドルで売りたいというデバイスにライセンス料の負担は重い。しかしその一方で、DRMへの対応やさまざまなCODECへの対応を考えるとWindowsの安心感も捨てがたい。最終的な判断は、OEMや販売会社にゆだねられることになるだろう。

 このようにIDF 2007, Beijingでは、この先2年ほどのプロセッサとプラットフォームに搭載される機能などが明らかにされた。次世代マイクロアーキテクチャでは、プロセッサの外部インターフェイスが刷新されることから、プラットフォームを含む大きな変更となることが予想される。Intelでは、2年ごとに製造プロセスを微細化し、その間にマイクロアーキテクチャを刷新するという計画を示している。今後は、毎年何らかの変更が加わることになるわけだ。特に、マイクロアーキテクチャが刷新される2008年は、どのタイミングでシステムを導入すべきなのか、管理者は悩まされそうだ。

 秋のIDFは、2007年9月18日から20日の3日間に渡って、米国サンフランシスコで開催される予定だ。次回のIDFでは、次世代マイクロアーキテクチャの姿がもう少しはっきりとすることだろう。記事の終わり

 

 INDEX
  [解説]IDF 2007, Beijingレポート IntelがIDFで見せた次世代プラットフォーム
    1.2007年に45nmプロセス製造への移行を開始するIntel
    2.見ててきたIntelの次世代プラットフォームの姿
  3.次世代マイクロアーキテクチャは2008年に登場予定

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