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キーワードに見る2002年のサーバ・トレンド

2. 次世代情報システムを表すキーワード

デジタルアドバンテージ
2002/12/07


次世代コンピューティングのコンセプト

 インターネット・ビジネスにおけるサーバ・システムでは、これまで3ティア・モデル(3階層モデル)が望ましいといわれてきた。実際、インターネット証券やインターネット銀行などのインターネット・ビジネスを手掛ける多くの企業が、この3ティア・モデルを採用してきた。しかし、インターネット・ビジネスの拡大とともに、スケールアウトなどの手法により、実に多くのサーバがデータセンターに並ぶことになった。用途などによって種類の異なるサーバがあふれていることから、サーバのメンテナンスやソフトウェアの更新など、システム管理の手間が煩雑になり、管理者の手に負えなくなりつつある。そのため、新たなデータセンターのコンセプトが求められていた。それにこたえる形で、Sun MicrosystemsやIBM、Intel、Hewlett-Packardなどが新たな情報システムのコンセプトを発表している。各社に共通しているのは、情報システムの仮想化と自律型コンピューティングである。

■モジュラー・コンピューティング
 Intelが提唱する次世代のコンピューティング環境の概念。ハードウェアやソフトウェアなどが、自己修復システム/フェイル・オーバー/動的なパフォーマンス最適化などの機能を持ち、自律的に運用されるというもの。2005年ごろにモジュラー・コンピューティングを実現したシステムが構築できるとしている。
 

■N1

 Sun Microsystemsが提唱する次世代の企業情報システム(データセンター)である(「IT Market Trend:第16回 Sunの新たな戦略:N1とは何か?」参照のこと)。サーバやストレージ、ネットワークなどの情報システム資源を「リソース集合体」として仮想化し、リソースを使用する単位をサービスと定義している。ユーザーは、どのようなサービスをどのリソースに割り当てるかといった情報をあらかじめ定義することで、システムの利用を行うことになる。N1では、自動的にリソースが配分され、リソースの管理なども行われる。N1は、以下のロードマップに沿って実装される予定である。
 
フェイズ 段階 内容
フェイズ1 バーチャライゼーション(2002年〜) N1の基本インフラを整備する段階。サーバやネットワーク、ストレージなどを集め、リソースの集合体を形成する。リソースの割り当て、監視、利用測定はシステム側で行う。
フェイズ2 サービス・プロビジョニング(2003年〜) 管理者が特定のビジネス・サービスを定義すると、N1はフェイズ1で構築された仮想コンピュータから自動的に必要なリソースを選び、「格納」を行う。
フェイズ3 ポリシー・オートメーション(2004年〜) アプリケーション・サービスの目的に沿った管理をN1が自動的に実行する。ユーザーが定義したポリシーを利用し、アプリケーションや必要なネットワーク上のリソースの管理を行う。
表区切り
N1のロードマップ
 
■Project eLiza
 IBMが推進する自律型コンピューティングのプロジェクト。現在は、「Autonomic Computing Initiative」に発展している。
 
■Autonomic Computing Initiative
 複雑化するシステム管理を容易にするためにIBMが推進している「自律型コンピューティング」への取り組み。Project eLizaを発展させたもの。Autonomic Computing Initiativeでは、以下の4つの要素によって構成される。
 
要素 機能
Self-Configuring(自己構成) システムの動的な再構成や拡張、ソフトウェアの自動更新などにより、運用に影響を与えることなくシステムの再構成、拡張を実現する機能
Self-Healing(自己修復) 事前の障害分析、故障部分の修復や切り離しなどにより、管理コストを抑えながらシステムの常時稼働を実現する機能
Self-Optimizing(自己最適化) システム・リソースやワークロードを自動的に最適化する機能
Self-Protecting(自己防御) ハードウェアの暗号化などにより不正なアクセスから自動防御する機能
表区切り
Autonomic Computing Initiativeを構成する4つの要素
 
 すでにIBMが提供するシステム運用管理ソフトウェア製品群「Tivoli」などがAutonomic Computing Initiativeへの対応を始めている。
 
■Service Centric Computing
 Hewlett-Packardが提唱する、ユーザーがリソースを意識することなく、必要とするサービスを必要なときに利用できるというコンピューティング環境のコンセプト。Service Centric Computingを実現するインフラストラクチャ・コンセプトが「hp Adaptive Infrastructure」である。
 

■hp Adaptive Infrastructure

 Hewlett-Packardが提唱するService Centric Computingを実現するインフラストラクチャ・コンセプト。システム全体のワークロード・バランス機能などにより、コンピュータ・リソースを瞬時に分析した最適なリソースへのアクセスを確保可能にするインフラストラクチャのこと。hp Adaptive Infrastructureを具現化した大規模データ・センター・ソリューションが「hp Utility Data Center(hp UDC)」である。
 
■hp UDC(hp Utility Data Center)
 hp Adaptive Infrastructureを具現化した大規模データ・センター・ソリューション。
 これまでのデータセンターは、用途の異なるサービスごとにシステムが構築されていたため、環境変更に高いコストが必要になったり、システムの柔軟性が欠けていたりした。こうした問題を解決するため、hp UDCでは、サーバ、ネットワーク、ストレージの機器をすべて仮想化しており、システム管理者はシステムを構築するために必要な機材を仮想域(リソース・プール)から選択することで利用することになる。hp UDCの特徴として、以下のことが挙げられる。

 
特徴 内容
複数ベンダに対応したオープンシステム モジュール式のアーキテクチャを採用しており、複数のハードウェア・ベンダのコンポーネントをサポートする。OSとしては、hp-ux、Windows、Linux、Solarisに対応している。
wire onceソリューション コンポーネントはプラグ・イン形式により接続するだけで、hp UDCの仮想域に登録される。システム構築に必要なリソースは、これら仮想域からhp UDCが割り当て処理を行う。
Webインターフェイス使用のシステム設計 hp UDCは、Webブラウザ・ベースのグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(hp UC portal)によって構成図を作成するだけでシステム構築が可能である。ドラッグ&ドロップの作業でシステムの生成が行え、各接続も画面上で線を引くだけで設定できる。
自動化による一貫したサービス・レベル 可用性の高いミドルウェアの採用とリソースの仮想化による管理で、急なリソースの割り当て変更にも対応可能。自己診断機能によって障害からの復旧など、常に一貫した高いサービス・レベルを提供する。
運用コストの削減 サービスを高度に自動化することで集中管理を可能とし、機器資産管理や運用担当者の工数削減、運用コストの削減などが可能となる。また、データセンター全体のロード・バランスを図り、リソースの最適利用を最大化するため、機器の利用効率を向上する。
表区切り
hp UDCの特徴
 

■PBCS(Policy-Based Computing Service)

 ガートナーが提唱する次世代のコンピュータ・システム。PBCSでは、システムが自己管理や自己修復機能を持ち、業務ルールに基づくポリシーに従って、自己チューニングや資源再配置を行う。Sun MicrosystemsのN1やIBMのAutonomic Computing Initiativeなどと同様のコンセプト。

 日本国内のサーバ市場は、2002年第2四半期から大きな落ち込みを見せている。調査会社のIDC Japanによる「2002年第3四半期の国内サーバ市場動向」によれば、「製品カテゴリ別に見ると、IAサーバの落ち込みが特に激しく、出荷金額は前年同期比18.2%減と、第2四半期の前年同期比23.5%減に続いて大幅な減少を記録している。これで前年同期割れは4期連続となる」という。長引く不況により、IT関連投資が減速していることがうかがえる。一方で、Intel XeonファミリやItanium 2の出荷や、2003年第2四半期に出荷予定のWindows .NET Serverなど、2003年には新たな買い替え需要の発生が期待されている。各社が提案する新たな情報システム・コンセプトなど、これからもサーバには大きな動きがありそうだ。2003年はどういったキーワードが登場するのだろうか。記事の終わり

  関連記事 
第16回 Sunの新たな戦略:N1とは何か?
 
  関連リンク 
次世代ネットワーク・データセンター・ アーキテクチャー「N1」のロードマップを発表
Project eLizaの情報ページ
Autonomic Computing Initiativeの情報ページ
hp Adaptive Infrastructureに関するニュースリリース
hp Utility Data Centerに関するニュースリリース
 

 INDEX
  [キーワード] キーワードに見る2002年のサーバ・トレンド
    1.1.2002年のサーバ動向を表すキーワード
  2.次世代情報システムを表すキーワード
 
 「System Insiderのキーワード」


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