マンスリー・レポートIT市場は自律型コンピューティングに向かうのか?(2002年11月号)デジタルアドバンテージ |
10月は、WPC EXPO 2002やIDF Fall 2002 Japanなどが開催され、年末商戦に向けた製品発表が各社から行われたことで忙しい1カ月となった(IDF Fall 2002 Japanについては、「解説:IDF Fall 2002 Japanレポート 『融合』の先にあるIntelの展望」を参照のこと)。年末商戦向けに、特に家庭向けPCが各社から発表され、サブ/ミニ・ノートPCが充実したのが今月の特徴といえるだろう。
機種名 | 発表日 | 発売日 | 本体サイズ | 重量 | |
ソニー | バイオU PCG-U3 | 9月9日 | 10月26日 | 184.5(W)×139(D)×46.1(H)mm | 約820g |
ソニー | バイオC1 PCG-C1MZX | 9月9日 | 10月12日 | 249(W)×152(D)×30(H)mm | 約998g |
富士通 | FMV-BIBLO LOOX T93B/W/T93B | 10月8日 | 10月19日 | 267(W)×178(D)×36.5(H)mm | 約1500kg |
富士通 | FMV-BIBLO LOOX S80B/W/S80B | 10月8日 | 10月19日 | 231(W)×149.5(D)×26.5(H)mm | 約890g |
ビクター | MP-XP7220EX/XP7220/XP5220 | 10月8日 | 11月中旬 | 225(W)×152(D)×29.5(H)mm | 約895g/約880g |
松下電器産業 | Let'snote LIGHT T1シリーズ | 10月9日 | 11月8日 | 268(W)×210(D)×39.1(H)mm | 約999g/約1045g/約1070g |
松下電器産業 | Let'snote LIGHT R1シリーズ | 10月9日 | 11月8日 | 240(W)×183(D)×37.2(H)mm | 約960g |
シャープ | Mebius MURAMASA PC-MM1-H1W | 10月10日 | 10月26日 | 251(W)×206(D)×19.6(H)mm | 約950g |
2002年冬モデルの主なサブ/ミニ・ノートPC(表全体) | |||||
注) ソニーは9月9日に発表済み |
このように各社からサブ/ミニ・ノートPCがラインアップされるようになったのは、ここ1〜2年のこと。これまでも何度か各社からサブ/ミニ・ノートPCが市場に投入され、そのたびに出荷台数が思ったほど伸びずにラインアップから外されるという流れが続いてきた。今回は製品ラインアップに定着できるのだろうか。
PHSによる定額データ通信の登場や、無線LANの公衆アクセス・ポイントの増加など、サブ/ミニ・ノートPCを持ち歩くことで、どこででもインターネットに接続できる環境が整いつつあることは1つの追い風となるだろう。WPC EXPO 2002のテーマも「ブロードバンド時代― ユビキタス ・ネット社会を拓く―」であり、ユビキタス(情報ネットワークにいつでも、どこでもアクセスできる環境)社会へ向かっていることが伺える。
また、プロセッサ性能やハードディスク容量など、ある程度性能を維持しながら小型化を実現している点が、これまでのサブ/ミニ・ノートPCとは異なる。これにより、本体サイズが小さくても、アプリケーションがある程度快適に動作可能になっている。サブ/ミニ・ノートPCは、現在のところ日本以外の国では販売されていない。IntelのノートPC向け新型プロセッサ「Banias(開発コード名:バニアス)」の登場によって、サブ/ミニ・ノートPCの隆盛が世界的な潮流になれるのか、今後の動向が気になるところだ。
明るい兆しが見えた(?)PC市場
日本国内のPCの出荷台数について、電子情報技術産業協会(JEITA)から2002年度上半期(4月〜9月)の実績値が発表になった。これによれば、総出荷(国内出荷と輸出の合計)は482万2000台と、前年同期比の10%減だという。この結果、3期連続の前年割れとなった。この調査報告によれば、「前年同期比の推移を見ると、平成13年下半期を底として、若干ではあるが、回復基調にある」と述べられており、若干ながらも市場に明るい兆しが見え始めたようだ。なお、全出荷台数に占めるノートPCの比率は57%に達し、半期単位としては最高になっている。これには、各社が投入しているサブ/ミニ・ノートPCも貢献しているかもしれない。
また、Gartner Dataquestから2002年第3四半期の世界サーバ市場の出荷台数(速報値)が発表となっている(Gartner Dataquestの「2002年第3四半期の世界サーバ市場の出荷台数」)。
会社名 | 2002年第3四半期出荷台数 | 2002年第3四半期シェア | 2001年第3四半期出荷台数 | 2001年第3四半期シェア | 成長率 |
Hewlett-Packard | 33万2364台 | 30.0% | 34万9036台 | 32.5% | -4.8% |
Dell Computer | 21万2880台 | 19.2% | 18万201台 | 16.8% | 18.1% |
IBM | 15万3781台 | 13.9% | 15万5803台 | 14.5% | -1.3% |
Sun Microsystems | 6万8193台 | 6.2% | 5万8036台 | 5.4% | 17.5% |
NEC | 2万4291台 | 2.2% | 2万5549台 | 2.4% | -4.9% |
そのほか | 31万4823台 | 28.5% | 30万4111台 | 28.3% | 3.5% |
合計 | 110万6332台 | 100.0% | 107万2736台 | 100.0% | 3.1% |
2002年第3四半期の世界サーバ市場の出荷台数(速報値) |
この結果を見ると、Hewlett-Packard(HP)がCompaqとの合併効果でシェア1位になっている。しかし成長率では、Dell Computerが18.1%と大きく伸びているのに対し、HPは4.8%減と減少傾向にある。
会社名 | 2002年第3四半期出荷台数 | 2002年第3四半期シェア | 2001年第3四半期出荷台数 | 2001年第3四半期シェア | 成長率 |
Dell Computer | 12万8426台 | 26.3% | 10万1330台 | 23.3% | 26.7% |
Hewlett-Packard | 12万6526台 | 25.9% | 12万7183台 | 29.2% | -0.5% |
IBM | 5万7251台 | 11.7% | 4万9205台 | 11.3% | 16.4% |
Sun Microsystems | 3万3967台 | 6.9% | 3万88台 | 6.9% | 12.9% |
Apple | 5700台 | 1.2% | 1525台 | 0.4% | 273.8% |
そのほか | 13万6988台 | 28.0% | 12万6289台 | 29.0% | 8.5% |
合計 | 48万8858台 | 100.0% | 43万5620台 | 100.0% | 12.2% |
2002年第3四半期の米国サーバ市場の出荷台数(速報値) |
米国市場を見ると、Dell Computerが26.7%増と大きく成長しているのに対し、HPは0.5%減と横ばいであったため、シェアは2001年第3四半期の1位(HPとCompaqとの合計)から、2002年第3四半期では2位に転落してしまった。これが、合併時の混乱によるものなのか、それともこれまでの多くの合併企業と同様、ズルズルとシェアを落としていってしまうのか、今後の動向が気になるところだ。
ブレード・サーバが自律型コンピューティングを実現する
HPは、サービス分野の強化を目的にCompaqと合併した。そして、その直接のライバルとなるのがIBMだ。最近のIBMは、自律型コンピューティングを実現する「Project eLiza」を推し進めており、10月だけでも「DB2 Universal Database V8.1」「Tivoli Risk Manager 4.1」「AIX 5L V5.2」といった対応ソフトウェアを発表している(Project eLizaについては「Project eLizaの情報ページ」を参照のこと)。こうした自律型コンピューティングに関しては、Intelが「モジュラー・コンピューティング」、Sun Microsystemsが「N1」として同様に推進している。
モジュラー・コンピューティングでは、ハードウェアとしてブレード・サーバが重要な役割を担うとされる。9月19日に発表したIntelとIBMがブレード・サーバに関して協業することを発表しており、早くもその成果と思われるブレード・サーバ「eserver BladeCenter HS20」がIBMから発表されている。これまでIBMは、RLX Technologiesのブレード・サーバを販売しており、自社開発によるブレード・サーバの発表は初となる。BladeCenter HS20は、ブレード・サーバとはいうものの、ブレードの幅が7Uと大きい。その代わり、Intel Xeon-2.4GHzのデュアルプロセッサ構成が可能となっており、これまでのブレード・サーバに比べて高い性能を実現しているのが特徴だ。
日本IBMのブレード・サーバ「BladeCenter HS20」 |
Intel Xeonの2プロセッサ構成が可能となっている。サーバ・ブレード単体で、ミッドレンジ・クラスに近い性能を実現することになる。 |
IDF Fall 2002 Japanで来日した、Intelの上席副社長 兼 エンタープライズ・プラットフォーム事業本部長のマイケル・J・フィスター(Michael J. Fister)氏によれば、「モジュラー・コンピューティングは、BladeCenter HS20のような性能の高いブレード・サーバによって実現される」という。これまで、ブレード・サーバというと、3Uサイズのエンクロージャに20枚程度のサーバ・ブレードを実装する、どちらかというと高密度の方向に進んできた。しかし、高密度サーバの市場をけん引してきた通信業界が、景気の低迷から投資を縮小していることが影響し、ブレード・サーバの方向性が変わりつつある。これまでの「高密度」から、今後は「高密度かつ高性能」という方向に移っていくだろう。そして、「自動修復」や「自動復旧」「フェイル・オーバー」といった自律型コンピューティングの機能が実装されていくものと思われる。2003年は自律型コンピューティングを実現するためのハードウェアとして、高性能なブレード・サーバが各社から登場することになるだろう。
日本国内の半導体業界の再編
三菱電機がDRAM事業をエルピーダメモリに譲渡した。1999年に富士通はDRAM事業から撤退済み。東芝も、2002年4月にDRAM事業をMicron Technologyに譲渡しており、これで事実上、日本国内のDRAMベンダはエルピーダメモリに集約されたことになる。
1980年代、日本の半導体ベンダが世界のDRAM市場を席捲し、次々と半導体ベンダをDRAM市場から追い出していった。1985年10月には、IntelさえもDRAM事業から撤退することになる(IntelはDRAMベンダとして創業した)。1985年当時、DRAMは64Kbitsから256Kbitsの移行期に当たり、256Kbits DRAMで先行した日本ベンダが一時、世界シェアの80%以上を握ったという。20年も経たずに、日本国内のDRAMベンダがエルピーダメモリ1社だけになるとは誰も予想していなかっただろう。
そのエルピーダメモリも財政的には苦しい状況にある。一部では、「エルピーダメモリがIntelと出資交渉を行っている」と報道されたほどだ。10月4日に会見を行ったIntelのポール・オッテリーニ(Paul S. Otellini)社長 兼 COO(最高執行責任者)は、「エルピーダメモリから要請があれば検討する」と述べるにとどまった。
Intelは、過去にSamsung ElectronicsやMicron Technologyに出資をしていることから、エルピーダメモリに対して出資することも十分に考えられる。ただ、オッテリーニ氏によれば、「Samsung ElectronicsとMicron Technologyの株式はすでに売却しており、現在のところ両社には投資していない」という。Samsung ElectronicsとMicron Technologyへの投資は、Intelが推進していたDirect RDRAMの立ち上げをスムースに行うため、という目的もあった。今回は、そういった直接的な目的はないものの、DRAM市場がSamsung ElectronicsとMicron Technologyの2社による寡占化が進むことを阻止したいという思惑はあるかもしれない。Intelとしては、エルピーダメモリが残ることで、3社体制になった方が市場をコントロールしやすいと思っているのではないだろうか。実際にIntelがエルピーダメモリに対して投資を行うかどうかは分からない。しかし、日本国内に残った唯一のDRAMベンダとして、何とか資金を集めて最新工場を建設し、市場を席捲してもらいたいものだ。
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IDF Fall 2002 Japanレポート 「融合」の先にあるIntelの展望 |
関連リンク | |
2002年第3四半期の世界サーバ市場の出荷台数 | |
Project eLizaの情報ページ |
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