マンスリー・レポート

N1とモジュラー・コンピューティングで情報システムが変わる?(2002年10月号)

デジタルアドバンテージ
2002/10/03


 米国が入学シーズンとなる2002年9月は例年、年末に向けていろいろなイベントが開催され、それに合わせるように各種発表が行わる。今年もIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF) Fall 2002」や、NetWorld+Interopが開催された(IDFについては「元麻布春男の焦点:徐々に明らかになってきた次世代モバイルPCプラットフォーム」参照のこと)。IDFは、Intelが春と秋に世界各地で開催している開発者向けイベントで、米国のほか、日本、台湾、ロシア、中国などでも実施しているものだ。日本では、10月22日から24日まで東京で開催される予定となっている(IDF Japan Fall 2002の概要)。

無線技術に注力するIntel

 IDF Fall 2002では、いくつかの重要な発表が行われている。特にクライアントPCでは、2003年早々に発表が予定されているノートPC向けプロセッサ「Banias(開発コード名:バニアス)」が搭載されたシステムが公開され、注目を集めたようだ。Banias自体のマイクロアーキテクチャについては、相変わらず明らかにされないため、性能や消費電力の面でいろいろな憶測を生んでいるが、システムは順調に仕上がっているようだ。

 ノートPCの全消費電力のうち、プロセッサが占める割合は10%程度ほどといわれている。つまりBaniasによって、これまでの低消費電力版Pentium IIIよりもプロセッサ単体の消費電力が仮に半分になったとしても、システム全体の消費電力は5%しか削減されないことになる。もちろん、Baniasの登場をきっかけにして、各ノートPCベンダともシステム全体の消費電力の削減に励むだろうから、実際にはもう少し消費電力は低減されるだろう。しかし、あまりBaniasを前面にプロモーションしてしまうことで、プロセッサのイメージと実際のノートPCとの間にギャップが生じる可能性がある。これと同様のことは、すでにTransmetaのCrusoeプロセッサとその搭載ノートPCが経験している。そこで、Intelはプロセッサに注目を集めるよりも、むしろ無線LANサポートなどを含むノートPCの機能を前面に押し出すことで、Banias搭載ノートPCを上手に離陸させたいということのようだ。

 Banias搭載ノートPCでも無線LANを標準搭載していくように、最近のIntelは無線ネットワークに力を入れている。前回のIDF Spring 2002ではUWB(Ultra Wide Band)を公開し、今後の短距離無線通信(PAN:Personal Area Network)向けとして強力に推進していくことを表明した。今回のIDFでも、PDAや携帯電話でビデオ・ストリーミングや無線暗号化/復号化、音声認識などの処理を加速させる「ワイヤレスMMX技術」と、家庭内で無線LANを使ってデジタル・メディアの配信を支援する「Extended Wireless PCイニシアティブ」を発表した。どちらもやはり「無線」がキーワードになるものだ。このところIntelは、「コンピューティングとコミュニケーションの融合」をキャッチ・フレーズにしており、「コミュニケーション」の有力な手段の1つに「無線」を位置付けている。そのため、今後ともIntelから無線関連のニュースが多く発表されることになるだろう。

情報システムに変革は起きるのか?

 今回のIDFで、Intelは同社が提唱している「モジュラー・コンピューティング」の方向性に若干修正を加えたようだ。Intelが、「モジュラー・コンピューティング」を提唱した1年ほど前の時点では、どちらかというと「プロセッサやメモリ、I/O、ストレージをLEGOブロックのように組み合わせることが可能なコンピュータ」というハードウェアのコンセプトを前面に出したものであった。しかし今回、「情報システム全体の最適化を実現するためのコンセプト」という形に変わってきている。これはSun Microsystemsの次世代データセンター構想「N1」などが、やはり情報システム全体に対するコンセプトを提唱している影響があると思われる。そのSun MicrosystemsのN1も、ロードマップが発表され、いよいよコンセプトから実際のシステムへの実装段階に入った(N1については、「IT Market Trend:第16回 Sunの新たな戦略:N1とは何か?」参照のこと)。

モジュラー・コンピューティングのコンセプト
ハードウェアとソフトウェアの潮流の先に「モジュラー・コンピューティング」があると述べている。Intelの場合、どちらかというと「サービス」よりも、ハードウェアやソフトウェアといった「モノ」から発想されていることが分かる。
 
モジュラー・コンピューティングに採用される技術
モジュラー・コンピューティングでは、自動修復機能や自動復帰機能などが実装され、自律型の情報システムとなることが分かる。

 どちらのコンセプトも、これまで企業内に用途などに応じてバラバラに設置されてきたサーバやストレージといったハードウェア資源(リソース)を統合し、サービスに合わせて最適配分を動的に行う、というもので、本質の部分ではそれほど違いがない(なお、Hewlett-PackardやIBMも同様のコンセプトを発表している)。例えば、これまで人事向けサーバ、生産管理サーバ、経理向けサーバといったように別々に運用されていたものを集中し、人事、生産管理、経理といったサービスごとにリソースの最適配分を行うというものだ。単にサーバを1台に集約するのではなく、パーティショニング技術などを活用し、あくまで各サービスからは別々のサーバとして見えるのが、これまでのサーバ統合などとは異なる点といえるだろう。こうすることで、期末など経理サービスの負荷が集中する場合は、人事サービスや生産管理サービスに割り当てていたリソースの一部を経理サービスに振り分けるといった柔軟な運用が可能になる。これまでは、各サービスごとにピークの処理量に合わせてリソースを確保する必要があったのが、各サービスを合わせて運用することで、ピークを平均化することができる。これにより、情報システム全体の投資額を削減することも可能になる。また、サーバやストレージなどのリソースが集中管理できるようにもなるため、管理や運用の手間も削減できるはずだ。

 Intelのモジュラー・コンピューティングやSun MicrosystemsのN1などのコンセプトが現実のものとなれば、企業の情報システムは、現在のそれからさらに大きくステップアップすることになるだろう。Sun Microsystemsが発表したN1のロードマップによれば2004年ごろに一応の完成を見るはずだ(Intelも2005年ごろにモジュラー・コンピューティングを実現すると述べている)。インターネットの普及が企業の情報システムに大きな影響を与えたように、モジュラー・コンピューティングやN1によって次はどのように変貌するのか、ここ数年の各ベンダの動きに注目したい。記事の終わり

Pick Up Online Document――注目のオンライン・ドキュメント
Serial ATA final 1.0 specification(Serial ATA Working Group)
対応製品が離陸直前の状態にあるシリアルATA。すでにパラレルATAとの変換アダプタなどが市販されており、製品化への動きが活発だ。またIDF Fall 2002では、次世代のシリアルATA II フェイズ1の草案が発表されるなど、将来に向けた仕様拡張も進んでいる。シリアルATAを導入する前に、まずシリアルATA 1.0の内容を確認しておこう。
オンライン・ドキュメントは「Online DOC Watcher」へ
 
Pick Up Release――1カ月間の主なニュースリリース
サーバ関連
日本IBM、Intel Xeon搭載の1Uラックマウント型IAサーバ「eserver xSeries 335」とPentium 4搭載のエントリ・サーバ「eserver xSeries 205」を発表(2002/09/05)
コンパック、マルチプロセッサ対応ブレード・サーバ「ProLiant BL p-Classシリーズ」を発表(2002/09/09)
6Uのエンクロージャに8枚のサーバ・ブレードが搭載可能なブレード・サーバ。3Uサイズに20枚のサーバ・ブレードが搭載可能なProLiant BL e-Classシリーズに対して、ProLiant BL p-Classではデュアルプロセッサに対応するなど性能面を重視しているのが特徴である。今後は、密度よりも、性能面を重視したブレード・サーバが主流になりそうだ。
日本電気、並列PCクラスタ「Express5800/Parallel PC-Cluster」としてIntel Xeon-2.4GHzを最大2個搭載可能な1Uラックマント・サーバ「Express5800/120Rc-1」を採用(2002/09/09)
SonicWALL、手のひらサイズのファイアウォール/VPNアプライアンス「SonicWALL TELE3 SP」を発表(2002/09/10)
テンアートニ、Linux専用IAサーバ・ファミリにIntel Xeon/Xeon MPを搭載する「NL Server RX」シリーズを追加(2002/09/12)
RLX Technology、Pentium III-M-1.20GHz×1基を搭載するサーバ・ブレード「RLX ServerBlade r1200i」を発表(2002/09/16)英語
沖電気工業、エントリ/ワークグループ・クラスのIAサーバ「if Server ML310/ML350 Generation 3/ML370 Generation 3」を発表(2002/09/19)
IBM、7UサイズにIntel Xeon搭載ブレードが14枚搭載可能なブレード・サーバ「BladeCenter」を発表(2002/09/24)
コンパックのProLiant BL p-Classシリーズと同様、性能を重視したブレード・サーバ。ブレード・サーバとしては初のIntel Xeon搭載機種となる。
 
ネットワーク関連
プラネックス、10/100BASE-TX対応のイーサネット・ポートを4つ装備してロードバランシングが可能なイーサネット・カード「FXP-4TX」を発表(2002/09/02)
ヤマハ、VPNと自動回線バックアップ機能をサポートしたVPNルータ「RTX1000」を発表(2002/09/04)
アライドテレシス、ギガビット・イーサネットの拡張が可能な1Uサイズの24ポート・インテリジェント・スイッチング・ハブ「CentreCOM 8224SL」を発表(2002/09/04)
日本TI、スタンバイ時の消費電力を1/10に抑えたIEEE 802.11b対応無線LANチップ「TNETW1100B」を発表(2002/09/04)
プラネックス、ギガビット・イーサネット対応のレイヤ3インテリジェント・スイッチング・シャーシ「FML-1200」を発表(2002/09/12)
プラネックス、1000BASE-T×24ポートを搭載するギガビット・イーサネット対応スイッチング・ハブ「FMG-24K」を発表(2002/09/12)
プラネックス、1000BASE×2ポートと100BASE-TX×48ポートを搭載するスイッチング・ハブ「FMX-0248K」を発表(2002/09/12)
コンテック、ファイアウォール・ルータ「セキュリティサーバユニット SVR-SEC(FIT)GY」を発表(2002/09/30)
 
ストレージ関連
トラストガード、12基のハードディスク・ベイを搭載することで最大1.92Tbytesの実装が可能なRAIDサブシステム「トラストガード・スターダムR9-12」を発表(2002/09/02)
日立システム、Platypus Technology製のSAN対応半導体ディスク・システムを販売すると発表(2002/09/03)
デルコンピュータ、Intel Xeon-2GHz搭載のファイバチャネル・ストレージ・アレイ「Dell | EMC CX600」を発表(2002/09/06)
日本マックストア、プラッタ当たり80Gbytesのハードディスク「DiamondMax 16」「DiamondMax Plus 9」を発表−−容量80Gbytesから160GbytesでシリアルATA対応モデルも準備(2002/09/06)
Maxtor、平均故障時間が100万時間以上のエンタープライズ向けATAハードディスク「MaXLine」シリーズを発表−−最大容量は320Gbytes(2002/09/10)
IDEハードディスクにもサーバ向けモデルが登場。サーバへのIDEハードディスク搭載が加速することになるだろう。
ロジテック、ギガビット・イーサネット対応のボックス型NAS「LAS-RA240N/H」「LAS-RA160N/H」を発表(2002/09/11)
Intel、Ultra320 SCSIやシリアルATA、2Gbitファイバ・チャネルなどに対応するRAIDコントローラ4種を発表(2002/09/12)
Intelもストレージ市場に参入。シリアルATA対応のRAIDコントローラ・カードなどエントリ・サーバ向けから、最大256台のデバイスをサポートするファイバ・チャネルRAIDコントローラまで4種類をラインアップする。
シリアルATAワーキング・グループ、シリアルATA II仕様の第1段階のドラフトを発表(2002/09/12)
主にサーバ向けに拡張されるシリアルATA規格「シリアルATA II」のドラフト仕様がメンバーに公開された。シリアルATAならびにシリアルATA IIについては、http://www.serialata.orgを参照のこと。
デルコンピュータ、2Uサイズのテープ・オートローダ対応LTOドライブ「PowerVault 122T オートローダ LTOモデル」を発表(2002/09/17)
日本HPとコンパック、LTO Ultrium対応のエンタープライズ向けテープドライブなどSAN対応製品群を発表(2002/09/18)
日立製作所、RAIDに対応するデータ消去ユーティリティ「CLEAR-DA RAID」を発表(2002/09/19)
ネットジャパン、BigDriveやハードウェアRAIDに対応したパーティション操作ツール「PartitionMagic 8.0」を発表(2002/09/25)
デルコンピュータ、最大4.8Tbytesのバックアップが可能なLTOテープ・オートローダ「PowerVault 132T」を発表(2002/09/26)
 
プロセッサ関連
インテル、ネットワーク・アクセス/アプリケーション向けのプロセッサ2種を発表−−XScaleコアの「IXC1100コントロール・プレーン・プロセッサ」と「低電圧版Intel Xeonアプリケーション/サービス・プロセッサ」(2002/09/04)
Intel、XScale向けマルチメディア命令セット「ワイヤレスMMXテクノロジ」を発表(2002/09/11)
XScale向けのSIMD命令セットを発表した。XScaleのベースとなっているARMプロセッサが実装するSIMD命令とは互換性がない。今後、IntelがARMプロセッサのSIMD命令とどのように互換性を確保していくのかに注目。
インテル、デュアルプロセッサ構成に対応するサーバ/ワークステーション向けプロセッサ「Intel Xeon-2.60G/2.80GHz」を発表(2002/09/12)
AMD、プロセッサのロードマップを更新(2002/09/13)
大きな図x86-64アーキテクチャ対応の開発コード名「ClawHammer(クローハマー)」で呼ばれているAMD Athlonの出荷を、これまでの2002年第4四半期から2003年上半期に延期。また、512Kbytesの2次キャッシュを搭載する開発コード名「Barton(バートン)で呼ばれるAMD Athlon XPも、2002年第3四半期から第4四半期以降に延期となっている。
インテル、モバイルPentium 4-2.20GHz-MなどノートPC向けプロセッサ11製品を発表(2002/09/17)
Sun Microsystems、0.13μmプロセスのRISCプロセッサ「UltraSPARC III-1.2GHz」を発表(2002/09/18)英語
インテル、Celeron-2.0GHzを発表(2002/09/19)
日本AMD、ノートPC向けプロセッサ「モバイルAthlon XP-1900+/2000+」を発表(2002/09/24)
 
そのほか
Conexant、IntersilからIEEE 802.11b対応無線LAN技術の提供を受けることで合意−−IntersilのPRISMチップを次世代DSLモデム・チップに統合(2002/09/03)
ガートナー ジャパン、2002年第2四半期の日本国内サーバ市場の動向を発表−−対前年同期比で台数17.7%減、金額23.2%減の大きな落ち込み(2002/09/05)
Intel、システム管理ツール「LANDesk」製品事業部をベンチャーキャピタルに売却(2002/05/09)
LANDeskは、Hewlett-PackardのOpenViewと並びシステム管理ツールとしては老舗のソフトウェア。残念ながら、Intelの事業整理の対象となってしまったようだ。この分野は今後さらに伸びる市場であると考えられることから、むしろIntelから離れたことが幸いするかもしれない。
Intel、2002年第3四半期の業績見通しを発表−−売上高63億〜67億ドルと予測(2002/09/06)
Intel、PCI Express対応機器の開発を支援する「Intel Developer Network for PCI Express technology」を発足(2002/09/10)
AMD、同じ面積に現在より10倍の個数のトランジスタを集積できるダブルゲート・トランジスタを製造したと発表(2002/09/10)
Intel、家庭でのデジタル・メディア配信システムの開発を支援する「Extended Wireless PC Initiative」を発足(2002/09/10)
Intel、AGP 8xを含む次世代グラフィックス・インターフェイス規格「AGP 3.0」を発表(2002/09/12)
IntelとIBM、ケースやネットワーク、管理システムなどを含むブレード・サーバ・システムを共同開発する意向を表明(2002/09/17)英語
Intel、90nmプロセス技術にシリコン・ゲルマニウム・トランジスタとミックスド・シグナル回路などを拡張する計画を発表(2002/09/17)
Sun Microsystems、デスクトップPCにLinuxをインストールしたクライアントPCを発表(2002/09/18)英語
Intel、3次元構造のトランジスタ「トライ・ゲート・トランジスタ」を開発(2002/09/19)
オムロン、UPS電源2機種を発表−−出力容量1KVA/700Wの「BU100XR2」と2KVA/1.4KWの「BU200XR2」(2002/09/20)
Sun Microsystems、次世代データセンター構想「N1」を実現するロードマップを発表(2002/09/20)
Dell、プリンタの開発と製品化でLexmarkと提携(2002/09/24)
Dell ComputerがLexmarkと提携した。当面は、Lexmarkのプリンタを販売することになるが、将来的にはDellブランドのプリンタを共同で開発、販売を行うという。Hewlett-PackardとCompaqの合併に伴い、HP製プリンタの販売代理店契約が打ち切られたため。
 
ニュースリリースは「2002年9月1日〜15日」「2002年9月16日〜30日」へ
 
 
 
 「System Insiderの連載」


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