マンスリー・レポート

Dellはいつまで勝ち続けるのか?(2002年12月号)

1. COMDEXの凋落とDellの躍進

デジタルアドバンテージ
2002/12/04


 毎年11月は、米国ではクリスマス商戦に、日本ではボーナス商戦に向けて、各メーカーから最後の製品発表が行われる。また、米国ネバタ州ラスベガスではCOMDEX Fallが開催され、ここでの製品発表が1年の締めくくりに花をそえることになる。ところが今年は、COMDEX Fall 2002開催の直前に、これを主催するKey3Media Eventsの親会社であるKey3Media Groupに破産の可能性があるとの報道がなされ、お祭りムードに水を差す結果となってしまった。結果的には、COMDEXは無事に開催され、Key3Mediaが予定している2003年のイベントもいまのところはキャンセルはないようだ。しかし以前と比べて、COMDEXの地位が大きく下がったことが、Key3Media苦境の大きな要因になっていることも否定できないだろう。

 5〜6年前までは、秋のCOMDEXといえば、日本からも大量の取材陣がラスベガスに送り込まれるというのが一種の風物詩になっていた。あまりに多くの記者が米国に渡ってしまうため、メーカー関係者の間では「COMDEXと同時期に日本国内で記者発表会をしても参加する記者が少なくて意味がない」とまで言われていたほどだ。しかし今年はといえば、COMDEXと同時期に東京都内で開催された記者発表会においても、記者の顔ぶれはいつもとほとんど変わらなかった。もちろん、COMDEXの地位が低下したというばかりでなく、出版不況のあおりで気軽に海外出張ができなくなったとか、インターネットの普及で米国内のニュース・サイトからほぼリアルタイムに情報が入手できるため、わざわざ現地に足を運ぶ必要がなくなったということもあるだろう。とはいえ、古くからCOMDEXの輝きを知る者としては、その凋落がIT不況を象徴しているようで、少々さびしい思いもする。

Dell Computer初のPocket PC「Axim X5」
上位モデルのAdvancedは349ドルと、他社とほぼ同スペックながら200ドル近く安い価格に設定された。コンパクトフラッシュ・スロットとSDメモリーカード・スロットを装備し、内蔵バッテリの交換が可能など魅力的な仕様となっている。

 さて、そのCOMDEX Fall 2002での発表だが、世界的に最も注目されたのはDell Computer初のPocket PC「Axim X5」ではないだろうか。特に、価格は戦略的な値段付けになるといわれていたことから、メディア関係者のみならず、ライバル各社も非常に気にしていた。その価格は予想どおり、XScale-400MHz搭載の上位モデル(Advanced)は349ドル、XScale-300MHz搭載の下位モデル(Basic)は249ドルと他社製品と比べて200ドル近く安いものであった。さらに、パッケージに同梱のハガキを送ることで、50ドルのキャッシュバック(50ドルの小切手が送られてくる)があるので、実質的にはAdvancedが299ドル、Basicが199ドルということになる。ただし残念なことに、当面は米国内での販売のみで、日本国内での販売は行われないようだ。仕様と価格の両面とも魅力的な製品なので、日本国内でも早期に販売してもらいたい。

Dell一人勝ちの構図

 そのDell Computerだが、各社が景気後退の影響を受ける中、相変わらずの好調が続いている。11月14日にDell Computerが発表した2002年度第3四半期(2002年8月3日〜2002年11月1日)の業績は、売上高91億4400万ドルと前年同期比で22%の伸びとなっている。さらに驚くべきは、営業利益が7億5800万ドルで、前年同期比39%と売上高よりも高い伸びを示している点だ。これは収益率が高まっていることを示している。

 業界平均に比べて高い成長率を示していることに対し、ニュースリリースの中でDell Computer会長兼最高経営責任者のマイケル・デル(Michael Dell)氏は、「お客様のニーズが標準ベースのコンピューティングへシフトしていることは明らかです。その理由はシンプルです。それは、標準技術が独自の占有技術の場合に比べ、お客様の投資に対し、より高い柔軟性や優れた性能、信頼性を実現するからです。」と述べている。これは、ユーザーのRISC/UNIXサーバなどからIAサーバへの移行の流れをDell Computerがキャッチした結果である、とも読み取れる。しかし、IDCの「2002年第3四半期の世界市場におけるサーバ・ベンダの売上高」によれば、シェアは以下のようになっており、一概にIAサーバへの移行だけが成長率の高さの源泉ではないようだ。

ベンダ 2002年第3四半期 シェア 2001年第3四半期 シェア 成長率
IBM 31億5200万ドル 29.75% 31億6400万ドル 28.20% -0.4%
Hewlett-Packard 28億8100万ドル 27.19% 34億2000万ドル 30.48% -15.8%
Sun Microsystems 12億8000万ドル 12.08% 13万2500ドル 11.81% -3.4%
Dell Computer 9億2000万ドル 8.68% 8億5600万ドル 7.63% 7.5%
富士通 4億1300万ドル 3.90% 43億300万ドル 3.86% -4.6%
そのほか 19億4800万ドル 18.40% 20億2300万ドル 18.02% -3.7%
合計 105億9400万ドル 100% 112億1900万ドル 100% -5.6%
表区切り
2003年第3四半期の世界市場におけるサーバ・ベンダの売上高(出典:IDC)

 このように上位5社のうち、IAサーバを積極的に扱っていないのはSun Microsystemsだけで、逆にIAサーバしか扱っていないのはDell Computerだけである。残りの3社は両方を手掛けている。マイケル・デル氏が述べるように、独自の占有技術(RISC/UNIXサーバ)から標準技術(IAサーバ)へのシフトが起きているとすれば、Sun Microsystemsの成長率は、市場全体よりも大きく落ち込むはずだ。Sun Microsystemsの成長率が前年比3.4%減となっていることから考えて、RISC/UNIXサーバからIAサーバへのシフトが起きていることは間違いないだろうが、それだけがDell Computer好調の要因ではなさそうだ。この一方で、ほかのIAサーバ・ベンダからDell Computerへのシフトも起きていると考えられる。

 IAサーバは「標準ベース」であるため、ハードウェアだけに注目すればベンダごとの差異は小さい。特に売れ筋のエントリ・サーバからミッドレンジ・サーバまでは、各ベンダともに機能的な差が小さくなってきているため、価格面が重要視されがちである。その点、低価格が売りの1つであるDell Computerにとって、有利な市場となりつつあるのは間違いない。また、ユーザーがWindows NT/2000 ServerによるIAサーバの運用にも慣れ始め、ユーザー自身でソリューションの構築や運用を行うようになってきたことも理由として挙げられるだろう。Windows NT/2000 ServerによるIAサーバの運用に不慣れなうちは、ユーザーとしても不安があるため、多少コスト高になっても、歴史的にソリューション構築やサポートで実績のあるIBMやHPといった老舗ベンダを選ぶ傾向が強い。しかし、ソリューション構築を終え、運用にも慣れてきて、ベンダのサービスなしでも自分である程度管理が可能になったと思ったとたん、システム価格の安いDell Computerの製品が魅力的になってくる。つまり、ことエントリ・モデルについていえば、IAサーバもクライアントPCと同じような観点で選ばれる対象になってきたと考えられる。クライアントPCでの強みが、IAサーバにも及んできている。これがDell Computerへのシフトの原動力だろう。

 Dell Computerの快進撃は当分続きそうだが、その足元では新たな動きも起きている。「デル・モデル」と呼ばれる直販モデルは、ほかの大手ベンダ製品と比較すると、コスト競争力は非常に強力ではある。しかし米国では、このところ「ホワイト・ボックス」と呼ばれる、中小のPCショップなどが組み立てたクライアントPCの販売数が急速に伸びているという。ホワイト・ボックスは、Dell Computerの製品よりも安い上、ユーザーの好みにあったパーツをより柔軟に選択できるなどの自由度も高い。こうした状況を無視できないと考えたのか、Dell Computerも米国ではテスト的にホワイト・ボックス市場向けのベース・システムの出荷を開始しているほどだ。こうした流れが、IAサーバにも波及しないとは限らない。むしろ、Intelがホワイト・ボックス市場向けにサーバ用マザーボード単体の拡販を開始していることから、近いうちに大きな流れになるとさえ予想される。

 万難を排して、Dell Computerが多くの分野で独占的なシェアを獲得できる可能性もある。しかしそのときには、フロントランナーとして、向かい風を一身に浴びながら新たな市場開拓を迫られることになるだろう。これまでDell Computerは、優秀なセカンドランナーとして次々と市場を獲得してきた。だれかが開拓した市場に対し、強力な価格モデルを持って参入し、圧倒的なコスト競争力によってその市場を奪ってきたわけだ。このシナリオは、今回のPocket PC市場への参入を見ても明らかだ。しかし当然ながら、ナンバー1の地位を獲得すれば、セカンドランナーではいられなくなる。追いかける側から追われる側になるわけだ。既存市場には、もはやDell Computerの成長を支える余地はない。従って継続的な成長を目指すには、Dell Computer自身が新たな市場を切り開かなければならない。ユーザーとしては、さらに一回り大きな「Dell神話」の登場を期待したいところだが、それには大変な試練が伴うことだけは間違いなさそうだ。

 さて、次ページからは11月のそのほかのニュースを拾っていこう。

  関連リンク
2002年第3四半期の世界市場におけるサーバ・ベンダの売上高
 

 INDEX
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  1.COMDEXの凋落とDellの躍進
    2.動き始めたAMDとIntel
 
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