マンスリー・レポート2003年のサーバ市場を予感させた1月(2003年2月号)デジタルアドバンテージ |
ここ数年、新年はIntelの製品発表で明けることが多くなった。これは、新年早々にInternational CES(Consumer Electronics Show)が開催されるようになり、それに合わせてIntelが製品発表を行っているためだ。International CESは、以前はその名のとおり家電製品やAV機器を中心とした展示会であったが、ここ数年は家庭向けのコンピュータ関連製品(これらも一種の家電ではあるが)を中心とするものに変化してきている。それを表すように、Microsoftのビル・ゲイツ(Bill Gates)氏、Intelの最高経営責任者クレッグ・バレット(Craig Barrett)氏、Texas Instrumentsの最高経営責任者トム・エンジバス(Tom Engibous)氏といった、コンピュータ業界のリーダーがキーノート・スピーチをしている。
Intelは、クレッグ・バレット氏のキーノート・スピーチに合わせ、新しいモバイルPC向けプラットフォーム「Centrino(セントリーノ)」を発表した。これまでは、新製品とはいえ、Celeronの動作クロック品など、Intelの戦略上の重要な製品がInternational CESで発表されたことはなかった。しかし2003年は、単なる新しいモバイルPC向けプラットフォームのブランドとはいえ、今後の大きな収益を見込むモバイルPC向けプロセッサに関連するものであり、例年になくInternational CESに気合が入っていたようだ(それとも2003年にかける意気込みなのだろうか?)。
このCentrinoは、これまでのようなプロセッサのブランドではなく、「チップセットなどを含むプラットフォーム全体を表すもの」である。具体的には、これまで開発コード名「Banias(バニアス)」で呼ばれてきたプロセッサ「Pentium-M」と、専用チップセット「Intel 855」、無線LAN技術「Intel PRO/Wireless」を含むものであるという。つまり、Pentium-Mにサードパーティ製チップセットを組み合わせた場合には、Centrinoというブランド名は使えないことになる。Centrinoは、薄型・軽量の持ち運んで使うことをメインとするノートPC(モバイルPC)向けのプラットフォームである。CD-ROMドライブを内蔵し、省スペース・デスクトップ代わりとなるようなノートPCは、モバイルPentium 4-Mが採用されることになる。
これまでCentrinoの無線LAN技術は、IEEE 802.11a/bの両対応になるとしていたが、幾つかの問題から当面はIEEE 802.11bのみの対応となるようだ。そのため、ノートPCベンダの中には、無線LANチップをIntelのものから他社製へと変更し、IEEE 802.11a/bの両対応やIEEE 802.11g対応にしたいと考えるところもあるだろう。このような組み合わせで、Centrinoというブランドが利用できるのかどうか、現時点では明確になっていない。Intelは、プロセッサである「Pentium-M」ではなく、プラットフォームである「Centrino」を前面に押し出してプロモーションを行う予定である。そのため、「Pentium-M搭載ノートPC」というのが、どういった製品なのか判断できず、ユーザーが混乱をきたす可能性がある。混乱を防ぐためにもIntelには、製品出荷前までにベンダとユーザーの双方にブランド名の基準を明確に示してほしいものだ。
なおCentrinoの正式発表は、2003年3月中と予告されている。2003年3月12日〜19日にドイツのハノバーでCeBIT 2003が開催されるので、これに合わせて3月11日前後に正式発表になると思われる。
弾みがつくItaniumプロセッサ・ファミリの普及
Intelの話題としては、「Itaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)のロードマップの変更」と、「富士通とIntelがミッションクリティカル領域向けサーバ開発で協業」の2つを取り上げないわけにはいかないだろう。ロードマップの変更では、2005年にデュアル・コアの開発コード名「Montecito(モンテシト)」が導入されることが明らかになった。大量のトランザクションを処理するサーバなどでは、大幅な性能向上が期待できる。また、富士通との協業によってIPFによるミッションクリティカル領域向けサーバの開発が加速されるとともに、IPFのライバルであるSPARCを推進する富士通との協業に成功したという点でも重要な出来事といえるだろう。詳細については、「解説:変更されたItaniumプロセッサのロードマップに見るIntelの思惑」と「解説:動き出した富士通のIA/Linuxサーバ戦略」を参照していただきたいが、これによりIPFの普及に弾みがつくのは間違いないだろう。
IPFの新しいロードマップ |
Montecitoが2005年に延期され、代わりにMadisonの3次キャッシュを9Mbytesに増量し、動作クロックを向上させたMadison 9Mが2004年に追加された。 |
AMDのプロセッサ・ロードマップ変更の意味
AMDは、1月31日にプロセッサのロードマップ変更を発表した。今回の変更では、2003年前半に発表予定であったデスクトップPC向け64bitプロセッサ「AMD Athlon 64」が2003年9月に延期された。その一方で、サーバ向けの64bitプロセッサである「AMD Opteron」は、2003年4月22日に発表することを明らかにした(AMDの「AMD Opteronの発表について」)。さらにこのニュースリリースによれば、開発コード名「Barton(バートン)」で呼ばれていた、2次キャッシュを増量したAMD Athlon XP-3000+を2003年2月10日に、AMD Athlon XP-3200+を2003年中ごろにそれぞれ発表するという。
AMDの新しいプロセッサ・ロードマップ |
1月31日に更新された新いプロセッサ・ロードマップでは、2003年前半の発表予定であったAMD Athlon 64が、2003年9月に延期となった。 |
何とかサーバ向けのAMD Opteronは、スケジュールを堅持した形だ。ただ、サーバ市場は非常に保守的であり、新技術を採用した製品はなかなか普及フェイズに入らないものだ。Itaniumの例を挙げるまでもなく、製品の出荷が始まっても、1年程度は検証期間となってしまい、実際にはそれほどの数は出荷されない。また、AMDはAMD Opteron/Athlon 64を思ったほど製造できないため、少量しか出荷予定のないサーバ向けが優先されただけのような気もする。もちろん、サーバ市場で最後発となるAMDにとっては、これ以上出荷を遅らせられないという事情もあるだろう。64bitサーバ向けプロセッサでは、Intelが前述のように着々と地固めをしている。それに対して、AMDはどのような戦略でサーバ・ベンダを切り崩していくのか気になるところだ。
さて、このロードマップ変更に先立つ1月9日に、AMDは次々世代の製造プロセスである65nmプロセスでIBMと共同開発を行うと発表している。AMDは、2002年1月31日に台湾のファウンダリー(受託半導体製造会社)であるUMCと共同で製造会社を設立し、65nmプロセスによるプロセッサの製造を行うとしていた(AMDの「UMCとの合弁会社設立について」)。UMCと65nmプロセスを共同開発しながら、IBMとも別に同じ製造プロセスの開発を行うことは考えられない。このことから、UMCとの65nmプロセスの共同開発は中止になったと考えてよいだろう。つまり1年あまりで、このUMCとの合弁会社の計画が事実上、頓挫したことになるわけだ。製造工程の不安は、ここ数年AMDのアキレス腱になってきた。製造能力では圧倒的な強みを持つIntelと対抗し、戦略的かつ安定的な製品供給を実現するには、ぜひとも克服しなければならない弱点である。こうした製造面での戦略の揺れが、プロセッサのロードマップに悪影響を与えないことを願いたい。
日本HPのIAサーバの二極化戦略とは
最後に、1月8日に日本HPが発表したIAサーバに関する二極化戦略についても触れておこう(日本HPの「IAサーバの二極化戦略について」)。ポイントは、ボリューム・ビジネス領域とバリュー・ビジネス領域に分けて、それぞれで異なる戦略を適用するというもの。エントリ・サーバを中心としたボリューム・ビジネス領域では、デルコンピュータに対抗して、低価格戦略で出荷台数を稼いでいく。ハイエンド・サーバを中心としたバリュー・ビジネス領域では、NECや富士通、日本IBM、サン・マイクロシステムズなどのベンダに対抗し、ソリューションとサービスで差別化することで付加価値を高めて販売し、利益を確保しようというもの。
デルコンピュータが、ハイエンド・サーバ領域においても、低価格を武器にシェアの確保を目指している。一方で、NECや富士通、日本IBMなどのハイエンド・サーバですでに多くの実績を持つベンダは、その実績と独自のソリューションを武器にさらにシェアの拡大を目指している。エントリ・サーバ領域では、インテルがVARやSIer向けにホワイトボックス製品を販売するなど、さらなる低価格化が進行しそうだ。そういったことを考えると、この二極化戦略が思惑どおりにいくのか少々疑問も感じる。むしろ、いまは商品力の高いハイエンド・サーバを中心に展開することで、「技術とソリューションの日本HP」というイメージをユーザーに浸透させることが重要であるような気がする。2003年は、日本HPとコンパックコンピュータの合併の成否が試される年でもあるので、こうした疑念を吹き飛ばすような快進撃を見せてもらいたいものだ。
Pick Up Online Document――注目のオンライン・ドキュメント |
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