特集

x86互換の64bitプロセッサ「AMD Opteron」の実力と課題

―― AMDの64bitプロセッサ戦略とAMD Opteron搭載サーバを評価する ――

元麻布春男/デジタルアドバンテージ
2003/07/24

 この2003年4月、ついにAMD64アーキテクチャに基づくプロセッサが発表された。それまでx86-64テクノロジと呼ばれていた「AMD64」は、AMDが独自開発した、32bitと64bitのハイブリッドとでもいうべきマイクロアーキテクチャである。その最初の製品が、サーバ/ワークステーション向けの「AMD Opteron」である。2003年9月23日(米国時間)には、デスクトップPC向けの「AMD Athlon64」が追加リリースされる予定だ。

AMD64とは

 AMDが、64bitのマイクロアーテキチャを採用する次世代プロセッサの概要を発表したのは、1999年10月のことである。当初は、2002年末に出荷を予定していたものの、約1四半期遅れの2003年4月23日に第1弾の製品として「AMD Opteron(オプティオン)」が出荷となった。新しい命令体系をサポートするプロセッサでありながら、概要発表から2年半という比較的短い期間で製品の出荷に漕ぎ付けたのは、後述のようにx86命令を拡張することで64bit化を実現したからだろう。Intelの64bitアーキテクチャであるItaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)は、概要の発表(1997年10月9日)から初代Itaniumの製品出荷(2001年6月)まで、3年8カ月もかかっていることを考えれば、AMD Opteronの立ち上げの速さが分かるだろう(Intelも、当初はItaniumを1999年中に出荷する予定だった)。これは、x86命令の延長線上で64bit化したことにより、64bitのアプリケーションを新規で揃える前に製品出荷が可能であることが大きな要因ともなっている。

 さて、このAMDの64bitアーキテクチャは、これまでの「x86-64テクノロジ」と呼んでいたが、AMD Opteronの発表に合わせ「AMD64 ISA」と正式に名付けられた。同時に、「Hammer(ハマー)」と呼んでいたプラットフォーム名を「AMD64プラットフォーム」とした。

 AMD64 ISAの最大の特徴は、既存のx86命令をベースに64bitモードと64bit命令を追加したことにある。Intelが、IPFでEPICと呼ぶ、まったく新しい命令体系を採用したのと大きく異なる。IPFにおいても、プロセッサ内部にあるx86命令ユニットにより、x86命令のデコードなどを行うことで、既存の32bitアプリケーションも実行可能である。しかし、あくまでも「x86命令が実行可能」というレベルであり、64bit命令(EPIC)の実行性能からは大きく見劣りするものとなっている。一方でAMD64 ISAでは、x86命令も64bit命令もほぼ同等の性能を発揮する(AMDの「SPECweb99のベンチマーク・テスト結果」)。

 つまり、IntelのIPFとAMDのAMD64 ISAでは、64bit化の方針が大きく異なっていることが分かる。IPFが、64bitプロセッサの将来性や性能を追求するために、x86命令の実行性能を犠牲にしても新規の64bit命令体系を採用したのに対し、AMD64 ISAでは、これまでのx86プロセッサの進化と同様、既存のx86命令との互換性を維持しながら、その延長線上で64bit化を行ったわけだ。AMDは、このように既存環境の延長線として64bit化したことにより、32bitと64bit環境の共存や、32bitから64bit環境への移行が容易である、といったメリットを挙げている。AMDにとっても、Intelのように32bitと64bitでまったく設計思想の異なるプロセッサをそれぞれ開発する必要がなく、1つのアーキテクチャでノートPCからサーバまでをカバーできるというメリットがある。実際、AMDのロードマップを見ると、2003年後半にはサーバ/ワークステーション、デスクトップPC、ノートPCのすべてのセグメントにおいてAMD64 ISAがサポートされることになる。それぞれ、メリット/デメリットがあるが、32bit環境からのシームレスな移行が可能という点において、AMD64 ISAはユーザーにとってリスクの小さい選択といえるかもしれない。

大きな図へ
AMDのプロセッサ・ロードマップ
2003年後半にデスクトップPC/ノートPCにAthlon 64が投入され、すべてのセグメントでAMD64 ISAがサポートされる。Athlon MP/XPは市場の要望で継続的に販売されるとしているが、将来的にはAMD64 ISAへと全面的に移行することになるだろう。

 次ページでは、AMD64のOS、アプリケーション環境ならびにロードマップについて見ていこう。

  関連リンク 
SPECweb99のベンチマーク・テスト結果
 

 INDEX
[特集]x86互換の64bitプロセッサ「AMD Opteron」の実力と課題
    1.AMD64のOS/アプリケーション環境は?
    2.AMD Opteron搭載サーバの実用性
    3.HPC用途のサーバとしては最適なAMD Opteron搭載サーバ
 
 「System Insiderの特集」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間