元麻布春男の焦点

明らかになるItanium 2の性能とプラットフォーム
――発表間近のItanium 2に迫る――

2. 大規模システムも可能にするItanium 2のチップセット

元麻布春男
2002/06/25


Itanium 2対応のチップセットも明らかに

 Itanium 2そのもの以外の話題ということで、最も注目されるのは、Itanium 2に対応したチップセットだろう。これまでItanium 2に対応したチップセットとして、Intel 870チップセットの存在が明らかにされていたが、その名称が変わる可能性が高いことは、「元麻布春男の焦点:2002年に登場する6種類のIntel製チップセットを予想する」で紹介したとおり。ここにきてその正式名称が「Intel E8870」に決定した。どうやらItanium系列のプロセッサに対応したサーバ/ワークステーション向けチップセットにはE8xxxという名称が、IA-32プロセッサに対応したサーバ/ワークステーション向けチップセットにはE7xxxという名称が使われることになるようだ(xxxは数字)。

 Intel E8870は、基本的には1プロセッサから最大4プロセッサに対応したチップセットとなる。その中核となるのが、SNC(スケーラブル・ノード・コントローラ)だ。SNCは、Itanium 2のシステム・バス、ファームウェア・ハブへのインターフェイス、メモリ・バス、そしてスケーラビリティ・ポートを備えた、従来のIA-32プロセッサ用チップセットでいうところのノース・ブリッジに相当するものである。メモリ・バスは6.4Gbytes/sの帯域を備えたもので、実際にはその先にDDRメモリ・ハブを接続し、そこにDDR-200メモリを実装する形をとる。

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Intel E8870によるシステム構成例
図のような構成により、最大4プロセッサまでのマルチプロセッサ構成とすることが可能だ。

 スケーラビリティ・ポートは、最大4プロセッサ構成までのシステムでは、従来のHubLinkの置き換えとして、PCI-Xブリッジなどを接続するI/Oハブの接続に用いられる。が、スケーラビリティ・ポートがHubLinkと大きく異なるのは、スケーラビリティ・ポートを用いて、複数のSNCを接続し、4プロセッサより大きな構成のマルチプロセッサ・システムが構築できる点にある。このとき、スケーラビリティ・ポートの相互接続に用いるスイッチをSPS(スケーラビリティ・ポート・スイッチ)と呼び、Intel自らも「Intel E9870」という型番のSPSを準備している。

 下図はIntel E9870を用いて2つのSNCを接続した8プロセッサ構成サーバのブロック・ダイアグラムだが、Intel E9870を用いて最大16プロセッサ構成までのマルチプロセッサ・サーバを構築することができる。また、BullやUnisysは、E8870チップセットを採用した上で、それぞれSPSを自社開発することで、32プロセッサ以上の大規模サーバを実現しようとしている。

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Intel E8870による8プロセッサ・システム構成例
SPS(スケーラビリティ・ポート・スイッチ)のIntel E9870を使うことで、4プロセッサ構成を超えるマルチプロセッサ構成が可能。BullやUnisysは、自社でSPSを拡張することで32プロセッサ以上の構成を実現するという。

Itaniumプロセッサ・ファミリ普及の兆し

 Itanium 2では、その性能向上により、同じシステム性能を実現するためのプロセッサ数をItaniumより少なくできる。データベースの価格体系では、プロセッサ数によってライセンス料金が決まっていることを考えると、これは同じ規模のデータベース・システムを構築する場合の価格を大幅に安く抑えられることを意味する。また、1プロセッサの追加による性能向上幅が大きくなることも意味し、スケーラビリティの向上も実現するといったメリットもある。

 2001年5月に発表された初代Itaniumシステムは、まったく新しいアーキテクチャを採用したものであった。そのため、保守的なバックエンド・サーバ市場では本格的な導入が進まなかった。しかし、1年経ちアプリケーション環境などが整ってきたことや、前述のように第2世代のItanium 2となって性能が大幅に向上することから、様子見の状態から脱し、やっと市場が動き始めそうだ。HPやIBMを始め独自のチップセットを開発しているサーバ・ベンダもあり、そのほかにも多くのベンダがItanium 2搭載システムを発表する予定である。価格もItanium 2の2ウェイ・モデルならばIntel Xeon搭載のミッドレンジ・サーバとほぼ同程度になりそうだ。これまでItaniumシステムというと、大規模なサーバかハイエンド・ワークステーションという印象が強かったが、Itanium 2ではもう少し身近なものとなるだろう。今後ともItanium 2の動きに注目していきたい。記事の終わり

HPのItanium戦略
 
いうまでもなくHewlett-Packardは、EPICアーキテクチャの共同開発パートナーであり、EPICアーキテクチャに最も精通したサーバ・ベンダの1つということができるだろう。と同時にHPは、PA-RISCプロセッサを持つRISC/UNIXベンダでもある。そのHPがPA-RISCとItaniumプロセッサ・ファミリをどう売り分けるのか、あるいは長期的にどうItaniumプロセッサ・ファミリへと移行していくのかは、注目されるところだ。ここでは、来日したグローバル・ハイパフォーマンス・テクノロジ・マネージャのフランク・べツケ(Frank Baetke)博士とテクニカル・コンピューティング・マーケティング・デベロプメント・グループ・マネージャのクヌーテ・クリステンセン(Knute Christensen)氏にうかがった話をベースに、HPのサーバ戦略についてまとめてみた。

フランク・ベツケ博士
HPのグローバル・ハイパフォーマンス・テクノロジ・マネージャ
クヌーテ・クリステンセン氏
HPのテクニカル・コンピューティング・マーケティング・デベロプメント・グループ・マネージャ

 現在HPは、Itaniumベースのワークステーションと4ウェイおよび16ウェイのサーバを販売している。これらは、十分実用に適したレベルの性能に達しているが、新しいアーキテクチャに基づく第1世代の製品ということもあって、主にソフトウェアの開発・テストなどに使われているという。OSやコンパイラといった開発環境はもちろん、対応アプリケーションを用意するという点でも、必要なことである。

 HPのハイエンド・システムは、Superdomeと呼ばれるエンタープライズ・クラスのサーバだが、現時点でSuperdomeはPA-RISC(PA-8700)に基づくもののみで構成されている。次世代のSuperdomeでは、PA-8700の直接の後継となるPA-8800 RISCプロセッサ・ベースのものに加え、Itaniumプロセッサ・ファミリのMadison(開発コード名)ベースのものも用意される。Superdomeは、「Cell」ボードと呼ばれるアーキテクチャに基づいており、次世代のSuperdomeではItanium用のCellとPA-RISC用のCellの両方が提供されることになる。現行のPA-RISCベースのSuperdomeからの移行だが、MadisonベースのSuperdomeへ直接移行することも可能だ。が、より慎重を期すユーザーは一度PA-8800ベースのSuperdomeへ移行した後、将来のItaniumプロセッサ・ファミリ・ベースのシステムへ移行することになるだろう。

 一方、ローエンドからミドルエンドのItaniumプロセッサ・ファミリ・システム向けに、HPではItanium 2対応のチップセットであるZX1と、それをベースにしたシステムを現在準備している(ちなみにSuperdomeのチップセットはCell Controller ASICと呼ばれる独自のもの)。ZX1は、IntelのIntel E8870と異なりAGPがサポート可能で、ワークステーションにも用いることができる。実際、ZX1ベースのシステムとしては、1〜2プロセッサのワークステーションと、2〜4プロセッサのサーバがリリースされる見込みだ。ZX1は、6.4Gbytes/sのItanium 2のプロセッサ・バスに対応しているのはもちろんのこと、12.8Gbytes/sのメモリ帯域、4.0Gbytes/sのI/O帯域をサポートする。

ZX1チップセットを採用したItanium 2搭載サーバ
日本HP主催のCAE関連イベンド「hp"インテル Itanium 2プロセッサ" Technology Seminar」で参考展示されていた2ウェイで2Uサイズと1ウェイでタワー型の2種類のワークステーション。内部は見ることができなかったが、HP独自のZX1チップセットが搭載されているという。価格は、Intel Xeonのミッドレンジ・サーバとほぼ同等になるということだ。

 HPのItaniumシステムでは、HP-UX、64bit版Linux、64bit版Windowsの3つのOSが提供される。この中からどれを選ぶかは、顧客が決めることだが、HPとしてはテクニカル・コンピューティング分野の顧客に対しては、HP-UXの最新版であるHP-UX11iを勧めているという。それはHP-UXがHP自身により開発・保守されているOSであり、HPが100%責任を持ってサポート可能だからだ。HP-UXは、現時点で64bit版Linuxと比較して、10〜20%高い性能を実現しているが、これはコンパイラやライブラリといった開発環境がLinuxより優れていることに加え、ディスクI/Oを始めとしてLinuxにはない高性能な機能をHP-UXが備えていることも理由となっている。将来的にも、合併したCompaqのUNIXであるTru64 UNIXの優れた部分を取り込むなど、拡張していく計画がある。

 HP-UX上では、HP-UXのネイティブ・アプリケーション(2002年末までにはトップ20のCAEアプリケーションすべてが揃う予定)だけでなく、LinuxのABI(アプリケーション・バイナリ・インターフェイス)に基づいたアプリケーションも高速に実行できる*1。加えて、Itanium用のHP-UXには、PA-RISC用のHP-UXアプリケーションをそのまま実行するためのバイナリ・トランスレータと、Win32アプリケーションを実行するためのエミュレーション環境(日本語化の予定は不明)が用意される。性能的にはバイナリ・トランスレータを使わず再コンパイルした方が望ましいのは明らかだが、担当者がいなくなってしまった古いものなど、バイナリ・トランスレータという最後の手段が提供されているのは心強いところだ。また、プラグインの関係等、どうしてもWindows上のIEでなければ見ることができないWebページも、Win32エミュレーション環境があれば見ることができる。

*1 ただし、ビックエンディアン(Big Endian)のPA-RISC用に用意されたビックエンディアンOSであるHP-UX上で、歴史的にリトルエンディアン(Little Endian)のOSであるLinuxのアプリケーションを利用する場合、エンディアンの違いについてユーザーが意識しておく必要が若干あるだろう。

 といってもHPは、HP-UXしか売りたくない、と考えているわけではない。最近HPは、米エネルギー省傘下の研究所であるPacific North-West National Laboratoryと640ノードのマルチプロセッサ・システム納入の契約を行ったが、これはLinuxベースのシステムである(ちなみに640ノードのうち128台がItanium 2、残り512台がMadisonになる予定)。最終的にどのOSを選ぶかは、顧客の選択に委ねられている。これは、64bit版Windowsについても同様である。

 
  関連記事 
2002年に登場する6種類のIntel製チップセットを予想する

 

 INDEX
  明らかになるItanium 2の性能とプラットフォーム
    1.大幅に性能が向上するItanium 2
  2.大規模システムも可能にするItanium 2のチップセット
 
 「System Insiderの連載」


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