元麻布春男の焦点
プロセッサの性能向上を急ぐIntelとAMD

2. 2003年の準備は着々と進行中

元麻布春男
2002/09/05



Intelの次世代製造プロセスは順調

 さて、海外のニュース・サイトなどの報道によると、今回発表されたPentium 4-2.80GHz、あるいはすでに公言されている動作クロックが3GHzを超えるPentium 4の2002年内リリースは、当初のスケジュールを前倒ししたものだという。プロセッサのリリース・スケジュールを前倒しするということは、少なくとも近い将来において、その後に続くプロセッサのリリース・スケジュールも前倒しされているということを意味する。そうでなければ、製品のリリース・スケジュールに穴が開いてしまうからだ。

 こうしたスケジュールの前倒し説を裏付けるかのように、Pentium 4-2.80GHzのリリースに先立つ8月13日(米国時間)、Intelは次世代の製造プロセスである90nmプロセス技術の詳細について発表している(インテルのニュースリリース)。90nmプロセス技術では、ゲート長50nm、ゲート酸化膜1.2nm(原子5個分)の微細なトランジスタを実現している(写真1)。また同時に、歪シリコン(Strained Silicon:シリコンを歪ませることでシリコン内での電子の移動速度を高める技術)や新しい低誘電率(Low-k)の絶縁材料といった新しい技術を採用している。さらに、現在使われている0.13μmプロセスが6層なのに対し、さらに1層を追加して7層とし、プロセスの高密度化も実現している(写真2)。

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写真1 Intelの90nmプロセスによるトランジスタの構造 (拡大表示:41Kbytes)
Intelが公開している90nmプロセスの技術資料から引用した写真。一番下がベースとなるシリコンの部分で、ここに歪みシリコン(Strained Silicon)の技術が用いられている。
 
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写真2 90nmプロセスにおける各層間の電気配線の仕組み (拡大表示:51Kbytes)
1層ごとに回路が形成されており、層数が多いほど高密度化しやすくなる。高速化に貢献する銅配線(Copper Interconnects)や、低誘電率の絶縁体(Low-k CDO Dielectric)が用いられていることが分かる(これらの半導体技術の詳細については「頭脳放談:第9回 銅配線にまつわるエトセトラ」を参照していただきたい)。

 現在、この90nmプロセスは、米国オレゴン州のヒルズボロにある「D1C」という半導体工場で試験的な生産が行われており、すでに300mmウエハで52Mbit SRAMチップを製造することに成功している(写真3)。Intelではこの90nmプロセスによる量産を2003年中に、D1Cに加えて、米国ニューメキシコ州のリオランチョにある「Fab 11X」と、アイルランドのレイクスリップにある「Fab 24」の合計3カ所で開始する予定だ(Intelの半導体工場については「元麻布春男の視点:Pentium 4-2.40GHzに見るIntelの強さの源泉」を参照)。しかも、これらはすべて300mmウエハである。90nmプロセスによる最初のプロセッサであるPrescott(開発コード名:プレスコット)のリリース時期は、2003年後半(おそらくは第3四半期)とされている。

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写真3 300mmウエハ/90nmプロセスによって製造されたSRAMチップ (拡大表示:45Kbytes)
一般的にSRAMチップのトランジスタの構造は、プロセッサのそれと共通性が高いロジック(論理回路)向けのものであり、一種の指標となっている。そのため、Intelも300mmウエハ/90nmプロセスの実証にSRAMを使ったのだろう(詳細は「頭脳放談:第22回 90nmプロセスという21世紀的なるモノ」を参照)。

 
Athlon XPの高クロック化を進めるAMD

 こうしたIntelの攻勢に対抗するかのように、AMDもAthlon XP-2600+/2400+を発表した。チップセット・ベンダの1つであるNVIDIAの「nForce2」がすでに対応しているFSB 333MHz(=166MHz×2倍)のサポートは見送られたが、AMD製プロセッサとしては初めて動作クロック(実動作クロック*2)が2GHzを突破した。具体的には、Athlon XP-2400+が2GHz、2600+が2.133GHzに達している。

*2 Athlon XPでは、製品の性能指標として実動作クロック周波数ではなく「モデル・ナンバ」を採用している。つまり「2400」や「2600」という数値は実際のプロセッサの動作クロックではない。モデル・ナンバは、Athlon XP同士の相対的な性能比較に利用されるもので、ほかのx86プロセッサの動作クロックとは直接比べられるわけではない。ただし、Athlon-1.4GHzの性能が基準となっており、Athlon XPのモデル・ナンバでいう「1400+」に相当するという。実質的には、Pentium 4の動作クロック周波数にほぼ相当する値になっているようだ。

 この2600+と2400+は、すでに提供されていたものと同じ0.13μmプロセスによるThoroughbredコアによるものだ。ただし、Intel同様こちらもマイナーチェンジが施されており、プロセッサの細かいリビジョンも表すCPU IDが、従来のAthlon XP(2200+以下)の「680」から新しく「681」に更新されている。現時点でCPU ID 681のAthlon XPには、2600+と2400+以外に2200+と2000+もラインアップされており、同じ2200+(実動作クロック1.8GHz)で、動作電圧(Vcc)が従来より0.05V低下したほか、動作電流が37.4Aから35.6Aへと引き下げられている(2600+の動作電圧は1.65V)。この低電流化のおかげで、2600+の消費電力(最大68.3W)は、2200+(同67.9W)と大きく変わらないレベルに抑えられている。つまり2200+のシステムでも、冷却ファンなどの変更をせずに2600+への対応が行えるわけだ。

 現在のAMDは、K7(Athlonシリーズ)からHammerというプロセッサ・アーキテクチャの移行と、自社ファブのみでの量産からUMCへの委託/共同開発体制の併用へ、という製造体制の変更を一度に迎えるという重大な局面にある。しかし、今回のマイナーチェンジで、まだしばらくはAthlon XPでも、Pentium 4に性能面でキャッチアップできることを示したわけだ。

 IntelやAMDがプロセッサの性能向上を加速させている理由の1つは、全世界的な不景気の中、高性能で魅力ある製品と、低価格な製品を揃えることで、PCの拡販を促したい、ということだろう。また、今後もプロセッサの性能を順調に高めることができる、ということを対外的に知らしめ、今後の開発スケジュールに対する信頼を得る、という意図もあるだろう。特にAMDは今回の発表で、新しいHammerシリーズが登場するまでの間も、AthlonシリーズでPentium 4に対抗できることを示したわけで、その効果は大きいはずだ。

 2002年中のx86プロセッサは、現行のコアに大きな変更を加えることなく、性能が向上していく予定だ。一方、2003年になるとIntelからは90nmプロセスの新プロセッサ「Presscot」が、またAMDからは新アーキテクチャのHammerシリーズが登場する。つまりプロセッサが大きく変わることから、ひいてはPCの基本設計にも大きな影響を与えるはずだ。プロセッサの変更のタイミングで、大手ベンダのPCのラインアップが大幅に更新されることも考えられる。PCの導入・管理・運用を担当しているなら、これから1年間のプロセッサの動向には、十分に注意を払うべきだ。記事の終わり

 
  関連記事 
第9回 銅配線にまつわるエトセトラ
Pentium 4-2.40GHzに見るIntelの強さの源泉
第22回 90nmプロセスという21世紀的なるモノ

  関連リンク 
90nmプロセス技術の詳細に関するニュースリリース
90nmプロセスの技術資料英語
90nmプロセスによるSRAMセルの開発成功に関するニュースリリース
Silicon Showcase(同社のシリコン半導体技術を紹介・解説しているページ)英語
Hammerアーキテクチャの情報ページ
 
 
 

 INDEX
  プロセッサの性能向上を急ぐIntelとAMD
    1.新登場のPentium 4-2.80GHzの実体
  2.2003年の準備は着々と進行中
 

 「System Insiderの連載」


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