元麻布春男の焦点プロセッサの性能向上を急ぐIntelとAMD1. 新登場のPentium 4-2.80GHzの実体 元麻布春男 |
8月に入って、x86プロセッサの主要なベンダであるIntelとAMDは、動作クロックを引き上げた(性能を向上させた)プロセッサを含む、いくつか重要な発表を行った。今回の発表に合わせて、IntelとAMDは、プロセッサ価格の大幅な引き下げを行っており、PCの販売価格にも影響することは間違いない。そこで本稿では、IntelとAMDが発表した内容を検証してみる。
Pentium 4-2.80GHzの登場で大幅に下がったプロセッサ価格
8月27日にIntelは、Pentium 4プロセッサのラインアップに、動作クロック2.80GHz(FSB 533MHz)、2.66GHz(同533MHz)、2.60GHz(同400MHz)、2.50GHz(同400MHz)の4種を追加した。これによりPentium 4の最大動作クロックは、2.53GHzから2.80GHzへ11%ほど引き上げられたことになる。1000個ロット時のOEM向け価格は、上記の順に6万870円、4万8050円、4万8050円、2万9120円となっている。
いずれも、すでに発売されている0.13μmプロセスのNorthwood(開発コード名:ノースウッド)コアによるもので、SSE2命令セットのサポートや512Kbytesの2次キャッシュをオン・ダイで実装するといった特徴は、従来と変わらない。しかし、プロセッサ・コアの細かいリビジョンを表す「ステッピング」が、従来の「B0」から「C1」へ更新されると同時に、VID(Voltage ID)が1.500Vから1.525Vへと、わずかに引き上げられている。
■今回発表のPentium 4は消費電力も上がった?
VIDとはプロセッサのおおよその動作電圧を示す目安のようなものだ。現在のIntelのプロセッサは個別にVIDを持っており、マザーボード上の回路はプロセッサのVIDを読み取って実際の動作電圧を決定する。ステッピングの異なるプロセッサは、動作電圧など各種特性が微妙に異なるものだが、このようなVIDの仕組みにより、プロセッサは最適な電源が得られるようになっている。
さて、プロセッサの実際の動作電圧(Vcc)は、動作電流(Icc)と動作クロック周波数に応じて、一定の値をVIDの値から引いたものになる。従って、必ずしもC1ステップのプロセッサがB0ステップのプロセッサより動作電圧が0.025V高いというわけではないが、C1ステップで動作電圧が若干上がる傾向にあることは間違いない。また、これに伴い消費電力*1も若干上がっており、同じ2.53GHz動作時でB0ステップでは59.3Wだったものが、C1ステップでは61.5Wと2.2Wほど増加している(最高クロックの2.80GHzのTDPは68.4W)。
*1 ここでいう消費電力は、熱設計時消費電力(TDP:Thermal Design Power)を指す。TDPは、チップの冷却機構を設計する際などに想定される、チップの消費電力を意味しており、多くの場合、ピーク時の最大消費電力に相当する。 |
■300mmウエハで製造?
データシートによると、このC1ステップは今回リリースされた4種のみで採用されるものではなく、2GHzから2.80GHzまでと、ほとんどのPentium 4の動作クロック周波数域をカバーする。C1ステップがB0ステップをただちに置き換えるものであるかどうかは不明だが、ひょっとするとC1ステップは300mmウエハから製造されたPentium 4を意味するものかもしれない。もしそうなら、これまで想定されていた時期よりも早く2GHz未満のPentium 4が姿を消すことになる可能性がある。現在Intelは、半導体製造設備を従来の200mmウエハから新しい300mmウエハへ切り替えている最中だからだ(300mmウエハの詳細については、「頭脳放談:第13回 300mmウエハは2倍お得」を参照していただきたい)。
200mmウエハから300mmウエハに変更することで、ウエハ1枚当たりの生産量が大幅に増え、その結果、コスト・ダウンが実現できるという(半導体工場の増設が不要になることも大幅なコスト・ダウンになる)。実際、今回の発表に伴ってPentium 4プロセッサの価格は大幅に改定され、8月上旬には6〜7万円を超えていたPentium 4-2.53GHzの価格が、わずか3週間あまりで半額以下になっている(これが300mmウエハによるコスト・ダウン効果の現れなのだろうか?)。また、9月1日にIntelは、2.53GHz以外の動作クロックについてもOEM向け価格の改定を行い、Pentium 4-2.40GHzはFSB 400MHz版と533MHz版ともに、従来より52%も安くなった。その一方で、動作クロックが2.00GHz未満のローエンド品の値動きは小さく、そもそもOEM向け価格表には1.8GHz以上のPentium 4しか記載されなくなってしまった。これは、2.00GHz未満のPentium 4が間もなく舞台を降りる可能性が高いことを示唆している。実際には、このレンジの動作周波数帯はすべてCeleronに置き換えられていくのだろう。いずれにしても、2.4G〜5GHzクラスのPentium 4の値ごろ感が一気に高まったことは間違いない。
内部 クロック 周波数 |
FSB クロック 周波数 |
8月3日 | 8月10日 | 8月17日 | 8月24日 | 8月31日 |
2.80GHz | 533MHz |
|
|
|
6万3200円
|
6万2700円
(▼536円) |
2.66GHz | 533MHz |
|
|
|
4万9700円
|
4万9000円
(▼681円) |
2.60GHz | 400MHz |
|
|
|
4万9800円
|
4万9200円
(▼589円) |
2.53GHz | 533MHz |
7万1300円
|
6万7100円
(▼4221円) |
6万900円
(▼6181円) |
4万2300円
(▼1万8617円) |
3万200円
(▼1万2025円) |
2.50GHz | 400MHz |
|
|
|
3万4000円
|
3万円
(▼3976円) |
2.40GHz | 533MHz |
4万5600円
|
4万3900円
(▼1632円) |
4万1900円
(▼2028円) |
3万5500円
(▼6419円) |
2万5500円
(▼9972円) |
2.40GHz | 400MHz |
4万5100円
|
4万2600円
(▼2512円) |
4万500円
(▼2074円) |
3万6800円
(▼3725円) |
2万7100円
(▼9709円) |
2.26GHz | 533MHz |
2万9000円
|
2万8900円
(▼96円) |
2万8900円
(▼57円) |
2万8500円
(▼357円) |
2万4700円
(▼3868円) |
2.20GHz | 400MHz |
2万9200円
|
2万9000円
(▼192円) |
2万9100円
(△77円) |
2万8400円
(▼693円) |
2万5100円
(▼3308円) |
2.00GHz | 400MHz |
2万3500円
|
2万3200円
(▼356円) |
2万3100円
(▼52円) |
2万2900円
(▼239円) |
2万1200円
(▼1699円) |
1.80GHz | 400MHz |
2万200円
|
1万9900円
(▼260円) |
1万9900円
(▼22円) |
1万9800円
(▼48円) |
1万9000円
(▼845円) |
1.60GHz | 400MHz |
1万7200円
|
1万7500円
(△235円) |
1万7400円
(▼40円) |
1万7100円
(▼371円) |
1万7200円
(△106円) |
Pentium 4のここ1カ月の価格動向 | ||||||
これは、サハロフ佐藤氏の秋葉原レポートに掲載されているPentium 4リテール・パッケージ(Northwoodコア/478ピン・パッケージ)の価格調査結果をもとに、編集部で計算した平均価格だ。カッコ内は前週との価格差を表しており、▼は値下げ、△は値上げを意味する。これによると、2.40G〜2.53GHzの価格が大幅に下落してきたのが分かる。逆に1.80A GHz以下はほとんど下げ止まりの感がある。なお、8月24日時点で未発表の2.50G/2.60G/2.66G/2.80GHzのPentium 4に価格が付いているのは、秋葉原のPCパーツ・ショップが正式発表前に販売を開始したためだ。 |
■アプリケーション・レベルの性能は?
現時点での最高クロックとなったPentium 4-2.80GHzの性能だが、これまでの最高クロック品であった2.53GHzと、いくつかのベンチマーク・テストで性能を比較してみた(下表)。テストにより性能向上率にバラつきが見られるが、2%〜14%強の性能向上が見られており、動作クロックが上がっただけの効果はある。今回のテストではPC800 RDRAMをメイン・メモリに使用したが、より高速なPC1066 RDRAMを使えば、動作クロックが高い2.80GHzの性能向上率はもう少し伸びるかもしれない(PC1066の効果については、「特集:Rambusは終えんを迎えてしまうのか?」を参照していただきたい)。
Pentium 4-2.80GHz | Pentium 4-2.53GHz | 性能向上率 | ||
SYSMark 2002 | Rating |
258
|
236
|
109.3%
|
Internet Content Creation |
364
|
319
|
114.1%
|
|
Office Productivity |
183
|
174
|
105.2%
|
|
3DMark 2001 SE(Build 330) |
10143
|
9825
|
103.2%
|
|
PCMark 2001 | CPU |
6801
|
6130
|
110.9%
|
Memory |
6260
|
6135
|
102.0%
|
|
Pentium 4-2.80GHzの性能向上率 |
次のページではIntelの90nmプロセスに関する発表と、AMDが発表した高クロック周波数のAthlon XPについて検証してみる。
関連記事 | |
第13回 300mmウエハは2倍お得 | |
Rambusは終えんを迎えてしまうのか? |
関連リンク | |
サハロフ佐藤氏による秋葉原のPCパーツ価格の調査レポート |
INDEX | ||
プロセッサの性能向上を急ぐIntelとAMD | ||
1.新登場のPentium 4-2.80GHzの実体 | ||
2.2003年の準備は着々と進行中 | ||
「System Insiderの連載」 |
- Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう - 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は? - IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか? - スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
|
|