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もうWebデザインしないなんていわないよ、絶対(1)

入社1年目、デザインしないデザイナなんて!?


ワンパク 宮城秀雄、吉森大介、野村政行
2009/6/26
Webデザイナの卵が立派なWebデザイナになるまでの回顧録。ドキュメントスタイルながら、ステップごとに役立つ情報をお伝えしていく

イントロダクション

  朝の光を受け、白い息を吐きながらフィラデルフィア美術館前の階段を駆け上がる。彼の名はロッキー・バルボア。その顔は希望に満ちあふれ、朝日よりもまぶしい!

 2002年春、学生生活を終えた僕はWeb制作会社に就職した。このとき、僕はあの階段、つまりロッキー・ステップに立ったと喜んでいた。後はこの目の前の階段を駆け上がり、高らかにガッツポーズを決める。無知で根拠なき自信に満ちあふれた陽気な僕は、あの朝日がすぐ眼の前にあるモノと信じて疑わなかった。

 しかし、このとき僕は忘れていたのだ。

 ロッキーはあの階段にたどり着くまで、エイドリアンに出会うその前まで、思いどおりにいかない人生という敵にボッコボコにされていたことを……。

ごあいさつと自己紹介

 ……時間を現代へ。僕の説明を少し。そして連載開始に当たってのごあいさつを。

 Webの世界に足を踏み入れてから数年、中目黒の閑静な住宅地にあるワンパクが僕の現在、働いている職場だ。

  ビジネスモデルの提案からかかわり、ガチガチに構築してあるうえに、複雑なRIAを内包した大型コーポレートサイトから、フツーの人ならのぞいた瞬間にふたをするような独特のにおいを放つ異色のFlashサイト。はたまたWebの世界を飛び出したリアル連動コンテンツやハードを使ったコミュニケーションデザインなど、扱う案件は多種多様。

 一緒に働くメンバーは、他人の誕生日に仕掛けるドッキリに持てる情熱をありったけぶつけるような、そのためには高級料亭でレイザーラモン H.G(古っ)の格好を平気でするようなヘンタ……、熱くて個性的な人間ばかり。

 そんな会社で、デザインをしたり、映像を編集したり、ActionScriptを書いたり、たまにPlayStation3やWiiをやったりするのが僕の毎日の仕事。いまでこそこの仕事とはどういうモノかが少し分かってきたけども、もちろん現在に至るまでには過程がある。

 その過程の中でも、以前の会社でぞうきんのようにしわくちゃになりながら、不屈のゲットースピリッツで働き抜いた社会人1年生時代はキツかった……(オフィスでも「殺すぞ」という言葉が使われることを知ったのもこのころ。おぉ怖っ 笑)。右も左も分からないうえに生意気だった僕はとても頭の悪い小僧であり、とはいえ同時に真剣だった。

 間違いなく、この時期を過ごしたおかげでいまの自分がある。だからこそ今回はあえて掘り返してたくもない、ド新人デザイナー時代の話をしようと思います。間違いだらけだったけど、正しいこともあった。なんつったってビースティ・ボーイズもいってるぜ。「Fight For Your Right.」って。読者の皆さんには、これから全12回にわたる、あるデザイナーの回顧録。お付き合いください。

デザインしないデザイナーなんて!

編集部からのお知らせ

ワンパクデザイナーに、このイベントで会える!@IT主催「第2回おばかアプリ選手権」チケット絶賛発売中!

 めでたく社会人としての一歩を踏み出したそのころ、FlashはまだFlash MXだったし、オフィスにはズラっとPower MacのG4モデルが並んでいた。After EffectsやPremiereで編集作業をするにはレンダリング時間がかかり過ぎたし、PhotoshopはRAWデータなんて扱えず、 Illustratorは……そんなに変わらないか(笑)。

 でもこのころ、僕にマシンのスペックやソフトの機能なんて全然関係のない話だった。なぜか? それは、入社後3カ月はExcelしか触ってなかったんだから! 主な仕事はデータ管理で、「サイズはS,M,L,S,M,SS、……色はピンク、ブラック、ネイビー、ブラック、ネイビー、ネイビー、ネイ……。がぁあーーーっ!!なんでもええわっ!そんなもんっ!チクビー、ちくびー!」と、叫んだりはしないが(一応、大人なので)、全神経を集中させ、ミスのないように膨大な量のデータを整理する日々はつらかった。

 『シャイニング』のジャック・ニコルソンばりに目つきが凶悪になっていく中、フラストレーションはたまってく。1カ月過ぎたころには、眉間のしわが消えなくなり、2カ月を過ぎたころには会話をしなくなり、3カ月が過ぎたころ、気付くと会社の路地裏で目深にフードを被り、「え、エミネム!?」といった風体で1人缶コーヒーを飲んでいては、同僚に不審がられるようになった。毎日心の中でシャウトする。

「デザインしないデザイナーなんて!」

 バリバリのデザイナーとして突っ走る姿を想像していた僕は、初っぱなから思い切りズッコケたことになる。

「念願のやりたい仕事。だけど、さよなら睡眠時間」

 自分で自分の冥福を祈りそうになっていたちょうどそのとき、やっとデザインや映像の編集をさせてもらえるようになった。「やっと、やっと筆が持てる!」しかし、いざやりたいことがやらせてもらえるようになると、別のモノが蓄積し出した。

 それは疲労。寝られない。とにかく寝られないのだ。

 とあるコンテンツのオープニングに流す映像を編集していたときである。言い渡された提出日は3日後。1日目は当然のように徹夜で編集作業。生ける生ゴミ(?)と化した2日目、1日が終わり、満身創痍(そうい)の体で夜中に家に着くと、ディレクターが車で迎えに来てオフィスにトンボ帰りなんてこともあった。しかも制作した映像はコンテンツの仕様のために使わないことに。神様、ここが日本で良かった。酒屋で拳銃が買えなくて良かった……。

「負のスパイラル=負パイラル(フパイラル)」

 デザイン、コーディング、編集etc……。このころは何をするにもやたら作業に時間がかかっていたように思う。そしてその作業時間の長さがネガティブ方向にスパイラルして、帰宅が日に日に遅くなり、疲労はどんどんたまっていった。

 では一体なぜこんなことに? スキル不足? もちろんそれも一因ではあったと思う。でもスキルは仕事を重ねれば自然と身に付く。要するに「やらなくてはならない」ことは「できる」ようになるのだ。納品という明確な目的とクライアントの期待に応えようとする想い、給料という対価と逃げ場のない責任感が、ガソリンとなってスキルの吸収度合いも加速する。スキル不足はまじめに働いていればそんなに問題にならなかった。

 では? と再び考える。

 問題は多分、働くマインドにあった。「デザイナーはデザインをすればいい。後は知るか」これが僕のスタンスだった。そして制作会社の仕組みも分からず」、役割分担や何より「チームプレー」という意味を理解していなかった。

 例えば入社から半年がたったころ、あるアパレルブランドのキャンペーンサイトを作ることになったときの話。コンテンツ数は多くはないが、自分にとってはまだまだ不安だったフルFlashでの制作。制作を進める中でいくつも壁がある。どうオーサリングすればちゃんと動くのか分からない。分からないので悩む。本で調べる。載ってない。また悩む……。こんなときどうすればいいのか。答えは簡単。誰かに聞けばいい。作業時間の延長と疲労、負のスパイラルの本質はきっとそこにあったのだ。

入社当時の1日の負のスパイラルが、チームプレーができるいま劇的に変化した

「負パイラルを脱出しろ!」

 どの案件においてもプロジェクトはチームで始め、チームで終わりを迎える。

プロジェクトごとに組まれるチームの組織図の例

 予算や金銭的なやりとりをしながら、プロジェクト全体を俯瞰(ふかん)し、クライアントと社内のチームメンバー両方を取りまとめ、最も円滑にプロジェクトを進める方法を考えるプロデューサー。

 クライアントの要件をそしゃくし、それを最良の方法、最高のクオリティでアウトプットするために現場のかじ取りをするディレクター。

 ゴールに設定した何かしらのモノを目に見える形として具現化するデザイナー。

 そしてそれを実際にこの世に存在する「モノ」として構築していくコーダーやプログラマー(この役割分担は組織によって千差万別、タスク範囲も人それぞれのやり方やマインドで違うがその話は後日)。

 最低でもこれだけのメンバーがいるチームの中で、このころはいつも1人で仕事をしている気分だったように思う。疎外されていたのではなく、いつでも伸ばした手が側にあったのにそれをつかまず、自分の領域を勝手に区切っては、そこには誰も近づかせないようにしているところがあった。

 結果として、いろいろな無理を抱え込み、抱え込み切れなくなるにつれて寝る時間は減っていく。まさに負パイラル。この負パイラルを脱出する突破口こそが、僕が理解していなかった「チームプレー」ということだったのだ。

「開いたコミュニケーション」

 分からないことは積極的に聞き、プロジェクトの工程において「1人」ではなく、なるべくチームのメンバーを巻き込んだ状況を作る。

 メンバーには自分の状況が明確に分かるようになり、「同じゴールに向かっている」という意識がチームの中で共有されることで、危ういときには手を貸し、うまくいっているときには共に盛り上がるというモチベーションにつながる。

 自分から「チーム」を意識して動くようになると、閉じていたときには分からなかった現場の温度が分かるようになる。すると途端にコミュニケーションが円滑に行えるようになり、そうなると制作のスピードも上がり、例のフルFlashコンテンツも無事にローンチを迎えることができた。やっと家に帰れる……(笑)。

 さて、この社会人1年生時代には多くのことを学んだ。だからこそのころの環境に感謝の気持ちは大きい。いまの僕はたまにウザがられるけど、コミュニケーションは円滑だ……と思う。たまにウザいと思うけど、気の合うチームと一緒に仕事するのは愉快で愉快でしょうがない。いまの「開いて」いる自分の中には毎日いろいろな刺激が入ってくる。その刺激に背中をたたかれて毎日が少しずつ前に進む。楽しいじゃないか、社会人!

「OUTRO」

 本日の回顧録はここまで。ロッキー・ステップの頂上でガッツポーズを決めるまで、話はまだまだ先になりそうです。今回は社会の洗礼、そして制作会社の仕組み、チームプレーとその中での自分のマインドについて話したのですが、そのチームに頼れないシチュエーションももちろんあるのだ!! でも、その話はまた次回……。

編集部から:この記事の著者であり、こんなメイキングを作ったワンパクメンバーに「第2回おばかアプリ選手権」で会えます!


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