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WebとUIをつなぐトリックスター(4)

イラストSNS、ピクシブの「以心伝心」少人数メソッド

仲里淳
2009/4/8
制作の要となるチームワークのツボを探る連載。人気急上昇中のピクシブのデザイナがいう「必ずしも便利であることが正解ではない」という言葉の意味は?

成長著しいイラストSNS「pixiv」のデザイナは新入社員

 ピクシブが注力する2つのサービス「pixiv(ピクシブ)」と「drawr(ドロワー)」は、現在その急成長ぶりからWebサービス開発者やクリエータの注目を集めている。

 pixivは、イラスト画像の投稿・閲覧ができるサービスで、絵を中心にユーザー同士のコミュニケーションもできるなどSNS的要素も持つ。一方のdrawrは、Webブラウザ上で絵が描けるツールで、描画の過程をムービーのように再生できたり、絵に対して絵でコメントできたりとユニークな機能を持つ。特にpixivは、2007年のサービス開始からわずか1年半の間にユーザー数が70万人を突破し、月間6億ページビュー以上(2009年3月時点)をたたき出すまでに成長した、2008年に最もブレイクしたWebサービスの1つである。

 サービス開発の経緯や成長の様子については以下の記事をご覧いただきたい。

「変化が激しすぎるかも」――急成長「pixiv」の1年を追う [ITmedia]
「得体の知れないものになった」――「pixiv」急成長、社名も「ピクシブ」に [ITmedia]
「ネットにイラスト、こんなにあるとは」――10万ユーザー突破したイラストSNS「pixiv」の“想定外” [ITmedia]

 今回は、そんなメガサービスを開発するピクシブにおいてデザインを担当する宮本礼輔氏に、デザインとチームワークについて話を聞いた。

宮本礼輔(みやもと ひろすけ) デザイナー。武蔵美術大学卒。2008年にピクシブ入社。現在は社内唯一のデザイナとして、各サービスのビジュアルとUI設計を担当

 宮本氏は、ピクシブ社内における唯一のデザイナとして、主にWebサービスのUI設計を担当している。基本的にユーザーインターフェイス(UI)のデザインが中心で、Webサービスの場合は画面設計やページ遷移なども含まれる。

 実は、宮本氏は以前はライブドアに在籍しており、ピクシブに入社したのは2008年8月。すでに世に出ていたpixivは人気上昇中で、drawrも開発が進んでいた時期である。

「開発段階から関わったのはdrawrからです。私が入社したときにはほぼ完成しかけていたのですが、UI周りで改善すべき点があり、短期間で手直しをしました。『気軽にお絵かきをする』というのがdrawrのコンセプトなので、それに適したサービスになるように、絵を描いたらどのページに飛ぶとレスポンスがすぐ分かるようにするとか、トップページでは話題の絵が把握できるようにとかといった全体の設計をしました。Flashで作ったペイントツールの部分は、動作を軽くするなどの再生機能の実装などでエンジニアは苦労していたようですが、UIデザインでは特に苦労はありませんでした」(宮本氏)

絵描きツールのdrawr。実験的サービスとして位置付けており、今後も変更や機能追加をしていく予定だという

主役は絵――サイトのデザインからは個性を排除

 pixivのデザインは途中から担当する形になったが、入社してからは機能追加やUIの改良など宮本氏が中心となって進めている。現在、デザイン担当は宮本氏だけだが、それ以前にはデザイン専任の担当者は存在しておらず、できる人が兼務していた。

 少人数のベンチャー企業では決して珍しいことではないが、逆に今後は専任の宮本氏がいることで、pixivのデザインにも変化が生じるかもしれない。誰が見ても一目で分かるような「ピクシブらしさ」をデザインで表現していくことは考えているのだろうか。

「pixivについては、デザイン的な個性や特徴といったものは持たせないようにしようと考えています。なぜかというと、絵にとって邪魔になってしまう可能性があるからです。pixivはあくまでも『枠』であって、主役となるのはユーザーが描いた『絵』です。それを損ねてしまうようなデザインの個性は極力排除して、シンプルなものにしていこうと考えています」(宮本氏)

ユーザーの絵を邪魔しないよう、シンプルさを心掛けたというpixivのデザイン

 ピクシブの人材採用ページには、採用基準として「pixiv 4か条」というものが掲載されている。会社の哲学をまとめたものだが、その1番目には「ユーザー第一主義」とある。これが「サービスの主役はユーザーの描く絵である」という考えになり、サイトデザインにも反映されているというわけだ。

 ただし、必ずしも無個性が唯一の答えではなく、状況によって使い分けるべきものでもある。

「デザイン面では必要以上に目立たないようにと心掛けているので、逆にミクシィさんやpaperboy&co.さんのサービスを見ると刺激になります。個性的なデザインによって、ある意味ユーザー層を決定しているのだと思いますが、デザイナの1人としてそういうスキルにも憧れます。ピクシブでも将来、個性が求められるサービスを出す機会があるかもしれませんが」(宮本氏)

 実際、手掛けたロゴのデザインでは主張し過ぎることはないものの、しっかりとピクシブらしさを盛り込んでいる。以前のものから「より洗練されたものを」と社長である片桐孝憲氏に依頼され、急きょ社内ヒアリングを行って作ったものだという。

「pixivの『p』は、draw(描く)の『d』を意識した形になっています。また、pixivにカッコを付けて『p(ixi)v』とすると、『泣きながら右手にペンを持ち、左手でVサインをしている絵師』に見えますよね。この要素も崩したくないということで、いろいろいじって今の形になりました」

宮本氏がデザインしたpixivのロゴ(上)と、カッコを付けて顔文字にした図(下)。確かに泣いている!
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 INDEX
WebとUIをつなぐトリックスター (4) 
イラストSNS、ピクシブの「以心伝心」少人数メソッド
Page1
成長著しいイラストSNS「pixiv」のデザイナは新入社員
主役は絵――サイトのデザインからは個性を排除
  Page2
ライブドアとの違いはデザインに対する社長の興味
目的が絞られたサービスはデザインの方向性も明確
現場と意思決定者の近さが生み出すスピード感
  Page3
少人数だからこその「ツーカー」コミュニケーション
「連打したい!」の思いが形になった投げ銭機能
必ずしも便利であることが正解ではない
目指すのは絵を描くことでハッピーになれる環境

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