特集:変貌するリッチクライアント
Yahoo WidgetやGoogle Gadgetにみる
CGUIの萌芽


野村総合研究所
技術調査室 
田中 達雄
2006/6/9

 Web 2.0による影響

 Web 2.0の特にAjaxとWebAPIは、リッチクライアントをますます注目させるに至らしめた大きな要素である。

 Ajaxは、Webアプリケーションにおけるユーザーインターフェイスの基準を一段も二段も押し上げた。また、その技術が枯れた標準的な技術だけで構成されていることは従来のリッチクライアント技術や製品に大きな衝撃を与えたといっていいだろう。これに伴い大手ベンダもこぞってAjax開発環境を自社製品として発表/提供し始めている。今後もリッチクライアントの系譜にAjaxは太い線を描き続けるだろう。

 次にWebAPIは、ユーザーインターフェイスの独立性を高めた。GoogleやAmazonが提供するWebAPIに対してさまざまなユーザーインターフェイスが提供され、WebAPIを提供する企業とユーザーインターフェイスを提供する企業が必ずしも同一でなくてよいことを一般化させようとしている。

 しかしながら現時点では、いまだWebAPIを提供した企業ではないが、別の“企業”が提供するユーザーインターフェイスを使うケースが多い。図6では、同じWebAPIを使う2社の企業があった場合、より魅力的なユーザーインターフェイス(ユーザーエクスペリエンス)を提供する企業を消費者が選択する、という構図を示したものである。同じサービスを利用する場合に、消費者側には自分の好みに合ったユーザーインターフェイス(ユーザーエクスペリエンス)を選択する自由が生まれる。

図6 企業が用意したリッチなユーザーインターフェイスを選択「出所:野村総合研究所」

 ユーザーインターフェイスの高度化と多様化の傾向とユーザーインターフェイスの独立性を高めるWebAPIの普及が高まると、消費者が自らユーザーインターフェイスを作成し公開するCGUIが次第に認知され普及していく可能性がある(図7)。

 ユーザーインターフェイスの高度化と多様化に対して企業が提供するユーザーインターフェイスだけではロングテールのニーズにまで対応することは難しい。消費者が作成するユーザーインターフェイス(取るに足りないものも含め)が、ロングテールのニーズをカバーすることになるだろう。

 ただしWebAPIが普及することは前提条件となる。WebAPIが公開されなければ、企業が用意したユーザーインターフェイスを使わざるを得ないからである。

図7 CGUI(Consumer Generated User Interface)「出所:野村総合研究所」

 CGMとの比較ではCGUI領域はまだまだこれから

 すでにYahoo Widget(画面1)やGoogle Gadgetでは、企業だけでなく消費者(個人)が登録したWidgetやGadgetが多く登録されている。日本人の方の登録も数件ある(図8は、Yahoo Widget Galleryにて掲載されているHaruo Takamatsu氏作のSheep Widgetである。評価も★4つ★5つが満点)で高い)。

 Yahoo Widgetに関していえば、現在(2006年5月19日時点)で2723個のWidgetが登録されている。昨年の2005年8月17日時点では1320個であったことから、ここ10カ月余り倍以上に増加している。

画面1 日本人のYahoo Widget:Sheep Widget 「出所:Yahoo! Widgets

  ただしCGUIをCGMと比較した場合、その数や規模は小さい。ユーザーインターフェイスを作成するペースは、日々数千万人がBlogを記述するペースと比較すれば小さく、Blogのように文字や画像・動画を張り付ける方法と比べ、ユーザーインターフェイス作成の難易度は高い。将来的には、XMLを使ったユーザーインターフェイス開発言語の普及・洗練でハードルは低くなるだろうが、それでもユーザーインターフェイスを自ら作成し公開できる消費者はBlogと比べ少ない。しかし、Blog1つの記事と比較し、ユーザーインターフェイス1つが与える広告的インパクトは大きく、今後、これらユーザーインターフェイスにアフィリエイト・プログラムが付与されれば、その普及はより一層加速し、UI長者が生まれる可能性も否定できない。

図8 Web 2.0におけるリッチクライアントのロードマップ「出所:野村総合研究所」

 野村総合研究所では、これらYahoo WidgetやGoogle Gadgetの現状をCGUIの萌芽とみており、その萌芽期は2008年度まで続き、2009年度ごろからWebAPIの普及とともに成長期に入るとみている(図8を参照)。

3/3 次回もお楽しみに

 INDEX

Yahoo WidgetやGoogle GadgetにみるCGUIの萌芽
  Page1<SOA、Web 2.0、SOX法とリッチクライアントの関係>
もう一度、リッチクライアントとは/これまでのリッチクライアント
  Page2<リッチクライアントを取り巻く環境>
利用者の変化/ユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)とは/Webを取り巻く環境の変化/情報発信者の多様化
Page3<Web 2.0による影響>
CGMとの比較ではCGUI領域はまだまだこれから





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