Insider's Eye新しくて古い「過渡的な」OS、Windows Meが登場―― マイクロソフト、Windows Meを9月23日より発売開始すると発表。ただし営業プロモーションは「Windows 2000」や「Whistler Personal」をにらみ、あくまで「遊び」を強調 ―― デジタルアドバンテージ 小川 誉久2000/09/01 |
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8月28日、マイクロソフトは、記者向け発表会において、Windows Millennium Edition日本語版(以下Windows Meと略。正式な説明ではないが、マイクロソフトの担当者は「ウィンドウズ・ミー」と呼んでいた)を2000年9月23日(土)より発売開始すると発表した(Windows Meに関するマイクロソフトのニュース リリース)。別稿でも紹介しているとおり、Windows Meは、現在のWindows 98 Second Editionの後継となるOSであり、一部に16bitコードを含む、Windows 9xカーネルの系譜をしめくくる最後のOSとなる予定である(Windows Meに関する詳細については別稿「Insider's Eye:Windows Meの全貌」を参照)。
Windows Meは、Windows OSのメジャー バージョンアップであり、本来なら大々的なプロモーションが予想されるところだろうが、すでに発売しているWindows 2000 Professionalや、Windows NTコアを持つ次世代のコンシューマ向けOS、Whistler Personal(開発コード名)をにらみ、今回の発表は控えめなものとなった。この発表会においてマイクロソフトは、「Windows Meは手軽にデジタル メディアで遊んでみたいホーム ユーザーに最適」としながらも、企業ユーザーは言うに及ばず、個人ユーザーであっても、PCの用途が主にビジネス アプリケーションなら、「Windows MeではなくWindows 2000 Professionalを推奨する」と説明した。実際、今回のニュース リリースをよく読むと、Windows Meを発表する内容であるにもかかわらず、「Windows 2000 Professional」という言葉が4回も登場している(「Windows Me」は6回)。
Windows Meは、はたして誰のためのOSなのか? 現Windows 95/98/98 SEユーザーはバージョン アップするメリットはあるのか? ここでは、Windows Meのパッケージ戦略、営業施策などについて触れ、簡単なベンチマーク テストを交えてWindows Meの存在価値について考察してみよう。
Windows Meだけでなく、Windows 2000 Professionalにもバージョン アップできる「選べるWindows」キャンペーンを実施
Windows Me アップグレード版 |
Windows 95/98/98 SEユーザーを対象としたバージョン アップグレード版。オンライン ショップでの予約販売価格は1万2800円だった。 |
Windows Meのパッケージには、Windows 95/98/98 SEユーザー向けの「バージョン アップグレード版」、アップグレード対象となる上記OSを持たないユーザー向けの「通常版」、学生や教員向けの「アカデミック パック」の3種類がある(ただしアカデミック パックはWindows 95/98/98 SEからのバージョン アップ版のみ)。いずれもオープン プライスとのことで、具体的な推定実売価格などは公表されていないが、販売価格は相当するWindows 98パッケージの価格にほぼ等しくなるとしている。一部のオンライン ショップでは、すでにWindows Meの各パッケージの予約販売を行っている。たとえばimpress Directでの価格をみると、「バージョン アップグレード版」は1万2800円、「通常版」は2万3800円、「アカデミック パック」は8800円であった。
今回のWindows Meの発売にあたってマイクロソフトは、「選べる! Windowsキャンペーン」と銘打った販促キャンペーンを実施する(キャンペーンの詳細については、マイクロソフトの当該ページを参照)。これは、従来バージョンのWindows 9xから、Windows Meへの移行を促すキャンペーンであるが、同時にWindows 2000 Professionalへの移行も選択可能となっている。
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具体的には、キャンペーン期間中(2000年9月22 16:00から12月31日まで)にだけ販売される廉価版のバージョン アップ パッケージを提供するというもので、現Windows 98/98 SEユーザーを対象としたWindows Me期間限定特別パッケージ(推定小売価格:6400円)と、現Windows 95/98/98 SEユーザーを対象としたWindows 2000 Professional期間限定特別パッケージ(推定小売価格:1万6800円)を販売する。本来、Windows 95/98からWindows 2000 Professionalへのプロダクト アップグレード パッケージの推定小売価格は2万7400円なので、この期間限定版は約1万円程度割安ということになる。
なおここで、Windows 95ユーザーが選択できる期間限定パッケージは、Windows 2000 Professionalだけであることに注意する必要がある。Windows 95が販売されていた1995年〜1997年当時のPCに対し、OSのバージョンアップを行うのは現実的ではない。したがってPCの買い換えは避けられないとして、その際に今回の特典を活かす道は、Windows Meではなく、Windows 2000 Professionalしか用意されていないということだ。どうしてもWindows Meに移行したければ、特典つきではないが、Windows Meプレインストール モデルを購入することになるだろう。少々うがった見方をすれば、「プレインストール モデルでなければ、Windows MeでなくWindows 2000 Professionalに移行してほしい」という気持ちの表れともとれる。
誰がためのWindows Me?
マイクロソフトが今回発表したWindows Meのパッケージ戦略、営業施策が分かったところで、次はユーザーの視点から、Windows Meの存在意義について考えてみよう。
詳細は別稿にて解説しているが、ここでもう一度、Windows Meの特徴や新機能について、主要なものだけを一覧表にまとめてみる。
特徴・新機能 |
内容 |
よりやさしい操作性の追求 | システムの復元ウィザード |
システム ファイルの保護機能 | |
ヘルプ センターの改良。従来のヘルプ インターフェイスから、よりWebインターフェイスに近いものに改良。ローカル/インターネットの区別をすることなく、ユーザーはここからオンライン ドキュメントや、マイクロソフトおよび他のベンダのサポート情報にアクセスできるようにされた | |
サポート自動化フレームワーク。ベンダのサポート情報をWindows Meのヘルプ センターに統合し、特定のベンダに依存することなく、透過的にこれらの情報にアクセスできるようにした | |
手軽に始めるデジタル メディア | デジタル ビデオ編集ソフトウェアのWindowsムービー メーカーを標準で提供 |
デジタル画像の自動取り込み。Windows Imaging Acquisition(WIA)を実装し、アプリケーションとデジタル スチル カメラなどのイメージ デバイスが透過的にやり取りできるようにした | |
Windows Mediaプレーヤー7。音楽CDの内容を圧縮してPCのハードディスクにコピーしたり、それらをCD-Rメディアに書き込んだりと、最新機能を多数盛り込んだMedia プレーヤーの最新版 | |
より快適なインターネット環境 | Internet Explorer 5.5。最新のDHTMLサポート、印刷プレビュー機能、128bit暗号化機能などを追加したIEの最新版 |
Outlook Express 5.5。Outlook Express 5.01のバグフィックス版 | |
ホームネットワーク ウィザード。インターネット接続共有やファイル/プリンタ共有を行うためのウィザードを追加 | |
Windows Meの主要な特徴と新機能 |
しかしこのうち、Windows Mediaプレーヤー7やInternet Explorer 5.5、Outlook Express 5.5については、マイクロソフトのWebサイトから無償でダウンロードしたり、PC関連雑誌の付録CD-ROMに収録されていたりと、Windows Meに独自の機能というわけではない。これらを入手してWindows 98 SEなどに組み込めば、追加投資を行うことなく、Windows Meとほぼ同等の環境を実現できることになる。
するとWindows Meに独自の機能としては、システム ファイルの保護機能、ヘルプ インターフェイスの改良(サポート フレームワークの改良を含む)、Windowsムービー メーカー、WIA対応、ホームネットワーク ウィザードということになろう。必要な機能や、それらの重要度について、1ユーザーが軽々しく評価するものではないが、少なくとも筆者にとって突出して見えるのは、Windowsムービー メーカーくらいであろうか。本稿の読者なら、Windows 95の豊富な利用経験をお持ちだろうから、システム ファイルの保護機能や、システムの復元ウィザードなどなくても自分で対処できるだろう(これまでだって対処してきたのだ)。使い勝手の問題を考えなければ、WIAなどなくても、デジタル スチル カメラをお持ちの読者は、撮影した画像をPCにコピーする手段をすでに持っているはずである。ホーム ネットワーク ウィザードも言うに及ばずであろう。
現Windows 98/98 SEユーザーにとってのWindows Me
誤解を恐れずに私見を述べれば、現Windows 98/98 SEユーザーにとってのWindows Meは、「6400円を支払って、Windowsムービー メーカーを買うかどうか」の選択ではないかと思える(期間限定パッケージを購入した場合)。Windowsムービー メーカーはよくできたソフトウェアで、デジタル ビデオで撮影した映像などを簡単に編集することができる。ただし、あくまで手軽さを追求したものであって、本格的なプロ用途に耐える機能は持ち合わせない。たとえば、生成可能なファイル フォーマットはWindows Mediaビデオ フォーマット(WMV)に限定されているし、データのビット レートも、28.8kbps〜768kbpsの7通りに固定されていて、これら以外の値に変更することはできない。
一般的には、ビデオ キャプチャ カードを購入すると、それなりに使える動画編集ソフトウェアが添付されていることが多い。こうしたソフトウェアが手元にあるにもかかわらず、さらにWindowsムービー メーカーに追加投資をする価値があるかどうかは、慎重に検討する必要があるだろう。また新機能に目を奪われるばかりでなく、次に述べるWindows Meの性能面や、問題点などについても吟味が必要だ。
これから新規にPCを購入するユーザーにとってのWindows Me
今回のマイクロソフトの発表とタイミングを同じくして、大手PCメーカーなどから、一斉にWindows Meをプレインストールするモデルの発表があった。特別な理由でもないかぎり、今後コンシューマ向けPCにプレインストールされるOSの主流は、Windows 98 SEからWindows Meに移行するだろう。本体を購入したら、自動的に付いてくるプレインストールOSなら、Windows 98 SEよりも、新しいWindows Meのほうが無条件によいと思うかもしれない。理屈ではそのとおりだ。しかし少々気になる情報もある。
■予想外に「重い」Windows Me
1つは、Windows Meの実行性能の問題だ。米国のPC関連雑誌では、Windows 98 SEとWindows Meでベンチマーク テストを実施し、その結果を公表しているのだが、「Windows Meの性能は驚くほど低い」と酷評したものが少なくない。原因は明確ではないが、そのうちの1つの記事では「システム ファイルの保護機能など、システムの信頼性を向上させるための機構がオーバーヘッドになっているのではないか」と結論づけている。
そこで編集部でも、ベンチマーク テストをWindows 98 SEとWindows Meの双方で実行してみた。今回実施したベンチマーク テストは、米BAPCo社のSYSmark2000というアプリケーション ベンチマーク テストで、Microsoft Word/ExcelやAdobe Photoshopなど、実際のアプリケーションを使って総合的なアプリケーション性能を評価するものである(SYSmark2000の詳細については「PC Insider:Ultra DMA/66の実力を測る」を参照)。ただしこれは英語版アプリケーションを使った、英語環境向けのベンチマーク テストであること、今回利用したバージョンは、明確にはWindows Me対応はうたわれていないことから、得られた結果はあくまで参考値として受け止めるべきだろう。なお、Windows 98 SEのテストでは、Windows SEのインストール後にWebブラウザ環境をIE 5.5にバージョンアップしている。これ以外は、Windows Me、Windows SE 98ともに、クリーン インストールを行った直後の状態でテストしている。
テストを実施したPCのハードウェア環境は次のとおり。
CPU | Intel Pentium III-866MHz(FSB:133MHz) |
メイン メモリ | 128Mbytes(PC133 SDRAM DIMM×1) |
チップセット | VIA Apollo Pro133A |
マザーボード | Aopen AX64pro |
ハード ディスク | 15Gbytes IDEドライブ(Ultra DMA/66対応、IBM製DPTA-351500) |
ハードディスク インターフェイス | Promise Technology製PCI IDEカード(Ultra100) |
グラフィックス | クリエイティブ メディア製AGPグラフィックスカード(Graphics Blaster RIVA TNT、アクセラレータ:NVIDIA製RIVA TNT、ドライバ:Detonator 3 Version 4.12.01.0618) |
ネットワーク | 無効(スタンドアロン環境としてテスト) |
ベンチマーク テスト環境 |
ベンチマーク テスト(SYSmark2000)の実行結果は以下のとおり。結果の数値はSYSmark2000独自のインデックス値で、数値が大きいほど性能が高いことを示す。
Windows 98 SEとWindows Meでのアプリケーション ベンチマーク(SYSmark2000)の実行結果 |
繰り返すが、この結果はあくまで参考値である。それにしても驚くなかれ、Windows Meの結果(99)は、Windows 98 SE(133)と比較して、約32%も遅い。何かの間違いではないかと思い、何度かテストを繰り返してみたが、結果は変わらなかった。今回は原因を追求する余裕はなかったが、全般的には、グラフィックス処理が多いアプリケーションでの差が大きいように思えた。原因がグラフィックス処理だとすると、使用するグラフィックス カードやグラフィックス ドライバによって、結果は大きく変化する可能性はある。ただし、Windows Meが3割以上も遅いという結果は、くだんの米PC関連誌の結果とほぼ一致していることを述べておく。
■新しいOSにはバグがつきもの?もう1つ気になる点は、バグなどの問題点だ。ここに興味深いWebサイトがあるので、まずはこちらをひと目ご参照願いたい(富士通が運営する「FMWORLD.NET」における「Windows Me 一般的な留意事項」)。ご覧いただけば分かるとおり、このWebページは、Windows Meを使う上での一般的な留意事項(注意事項)をまとめたものだ。基本的にこのページは、富士通製PCのユーザーに向けて、Windows Meを使う上での注意点をまとめたものなので、機種依存の情報などもあるが、目立ったところをいくつか挙げると、「全角長音をコンピュータ名やワークグループ名に含めると文字化けする」、「PCカード使用時にスタンバイすると、USBマウス/キーボードでレジュームできない場合がある」、「『Windowsの終了』メニューから、『スタンバイ』が消える」など、あきらかにWindows Meのバグと思えるものも少なくない。
ここで目についたのは、「ログオン・ログオフを繰り返すとリソースが減少して元に戻らない」という問題点だ。このページによれば、リセット以外の解決法はなく、「定期的に再起動してください」と推奨されている。これについても、編集部で簡単な実験を行ってみた。
具体的には、ログオン・ログオフを繰り返し実行し、リソースの減り具合をシステムに付属のリソース メーター ツールで調査した。
Windows Meでログオン・ログオフを繰り返した場合のリソースの減少 |
画面(上)は起動直後のリソース メーターの状態、画面(下)は20回ログオン・ログオフを繰り返した場合のリソース メーターの状態である。富士通のWebページで指摘されているとおり、20回のログオン・ログオフによって、システム リソースは6%(92%→86%)減少した。 |
このように、富士通のWebページで指定されているとおり、ログオン・ログオフを20回繰り返したところ、システム リソースは6%(92%→86%)減少した。画面から分かるとおり、GDIリソースはまったく変化しておらず、Userリソースだけが減少している。
UserリソースとGDIリソースのうち、少ないほうが「システム リソース」として、エクスプローラのバージョン情報ダイアログなどに表示される。この値が20%を下回るようだとリソース不足がかなり深刻であり、10%を切るようだと、いつシステムがハングアップしてもおかしくない状態だといえる。
ちなみに、これがWindows Meに特有の問題かどうか、同様の実験をWindows 98 SEに対しても行ったところ、システム リソースは94%→86%と、8%も減少し、同様の結果であった。どうやらこの問題は、Windows Meに特有のものではなく、Windows 9xで共通の問題なのだろう。またさらに、Windows 2000 Professionalに対しても同じ実験を行ったところ、Windows 2000でも若干のリソースの減少が確認された。この後ログオン・ログオフを繰り返すことによって、リニアにリソースが減少するのかどうかは不明だが、Windows 2000には、リソースに関する16bit空間(64Kbytes)の制限がないので、実質的にこれが問題になることはないだろう。
■無条件に「新しいからよい」とは言えない
このようにWindows Meには、新機能の提供というメリットがある一方で、パフォーマンスの低下や問題点の存在など、無視できないデメリットがありそうなことが分かった。新規にPCを購入する場合、プレインストールOSとして、従来のWindows 98 SEを選択できるチャンスは減少すると思われるが、Windows Meを選択することには、上で述べたような問題が内在していることを踏まえる必要があるだろう。筆者は、Windows 9xコアでなければならない特別な理由がないかぎり、多少は価格が高くても、また多少選択肢が制限されたとしても、Windows 2000 ProfessionalをプレインストールしたPCの購入を検討すべきと考える。
そしてWhistler Personalへ
先ごろマイクロソフトは、新世代インターネット戦略であるMicrosoft .NET(ドット・ネット)を発表した(「Insider's Eye:米Microsoft、新世代インターネット戦略を発表」)。この計画によれば、2001年後半には、コンシューマ向けWindows OSとしても、Windows NTコアを持つWhistler Personalが出荷される予定である(「Insider's Eye:ビル・ゲイツ氏、.NETによるパラダイム シフトを開発者に力説」)。このWhistlerでは、.NET戦略の第一歩となる機能が組み込まれるとされている。
記者発表会での説明によれば、Windows Meの開発を担当していたConsumer Windows Divisionは解散され、スタッフはWhistlerの開発部門などに配置転換される予定だという。マイクロソフト社内では、16bitの呪縛を抱えるWindows 9xコアはもはや過去のもので、今後はフル32bitのWindows NTコアを持つ新世代のWhistler、および.NET構想に向けて全力を傾けることになる(「16bitの呪縛」については、別稿の「特集:Windows 9x or Windows 2000?」を参照)。
マイクロソフトをして、「過渡的なOS」と位置づけさせた新しくて古いOS、Windows Meへの投資は慎重でありたい。
「Insider's Eye」 |
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