Insider's Eye

ビル・ゲイツ氏、.NETによるパラダイム シフトを開発者に力説

―― 恒例となったWindows開発者向け一大イベント、PDCが開催。もちろんテーマは.NET。果たして開発者の反応は? ――

デジタルアドバンテージ 小川 誉久
2000/07/14

 米Microsoftは、2000年7月12日より、フロリダ州オーランドにおいて、恒例のProfessional Developers Conference(PDC)を開催した。PDCは、開発者を対象として、毎年開催されるカンファンレンスで、例年、Microsoftの次世代環境を担う技術やOS、開発環境などが開発者向けに披露される。当然ながら、今回の目玉はといえば、先ごろ発表されたばかりのMicrosoft .NETプラットフォームである(先の発表については別稿「Insider's Eye:米Microsoft、新世代インターネット戦略を発表」を参照)。この発表において、インターネットをも融合する次世代のWindows環境に関するビジョンが明らかになったが、今回のPDCでは、それを実装することになる開発者に対して、さらに具体的な情報が提供されるはずだ。ここでは、PDC 2000開催初日に行われたビル・ゲイツ氏のキーノート スピーチを中心に、ポイントをまとめてみよう(PDC 2000におけるビル・ゲイツ氏のキーノート スピーチ)。

アプリケーション=Webサイト

 すでに触れたとおり、Microsoft .NETプラットフォームが目指すゴールを最も外側で表現すれば、「Windows環境とインターネットの融合」ということになるだろう。現在、多くのインターネット ユーザーは、Windowsを搭載したPC上でブラウザ(Internet Explorer:IE)を起動し、ここからインターネットの各種Webサービスにアクセスしている。つまりユーザーにとって現在のWindowsは、あくまで情報倉庫であるインターネットにアクセスするための道具でしかない。

 今度はアプリケーションの側から見てみよう。Windowsは、WinSockなどのネットワークAPIをアプリケーションに提供しているので、これらを使ってアプリケーションがインターネットにアクセスすることは可能である。しかしその場合でも、サポートされるのはTCP/IPレベルの通信手順であって、たとえばWebサイトにアクセスするには、HTTPHTMLなどの上位プロトコルを独自に処理しなければならない。事実上、メールソフトウェアやWeb巡回ソフトウェアなど、それらを主目的とするアプリケーションでなければ、インターネット アクセス機能を追加するというは不可能であった。

 これに対しビル・ゲイツ氏は、「Windowsにファイル システムがあるように、.NET世界では、これよりもさらにリッチなXMLベースの情報ストレージがインターネット上に構築される」と述べる。アプリケーションの立場でこれを言い換えれば、「.NET環境では、ファイルを取り扱うのと同じように、インターネット上にある情報に手軽にアクセスできるようになる」ということだろう。

 さらに一歩進めれば、アプリケーションを実現するためのプログラム コードは、何もローカル ハードディスクに存在する必要もない。「現在、私たちは、アプリケーションとWebサイトを別々のものとして捉えているが、.NETによってこれらは1つになる。一部のWebサイトは、他のアプリケーションよりもリッチなアプリケーションとして機能するようになるだろう。これらのWebサイトは、PC上で実行されるソフトウェアと統合可能なコードを含んでおり、それらが実行時にPCに送り込まれる。これはもはやアプリケーションという枠に収まるものではなく、サービスと呼ぶべきものだ」とビル・ゲイツ氏は説明した。

Whistlerの出荷は2001年後半

 先日のMicrosoft .NETの発表から日が浅いこともあって、目新しい情報は少ないが、Microsoft .NETプラットフォーム戦略のロードマップに関する追加説明もなされた。

 .NET戦略の第一歩となるのは、今回のPDCでプレビュー版が参加者に配布されたVisual Studio.NETである。これはWindows向けのプログラム開発環境の最新版で、次世代のXMLベースのWebサービスを開発するための機能が追加されている。先日発表された新言語処理系のC#(Cシャープ)もこれに含まれる。

 .NETのためのユーザー インターフェイスは、将来発表される2つのWindowsバージョンによって段階的に実装していく。その第一弾となるのはWindows Whistler(ウィスラー)で、ビル・ゲイツ氏は「2001年後半に出荷予定」と述べた(Windows Whistlerの詳細については別稿の「Insider's Eye:ベールを脱いだWhistler」を参照)。Windows Whistlerには、2つの大きな役割がある。1つは、一部に16bitコードを残すWindows 9xコアを含む製品をなくし、すべてのWindows OSをフル32bitのNTテクノロジ ベースにすることだ。ビル・ゲイツ氏は、「So it will be Windows 2000 Professional at the high end, Windows 2000 Personal on the consumer machine.(ハイエンド市場はWindows 2000 Professionalに、コンシューマ市場はWindows 2000 Personalになる)」と述べた。ここで数字は「2001」の誤りではないかと思われるが、コンシューマ向けWindows Whistlerの製品名には「Personal」が付けられる予定のようだ。

 そしてもう1つは、デバイスドライバが一本化されること、機能が豊富でセキュリティ機能も備えるNTFSがすべてのユーザーから使用可能になることである。WDM(Windows Driver Model)など、Windows NT(Windows 2000)とWindows 9xのデバイス ドライバの共通化も検討されたものの、現実には、今もってなお、両者向けに別々にドライバを開発しなければならないデバイスが少なくない。面倒な手間が減るという意味かどうか、この発言を聞くや、会場からは拍手が巻き起こった。

 Whistlerでは、アイコンを1クリックするだけで、ファイルをインターネット上のMicrosoftコミュニティ サイトに保存することができるという。Whistlerでユーザーアカウントを作成すると、同時にインターネット上にあるMicrosoft Passportにもアカウントが作成され、以後はPassport認証を使用するすべてのWebサイトに対する認証をPassportで受けられるようになるという。

そしてWhistlerからBlackcombへ

 前述した「ブラウザをすべてのユーザー インターフェイスの基礎にする」というゴールに向けた第一歩は、Whistlerで踏み出されることになるが、さらに次の一歩は、Whistlerの次バージョンが担う。これは開発コード名Blackcomb(ブラック・コウム)と呼ばれるもので、このBlackcombでは、ユーザー インターフェイスが大幅に改良されるという。詳細は不明だが、その1つとして、先の.NETの発表会でビル・ゲイツ氏がデモンストレーションを行った「Type-in Line」と呼ばれる技術を全面的に採用する。このType-in Lineは、入力された文章の意味をコンピュータが判別し、それにコンピュータが音声合成などで応答できるようにするテクノロジで、たとえば「Checking for the latest updates on that index(最新の[株価]インデックスをチェックせよ)」とタイプすると、この命令の意味をコンピュータが解釈し、「As of 9:10 A.M. the Dow industrial average is down minus 64 at 10,433.74.(午前9:10現在のダウ工業平均は64ポイント マイナスの10,433.74です)」と音声で応答するというものだ。これによりコンピュータ システムは、本当の意味での情報エージェントとして機能できるようになる、としている。

 ただしプログラマにとって重要なことは、WhistlerからBlackcombに移行しても、プログラミング モデル自体は変化しないということである。今回提供されたVisualStudio.NETでのモデルは、Blackcombでもそのまま通用する模様だ。

Intel Itaniumプロセッサ向けの64bit版Windowsのプレビュー リリースを発表

 今回のPDC 2000において、MicrosoftとIntelは、Intelが開発を進めている64bitプロセッサのItanium(アイテニアム)搭載システムに向けた64bit版Windowsのプレビュー リリースを発表した。今回の発表に先立ち、Itaniumシステム対応のソフトウェアを開発するためのSDK(Software Development Kit)と、デバイス ドライバを開発するためのDDK(Device Driver Development Kit)もアップデートされた。

 「セグメント ベースの16bitメモリ モデルから32bit環境への移行は、トリッキーな処理を必要とする大変な作業だった。しかし、32bitから64bitへの移行では、単に32bitポインタを64bitポインタとして扱うだけでよい」、「32bitアプリケーションを64bit Itanium環境に移植する作業は、16bitから32bitへの移植に比較すれば劇的に簡単なことだ」とビル・ゲイツ氏は述べる。確かに、ハードウェアのメモリ アーキテクチャに直接依存するようなコードを含んでいたWin16アプリケーションに比較すれば、基本的にWindows APIだけを使用しているWin32アプリケーションでは、多くのコードは再コンパイルだけで64bit環境に移行できるだろう。

Internet Explroer 5.5を発表

 今回のPDC開催に合わせて、Internet Explorer(IE)の最新版であるIE 5.5のダウンロード サービスが開始された(米MicrosoftのIEのホームページ)。

Internet Explorer 5.5
最新のIE 5.5では、性能の向上、印刷プレビューなどの機能追加がなされた。

 このIE 5.5では、性能の向上と、印刷プレビューなど一部の機能が追加された。とはいえ全般的には、目立った変化はなく、一見しただけでは、従来のIE 5.0とIE 5.5の違いを見分けることは難しいだろう。

IE 5.5で追加された印刷プレビュー
IE 5.5では、待ちに待った印刷プレビュー機能が追加された。左上にある設定ボタンを押すことで、ここから用紙の方向(横置き、縦置き)や余白などを調整することも可能だ。

 しかしIE 5.5の最も重要な役割は、エンド ユーザーが利用可能な機能を豊富にすることではなく、ブラウザをOSのプレゼンテーション コンポーネントとするための準備を進めることだ。このためIE 5.5では、プログラマ向けの数々の機能拡張が施されている。主要な機能としては、(1)HTMLドキュメントの一部を編集可能リージョンとし、これによってたとえばフォームの入力フィールドをカスタマイズ可能にする「HTML編集サービス」、(2)レイアウト機能を強化するCSS 1(Cascading Style Sheets)、(3)日本語や中国語の縦書きレイアウト サポート、(4)複数フレームを単一のインスタンスで扱うことで、複数フレームからなるページのロード時間を大幅に高速化、(5)ストリーミング メディアでの同期処理を可能にするSMIL(Synchronized Multimedia Integration Language) Boston仕様をサポート、などである。

Microsoftの基本アプローチはプラットフォームを開発者に提供すること

 「Microsoftの基本的なアプローチは、プラットフォームを構築し、そこに多くの優れた開発者に集まってもらい、ソリューションを開発してもらうことだ。こうしたアプローチ自体は初めからずっと変わらない」とビル・ゲイツ氏はスピーチの最後を締めくくった。確かにMicrosoftは、Microsoft BasicからMS-DOS、Windows、Windows NTと、開発者とともにパーソナル コンピュータ市場を拡大してきた。その実績は誰の目からも明らかだろう。

 果たして次世代の.NETでもこれと同じ方程式が成り立つのか? それとも今までとは違ったシナリオが用意されているのか?ビル・ゲイツ氏が言うとおり、その鍵を握るのは優れた開発者であり、彼らが自分の時間を.NETに投資してくれるかどうかにかかっていることは間違いない。End of Article

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  関連リンク
  Microsoft .NET Webサイト
  PDC 2000におけるビル・ゲイツ氏のキーノート スピーチ[英文]
  米MicrosoftのIEのホームページ[英文]
  Bill Gates Rallies Legions of Developers With .NET Platform Vision[ニュースリリース、英文]
  Microsoft and Intel Announce Preview Release of 64-Bit Windows for Intel Itanium Processor [ニュースリリース、英文]
  Microsoft Internet Explorer 5.5 Technologies Designed to Support Rich, Interactive Web Applications [ニュースリリース、英文]
  Microsoft .NET Framework Unites Programming Languages For Web-Based Future[ニュースリリース、英文]
     
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