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企業向けリアルタイム・コミュニケーションの本命が登場

―― RTC Server 2003の概要と課題 ――

Rob Helm
2003/06/27
Copyright(C) 2003, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc

 
本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌「Directions on Microsoft日本語版」 2003年6月15日号 p.48の「企業向けリアルタイム・コミュニケーションの本命が登場」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 Microsoftは、2003年第3四半期に発表されるサーバ製品と開発者向けキットにおいて、インスタント・メッセージング、音声、ビデオ、およびそのほかのリアルタイム・コミュニケーション機能をサポートすることを発表した。SIP(Session Initiation Protocol)をベースにしたReal-Time Communications Server(従来「Greenwich」という開発コード名で呼ばれていた製品)が、Exchangeで提供していたサービスに代わって、ついにMicrosoftの企業向けリアルタイム・コミュニケーション製品として登場する。それと同時に、開発者向けキットを使用することにより、ヘルプ・デスク・システムなどのアプリケーションに対して、SIPルーティングの機能を追加できるようになる。しかし、製品と開発者向けキットの両方について、技術面とライセンス面で多くの懸案事項が存在する。

 前述の発表では、Greenwich(グリニッジ)は、Windows Serverに対する無料のアドオンとしてではなく、製品として提供されるということであった。このことは、SIP製品を扱っていて、Microsoftからコストのかからない製品が提供されては競合が難しいと考えている、CiscoやLotusなどの企業にとっては歓迎されるだろう。

企業利用を実現するリアルタイム・コミュニケーション機能

 Real-Time Communications Server(RTC)2003では、SIPのサーバ機能をサポートする。Microsoftは、SIP機能をすでにWindows XPおよび同製品のWindows Messengerでサポートしている(Windows Messengerは、Exchangeインスタント・メッセージングおよびパブリックな.NET Messengerサービスが使用する別のプロトコルもサポートする)。SIPは、インスタント・メッセージング(IM)や音声通話、ビデオ会議、アプリケーション共有などのリアルタイム・コミュニケーション・セッションの開始と終了に使用される標準プロトコルである。SIPを使用することでユーザーは、ネットワーク上の相手の場所を特定し、コミュニケーション・セッションを開始/終了することができる。SIP自体は、セッション中に交換されるデータを管理したり、IMやビデオ・ストリーミングなどの機能を提供したりするわけではない。これらの機能は、SIPを土台にして機能する、SIMPLE(SIP for Instant Messaging and Presence Leveraging Extensions)などの別のプロトコルによって提供される。

 RTC Serverは、SIPベースのポイント・ツー・ポイントのリアルタイム・コミュニケーションを目的とした企業向け製品となる予定である。この製品が実行するタスクとして、次のものが挙げられる。

■セッションのルーティング(プロキシ)
 RTC ServerはSIPプロキシとして機能し、公開ユーザー・アドレスに送信されたSIPセッションを、そのユーザーの実際のネットワーク上の場所あてにルーティングを行う。例えば、呼び出し側が、あるユーザーの電子メール・アドレス(例:rhelm@directionson.com)に対してIMセッションを開始したとする。RTC ServerはそのIMセッションを、そのユーザーが現在いるコンピュータ(例:asterix.dom.com)あてにルーティングする。

■登録および場所の特定(ロケーション)
 RTC Serverは、SIPのレジストラ・サーバおよびロケーション・サーバとして機能する。これにより、ユーザーはその時点のネットワーク上の場所を登録し、SIPプロキシ(RTC Server内のSIPプロキシを含む)がセッションのルーティングの際にユーザーの場所を参照できるようにする。

■認証およびアクセス制御
 RTC ServerはActive Directoryを利用してユーザー認証を行い、組織のポリシー(顧客サービス・オペレータあてのものを除いて、インターネットからのIMセッションはブロックするなど)を適用する。

■IMおよびプレゼンス
 RTC ServerはSIMPLEを実装する。これにより、ユーザーはネットワーク上の場所に加え、プレゼンス・ステータス(オンライン、離席中、話し中など)の登録、ほかのユーザーのプレゼンス・ステータスの確認、テキスト・メッセージの交換が可能となる。

 RTC Serverは、2当事者間のポイント・ツー・ポイントのコミュニケーション・セッションのみをサポートし、電話会議、ビデオ会議のブロードキャスト、テキスト・チャットなど、当事者が3者以上存在する場合のセッションはサポートしない。

SDKを使ってSIPベースのアプリケーションが作成可能に

 RTC Serverを補完するのが、開発者向けのSDKである。このキットで最も注目すべきコンポーネントは、アプリケーションとともに再配布可能なStripped-down SIPプロキシである。このプロキシを利用することで、例えば音声の着信呼び出しを一定時間内で最も手の空いているオペレータに転送するヘルプ・デスク・アプリケーションなど、SIPセッションのルーティングを行うアプリケーションを作成可能となる。

 ただし、このキットには、RTC Serverのそのほかの機能(登録や認証、IMなど)は用意されていない。開発者は、アプリケーションの中でこれらの機能を自分で作成するか、Microsoftやほかのベンダから提供されるSIPインフラストラクチャを利用する必要がある。

不透明なライセンス形態と技術情報

 RTC Serverおよび再配布可能なプロキシはいずれも、Windows Server 2003でのみ実行可能である。また、RTC ServerにはActive Directoryが必要となる。

 Microsoftは、RTC Serverの価格設定については発表していない。特に、Exchange IM(Exchange 2000に付属)およびExchange 2000 Conferencing Server(単体の製品)のユーザーがそれぞれのライセンスをRTC Serverに移行できるかどうかについて明らかにしていない。RTC ServerのSDKは、MSDNのユニバーサル・サブスクリプションの開発者には提供されるが、それ以外のどのサブスクリプション・レベルにSDKを提供するかについても、Microsoftはまだ決定していない。

 最後に、RTC ServerまたはRTC Server SDKに関する技術情報は相対的にみて、ほとんど公開されておらず、RTC Serverのパブリック・ベータ・テストはまだ行われていない。そのため、RTC ServerとRTC Server SDKの機能は変更される可能性がある。End of Article

参考資料

  • RTC Serverのビジネス事例に関する背景については、Directions on Microsoft日本語版2002年11月15日号の「Greenwichが来年リリース、IMとリアルタイムコミュニケーションをサポート」を参照。

  • Microsoftによるリアルタイム・コミュニケーション・クライアントおよびパブリック・サービスのロードマップについては、Directions on Microsoft日本語版2003年4月15日号の「混迷するインスタント・メッセージング製品の分裂」を参照。

  • Master of IP Network:【トレンド解説】マイクロソフトがIP電話を面白くする!?

Directions on Microsoft日本語版
本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。Directions on Microsoftは、同社のWebサイトより定期購読の申込みができます。
 
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