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見え始めた「Yukon」の全貌

―― 2004年後半出荷へ課題が残る次期SQL Server ――

Peter Pawlak
2003/08/02
Copyright(C) 2003, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc

 
本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌「Directions on Microsoft日本語版」 2003年7月15日号 p.14の「見え始めたYukonの全貌」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 Microsoftの最近の発表でSQL Serverの最新のロードマップが明らかになった。SQL Serverの次期バージョンである「Yukon(開発コード名:ユーコン)」の出荷は2004年後半にずれ込む見通しだ。このことは同製品に依存するほかの製品のスケジュールに影響を与えると見られるほか、ソフトウェア・アシュアランス・ライセンスを利用している一部の顧客にとって、SQL Server 2000がアップデートされる前にこのライセンス・オプションの契約期間が終了する可能性があることを意味する。また、SQL Serverのアドオンとしてデータベース・レポートを生成するReporting Servicesが2003年末までに出荷されることも発表された。この製品はSQL Server 2000上で作動する。

 Microsoftはまた、SQL Serverベースのソリューションを構築する開発者の拡大を目指し、SQL Server 2000 Developer Editionを大幅に値下げした。

Yukon出荷延期の影響度

 Yukonは、XMLやWebサービスのネイティブ・サポート、レプリケーションの強化、可用性と拡張性の向上などの新たな特徴を持つ。またYukonでは、Visual Studio .NETと.NET FrameworkがSQL Serverアプリケーションの開発環境となる(Microsoftがこれまでに公表しているYukonの製品説明の内容については、コラム「公開されたYukonの概要」を参照)。

 Microsoftは2003年6月開催のTechEdカンファレンスまでにYukonのベータ1をリリースすることを目指していた。だが同社は現在、Yukonのベータは2003年後半にリリース予定で、2003年10月開催のProfessional Developers Conferenceに間に合うようにリリースされる公算が大きいとしている。

 TechEdでのPaul Flessner(ポール・フレスナー)氏(エンタープライズ・サーバ担当上級副社長)のコメントによると、Yukonは予定より遅れて2004年後半に出荷される見通しだ。Flessner氏は、出荷延期は特定の機能に原因があるわけではなく、「ミッションクリティカルなアプリケーションで求められる品質を確保するには、Yukonには従来の計画よりも大規模なテストが必要とSQL Serverチームが判断したため」と説明した。

 Microsoftの製品スケジュールはしばしばずれるが、Yukonのスケジュール変更の影響は、次のような理由から他の場合よりも甚大だ。

■他製品との大きな依存関係
 Microsoft製品の多くはYukonやその要素技術に依存する。特に、Yukonの技術は開発コード名「Longhorn(ロングホーン)」で呼ばれるWindowsの次期リリースで導入される新しい高機能のファイル・システムであるWindows Future Storage(WinFS)の要を担っている。また、同社は2003年3月に開催したMicrosoft Management Summitで、Microsoft Operations Manager 2004はYukonに依存した製品になると述べていた。Yukonのスケジュールのずれはこれらのいずれか、または両方の出荷の遅れにつながりそうだ。

 さらに広く見ると、Yukonの遅れは、同製品に依存するそのほかの多くの製品や技術の将来バージョンの出荷時期にも影響する可能性がある。その中にはBizTalk Server、Commerce Server、Content Management Server、Exchange、SharePoint、Systems Center Suiteなど、Microsoftのビジネス・ソリューションズ部門の多くの製品が含まれる。

■ソフトウェア・アシュアランス(SA)の失効
 SQL Server 2000は2000年8月に出荷されたが、同製品を2002年7月31日より前に購入した顧客は、次期バージョンへのアップグレードを希望していた場合、この日までにソフトウェア・アシュアランス(SA)ライセンスに基づくアップグレード権を購入しなければならなかった。その際に多くの顧客は2年間のアップグレード権を購入したため、その権利はアップグレードの機会が訪れる前に切れる恐れがある。最近MicrosoftはSAの追加特典を発表したが、最大の特典はやはりアップグレード権にある。Yukonの遅れにより、SA契約の価値に対する一部顧客の意見が厳しくなるのは必至だ。

公開されたYukonの概要
 Yukonはまだベータ・テストに入っておらず、Microsoftは仕様に関する情報を公表し始めたばかりだ。このため、この製品はいくつかの概要が知られているにすぎない。

■SQL Server 2000の上位互換
 YukonはSQL Server 2000の完全な上位互換となり、IntelのItaniumプロセッサ・ファミリ上で64bitサポートを提供するほか、Business Intelligence Services(これまでAnalysis ServicesやOLAP Servicesと呼ばれてきたサービス)、Notification Services、Reporting Servicesを搭載する。また、従来のSQL Serverと同じくTransact-SQL(クエリやストアド・プロシージャ、トリガを作成するためのSQL Serverのネイティブ・プログラミング言語)をサポートするだけでなく、この言語に対する拡張機能も備える。

■.NETとの統合
 Yukonは、データベース・エンジンに.NET Frameworkとその共通言語ランタイム(CLR)が組み込まれ、Visual Studio .NETの将来バージョン(開発コード名「Whidbey:ウィドビー」)と緊密にリンクされる。これにより、開発者は任意の.NET対応言語(C#など)を用いてYukonベースのアプリケーションを作成、デバッグできる。また、CLRの統合により、Yukonではユーザー定義のデータ型や関数を作成でき、開発の柔軟性が向上する。

■XMLのネイティブ・サポート
 Yukonは従来のSQL Serverと同様にリレーショナル・データ構造をサポートするだけでなく、XML形式の非リレーショナル・データの格納と操作をネイティブにサポートする。また、クエリ言語のXQueryやXSD(XML Schema Definition)言語など、関連するXML規格をネイティブにサポートする。

■Webサービスのネイティブ・サポート
 現在、SQL Server 2000上でWebサービスを構築するためのインターフェイスがSQL Server 2000 Webサービス・ツールキットで提供されている。だがYukonでは、SOAP(Simple Object Access Protocol)とWebサービスのサポートが組み込まれ、このアドオン・ツールキットを使用した場合を大きく上回る性能のWebサービスを実現できる。この機能は、SQL Serverのネイティブ・データアクセスAPIがサポートされていない異種混在環境で特に有益だろう。

■可用性と性能の向上
 Yukonでは、SQL Serverのサービスを中断せずに行える保守作業(パッチ管理など)を増やすことにより、可用性の向上が図られる。さらに、Yukonは強力で柔軟なレプリケーション機能を提供するため、組織は多数の物理的なサイトへのトランザクション・データのミラーリングをより効果的に行えるようになりそうだ。一方、すでにSQL Server 2000、特にその64bit版は、大規模UNIXシステム上のOracleやIBMのデータベースに匹敵する性能を提供しているが、Yukonはさらに高速になる見込みだ。また、Yukonでは自己チューニング機能が拡張されるだけでなく、強化されたSQL Profilerなどの性能最適化ツールも用意される。

Reporting ServicesがYukonに先行して登場

 Flessner氏はまた、SQL Server 2000にレポーティング機能を追加する新しいアドオン製品であるReporting Servicesが2003年秋にベータ・テストに入り、年末までに出荷されることも発表した。価格やライセンス方式の詳細は明らかにされていない。

 ソフトウェア・ベンダや企業開発者はReporting Servicesにより、人が読める形式のデータベース/データウェアハウス・レポートを設計、生成し、ビジネスや技術に関する意思決定者(デシジョン・メーカー)など、こうしたレポートを継続的に必要とする多数のユーザーに配布できる(SQL Server Reporting Servicesに関する詳細は、Directions on Microsoft日本語版2003年3月15号の「SQL Serverにレポート機能、Reporting Servicesを追加」を参照)。

SQL Server Developer Editionが大幅値下げ

 SQL Server上で実行するアプリケーションや同製品を使用するアプリケーションの設計、構築を促進するため、MicrosoftはSQL Server 2000 Developer Edition(SS-DE)の価格を499ドルから49ドルに一気に引き下げた*1

*1編集部注: 日本でも8月1日にSQL Server 2000 Developer Editionの出荷価格を以下のように引き下げることを発表している。

製品名 8月1日以降の推定小売価格 現推定小売価格
パッケージ製品 8800円 9万1800円
Open Business 7700円 8万6600円
Select(価格レベルA) 4900円 5万4900円

 SS-DEはSQL Server 2000のフル・バージョンだが、ライセンス制限が厳しく、SQL Server上で実行する、あるいは同製品を使用するソフトウェア製品の設計、開発、テストのみに使用が制限されている。各コピーをインストールできるサーバは1台に限られ、同時接続ユーザー数も最大5人までとなっている。

 SS-DEは高価なMSDN Universal and Enterpriseサブスクリプションの一部としても配布されているが、MicrosoftはSS-DEの新価格の安さが魅力となり、SQL Serverベースのソリューションを構築する開発者が増えることを期待している。また低価格化により、SS-DEはサードパーティの開発ツール・ベンダにとって製品にバンドルしやすくなる。実際、すでにBorland SoftwareはSS-DEを自社製品の一部に同梱することで合意している。End of Article

参考資料

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