連載
SE ハジメくん物語

― 新米SEのActive Directory導入奮闘記 ―

【第4話】SE ハジメくんの挫折、そして古杉部長の変貌(後編)(2)

高添 修
マイクロソフト株式会社 IT Pro エバンジェリスト
2006/06/13

【第4話】
SE ハジメくんの挫折、そして古杉部長の変貌(後編)

(ある日、START自動車のIT部門のメンバー3人がハジメくんの横でコソコソ話をしていました。このコソコソ話が古杉部長を変貌させるとは……)

社員1

ねえねえ。小野さんってすごいよね。何でも知ってるんだもん。

 
社員2

ああ、あんな人見たことないよ。何聞いてもちゃんと返事が返ってくるし、忙しくても面倒見てくれるしね。

 
社員3

それに比べてうちのレガちゃんときたら……。

(古杉部長は、古過ぎ→古い遺産=レガシー→「レガちゃん」と呼ばれています)

社員2

最悪だよね。何もしないくせに、口ばっかり出してきてさ。レガちゃんがいたら、うちのシステムは絶対によくならないよ。

 
社員3

そうそう、完全にボトルネック。でも、あれで「俺は慕われてる」とか思ってるからすごいよね。この前なんて「俺はまだエンジニア魂を忘れてないぞ」とか「俺の勘はすごいんだ」っていってたし。

 
社員1

勘じゃなくて好き嫌いだけなのにね。レガちゃんの好き嫌いで決めたシステムのフォローがどれだけ大変か分かってないんだよなぁ。お前のためのシステムじゃないっていってやりたいよ。

 
社員3

そうそう、ハジメくんもこの前はレガちゃんに絞られて、最悪だったよね。細井課長から聞いたよ。

 

ええ。でも、あのときは僕も子供だったから仕方がないです。私が反省すべきところもあったと思いますし……。

 
社員2

何いってんの。全部、あのレガシーオヤジが悪いよ。新しい技術の勉強もせずに一方的に却下されたんだろ。

 

そうですね、もっと勉強はしていただきたいですね。でも、私もまだまだ勉強が足りないなぁって思うんですよね。「暇だなぁ」って思ったら何もする気にならないけど、小野さんは暇なときだからこそ、何かあったときの準備をしてるっていってましたよ。

 
社員1

へえ、さすが小野さん! 俺も何かしようかな。

 
社員3

俺も明日から考えようっと。

 
社員2

明日からかよ〜!

 

(人の悪口をいうだけで、自分では何も行動しないのでは何も変わりません。しかしこの会話を、会議室の扉の近くで、ある人が聞いているとは誰も気付きませんでした。ある人とは……、そうです、古杉部長です)

(怒)レガちゃんだとお。あいつら、いっつも仕事が忙しいとかいってるくせして、人の悪口いえる時間はいっぱいあると見える!

(古杉部長は、みんながあんなふうに自分を見ていたとは想像もしていませんでした。自分を慕ってついてきていると思っていたし、自分が昔話をするときはいつも「すごかったんですね」といわれ、てっきり尊敬してくれていると思い込んでいたのに。現実は目も当てられない状態になっているようです。しかも、上司のことをバカにするなんて、古い人間としては許せるはずがありません。直ぐにでも飛び出して、メンバーを大声で怒鳴りつけようと思った瞬間、先日の一件以来、自分と距離を置いていたハジメくんの謙虚な言葉が胸に引っ掛かりました。あのときはカッとなって、ずいぶんきついことをいってしまった。それなのにハジメくんは、「自分が子供だった」と反省している。悪口をいわれて平常心を失い、感情的に怒鳴り込もうとしている自分は、ハジメくんより子供じみているんじゃないか……)

(古杉部長は悩んだあげく、黙って部長室に戻りました。まだ高ぶる気持ちの整理はできていませんが、気持ちを抑えながら、いままでの自分の発言や行動が、部下にどんな影響を与えてきたのか考えていました。そういえば、小野さんがきたばかりのときに、こんなやりとりがありました)



古杉部長、今度村山の代わりにお世話になることになった小野と申します。1週間前から引継ぎもあって細井課長のところにはお邪魔していたんですが、ごあいさつが遅くなって申し訳ありません。

 

ここの責任者の古杉です。小野さん、よく来てくれたね。

 

しばらくは勝手が分からず、いろいろとご迷惑をお掛けすると思いますが、どうぞよろしくお願いします。

 

こちらこそよろしく。細井課長からはとてもいい人が来てくれたって聞いてるよ。期待しているよ。

 

ありがとうございます。光栄です。

 

ここはみんな仲が良くて、職場環境としては申し分ないと思うよ。そうだ。俺は部長会だの何だのでフロアにいないことが多いから、もし質問があったらいまのうちに聞くけど。

そうですか。これは余計な心配だと思うんですが、この1週間御社を見ていて、仲良しなのに、なぜかみんなのモチベーションが低いような気がして、ちょっと気になりました。

???

私の思い違いかもしれませんが……。

部下の愚痴は飲みに行っていつも聞いてあげているから、問題ないと思うよ。

そうですか、じゃあ気のせいですね。


(小野は笑っていましたが、実は引き継ぎの1週間でチームの雰囲気をつかみ、古杉部長が現状をどこまで把握しているかを試したのでした。もし的確な答えが返ってくれば、古杉部長を中心に仕事を回せるが、分かっていないようなら古杉部長にはよい報告だけして現場をうまく回す方法を考えようと思っていたのです)



(古杉部長は、ようやくいまになって、あのときの会話が小野からの警告であったことに気付きました。そして、私用があるとうそをついて2日間会社を休んであれこれ思案したレガちゃん…、いや古杉部長は、いま生まれ変わろうとしていました)

よし、明日全体会議を開いて、正直に話をしよう。すぐには信用してもらえないかもしれないが、それも仕方ないだろう。1度くらいなら謝ったっていい。それでも駄目なら……。


 INDEX
  [連載]SE ハジメくん物語 【第4話】
     SE ハジメくんの挫折、そして古杉部長の変貌(後編)(1)
   SE ハジメくんの挫折、そして古杉部長の変貌(後編)(2)
     SE ハジメくんの挫折、そして古杉部長の変貌(後編)(3)
 
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