工夫の余地と自動化のジレンマ

小川 誉久

2003/07/11

 筆者が主宰するデジタルアドバンテージには、パートタイムも含めると十数名のスタッフがいる(顔触れについてはSTAFF VOICEを参照されたい)。事務所にはファイル・サーバがあり、ここで原稿作成やWebページ制作などの共同作業を行っている。

 あまり大きな声ではいえないが、使っているのはWindowsサーバの単なるファイル共有機能で、ここに作業ごとのフォルダを作って、ファイルをコピーしたり、移動したりしたりするとともに、連絡用としてメールを組み合わせて共同作業を行っている。

 例えば、この記事も含めて、公開記事は複数の編集スタッフがレビューを行う決まりになっている。異なる複数の人間の目を経ることで、1人の思い込みによる勘違いなどがそのまま記事として公開されないようにするためだ。

 この作業用として、ファイル・サーバには、「proof-read」というフォルダがある。

原稿チェック用のproof-readフォルダ
proof-read以下には、編集担当者ごとのフォルダがある。Wordの修正記録やコメント付加機能などを利用して校正し、原稿ファイルをチェック担当者のフォルダ間で次々と移動させている。

 proof-readの下には各編集担当者の作業用フォルダがあるので、原稿を書き上げたら、Word形式のファイルにして、原稿チェックをお願いする相手(校正者)のフォルダに置き、ファイルを置いたことをメールで知らせる。チェックの過程で修正があった場合には、Wordの修正記録やコメント付加機能などを使って原稿を校正する。そしてチェックが完了したら、次の校正者のフォルダにファイルを置く(そしてメールで知らせる)。

 格好よくいえばワークフロー管理ということになるだろうが、やっていることは極めて原始的で、すべては人間による臨機応変な運用に頼っている。実際、あまり厳密なルールを決めていないために、ファイル名の付け方などは担当者によってまちまちだし、バージョン管理なども担当者まかせになっている。かなりアバウトではあるが、この程度の人数なので、特に実用上の問題は発生していない。

 小規模なワークグループであれば、これと大差ない運用をしているところも少なくないのではないかと思う。

 それにしても作業は煩雑だ。ファイルの作成やファイル名の命名、メールの発信など、さまざまなツールやフォルダの場所などをユーザーが意識して使い分ける必要がある(その困難さは、新人を教育してみるとよく分かる)。チーム・コラボレーションの生産性が大幅に向上するであろう未来のコンピューティングでは、よりスマートな支援機能が提供されなければならない領域だと考える。

 これに対するマイクロソフトの回答がSharePointテクノロジである。従来からOffice向けの無償アドイン・ソフトとしてSharePoint Team Serviceと呼ばれる製品と、エンタープライズ・レベルのポータル・サイト構築用ソフトウェアとしてSharePoint Portal Server 2001という製品があったが、両者はまったく別のテクノロジをベースとしていた。これらの後継となるチーム・コラボレーション支援製品が、まもなくOffice 2003と同時期に発表される予定である。Windows SharePoint Services(以下WSS)とSharePoint Portal Server 2003(以下SPS)である。

 WSSとSPSは、マイクロソフトが提唱する次世代のアプリケーション・インフラストラクチャである.NET Frameworkに完全対応し、ASP.NETベースのチーム・コラボレーションWebサイトを構築可能にする。このうちWSSは小規模なワークグループ用として、Windows Server 2003ユーザーは無償でダウンロードして利用可能だ。一方のSPSは有償製品で、WSSの機能に加え、シングル・サインオン機能や複数サイトの横断的な検索機能によりエンタープライズ・レベルのポータル・サイト構築を支援する。

 一般的なEIP(Enterprise Informational Portal)製品とWSS/SPSとの最大の違いは、前者が比較的独立したWebアプリケーション・サーバとして構築されたものが多いのに対し、WSS/SPSによるサイトはWebアプリケーションとしてブラウザでアクセスできるだけでなく、フロントエンドとしてOffice 2003を利用可能にし、Officeからシームレスにポータルへアクセスできるようにしている点である。Office 2003ユーザーは、Outlookの会議開催機能から会議用のWSSチーム・サイトを作成したり(資料の共有などを行う)、Wordからドキュメント管理用のWSSチーム・サイトを構築したり操作したりすることが可能だ。つまり、共有フォルダやファイルといったプリミティブなレベルの操作に悪戦苦闘することなく、情報コラボレーションのための操作をよりスマートに行えるというわけだ。

 ここで注目すべきは、ビジネス・ユースにおいて、WSS/SPSの価値がOffice 2003の価値を大きく左右するという点である。

 まもなく発表されるOffice 2003だが、ビジネス・アプリケーションとしてのワード・プロセッサやスプレッド・シートの機能向上に期待しているユーザーはごく少数だろう。単体アプリケーションとしての機能向上は、ある意味、来るところまで来てしまったと言ってよい。このためマイクロソフトは、Officeにさらなる付加価値を追加する源泉としてWSS/SPSを位置付けている。簡単に言えば、WSS/SPSが受け入れられるかどうかが、Office 2003の販売に大きく影響するということだ。

 さらにWSS/SPSが受け入れられれば、プラットフォームとしてのWindows Server 2003が売れ、Active Directoryの導入が進み、Exchange ServerやSQL Serverなどのミドルウェア製品も売れるはずだ。これがマイクロソフトの勝利のシナリオだろう。

 しかしこれは逆に言えば、WSS/SPSがそれほどのものでもないとなれば、Windows Server 2003やOffice 2003、ミドルウェア製品群ともども、販売に苦戦するというシチュエーションもあり得るということでもある。

 WSS/SPSを導入したら、弊社のワークフロー作業は効率化するのだろうか。大切なことは、浅はかなシナリオでしか便利に使えない「余計なお世話」ソフトになることなく、工夫の余地を最大限残しながら面倒な作業の軽減や自動化を実現してくれるかどうかではないかと思う。この手のソフトでよくあるパターンは、デモ・シナリオを見る限りではいかにも高機能で便利そうだが、実環境に当てはめようとして想定外の場面に直面すると、とたんに破たんを来たしてしまうというケースだ。こうなると、なまじ隠ぺいされた部分があるだけに、運用での回避が極めて困難になってしまう。人が工夫する余地をばかにしてはいけない。

 見方を変えれば、ビジネス・アプリケーションの価値は、単体アプリケーションの機能向上のレベルを超えて、情報環境としての総合力によって大きく左右されるという困難な領域に踏み込んだということだろう。

 未来のコンピューティングを占う試金石の1つがまもなく登場しようとしている。End of Article

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小川 誉久(おがわ よしひさ)
株式会社デジタルアドバンテージ 代表取締役社長。東京農工大学 工学部 材料システム工学科卒。'86年 カシオ計算機株式会社 入社、オフコン向けのBASICインタープリタの開発、Cコンパイラのメンテナンスなどを行う。'89年 株式会社アスキー 出版局 第一書籍編集部入社、書籍編集者を経て、月刊スーパーアスキーの創刊に参画。'94年月刊スーパーアスキー デスク、'95年 同副編集長、'97年 同編集長に就任。'98年 月刊スーパーアスキーの休刊を機に株式会社アスキーを退職、デジタルアドバンテージを設立した。現Windows Server Insiderエディター。

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