えひめ丸の場合映画に登場するソナーは、音源を捕捉(コンタクト)したとたんに種別や進路、速度が分ったりします。でも実際は、コンタクトを維持して進路、速度を算出するまでが大変で、何回か測定が必要です。グリーンビルも、航跡の記録ミスなどでえひめ丸の進路、速度は算出できていません。 また、ハワイ沖のように一般船舶が多いエリアでの浮上には、パッシブ低周波帯ソナーだけでは不十分とし、アクティブ・ソナーによる確認を国家運輸安全委員会(NTSB)は勧告していました。 これは、同じロスアンジェルス級の原潜ヒューストンが起こした衝突事故(1989年、サンディエゴ)の教訓なのですが、海軍は同意せず、結果として再び事故を起こしたことになります。 原潜オンライン化の意味ところで、FFTを始めQ70やBSY-1、さらに原潜自体も、DARPA(国防総省先端研究プロジェクト局)が開発させたものです。 ご存じのとおり、DARPAは無数のコンピュータ技術を生んだ故郷でもあり、もとはと言えばインターネットもDARPAのARPA NETから生まれた産物です。 そのDARPAの基本構想の1つに、Network Centric Warfare、つまりネットワーク集約型軍事モデルがあります。どんなものかというと、ハリソン・フォード主演の映画、「パトリオット・ゲーム」(1992年)で、CIAオペレーション室から、リビアのゲリラ・キャンプ攻撃を進めるシーンがありましたが、あのコンセプトです。 パトリオット・ゲームつまり、ネットワーク集約型軍事モデルは、戦場をリアルタイム・ネットワーク化して、衛星経由で司令部の大型スクリーンから指揮する、といった構想です。 実際、原潜はその最前線にあたり、図「ロスアンジェルス級の管制系」は、その末端ノードというわけです(補注:コラム「クルスクの悲劇」参照)。 ゲームでもシミュレーションでも映画でもなく、実際に人間が死ぬ戦いを、どうしてそんな風に考えられるのか、個人的には理解できませんが、ひどい話のついでに言うと、近年、DARPAは軍事ウイルス開発など、サイバー戦争対策も進めているようです。 支離滅裂、五里霧中そんな関係ですから、コンピュータが苦手な人には、原潜も理解しにくいかもしれません。たぶんそのせいで、今回の事件報道にも混乱があったと思います。 重ねて無礼を言えば、官邸で対策にあたっている方々も、国会で質問する議員も、ほぼ同様に見えます。 何よりもまず、具体的な事実を知らなければ、論議も始まらない。というのが、ここに脱線記事を書いている第一の理由です。 イージー・オペレーション幻想ロスアンジェルス級原潜は、ジェネラル・ダイナミックス社の手で、30年にわたり62隻が建造されました。その途中から、上記のX Window Systemによる視覚的表示とデジタル・インタフェースが導入されて、MS-DOSがWindowsになったような話かなと思います。 その成果は、乗員の負担の軽減、訓練期間の短縮、安全性向上、事故率低下(ロシア原潜と比べて)などと、システム開発を担当したロッキード・マーティン社は自負しています。 まるでビデオ・ゲームみたいに簡単でイージーだという、元乗員の声もひんぱんに聞かれます。 だから、誰でもすぐ運転できる。平気で、民間人に操舵席をまかせられる、というのでしょうか。 これが、第2のポイントです。
簡単なら安全か?一般に、コンピュータを分かりやすくすること、よく理解すること=コンピュータ・リテラシーは、よいことと信じられています。 しかし、簡単で分かりやすいことがイコール安全と言えるのでしょうか。 それは、一面で、未熟なオペレータにも力量以上の能力を与えることになりかねません。 その結果、7000トンの巨体操作を「ビデオ・ゲームみたいに簡単」と思っていたとすれば、そこからすでに、事故は始まっていたのではないでしょうか。 それも、ネットワーク集約型軍事モデルの一面でしょうか。 リテラシー過剰という犯罪考えてみると、「分らなくても、動く」というような、上っ面のリテラシーが危険な分野はたくさんあります。たとえば原子力や医療、あるいはプラント制御、航空管制といった分野もその1つでしょう。 積極的ディバイドとでも言うのでしょうか。原潜の操縦なんか、ある程度難しくしておいたほうが安心のような気がします。 なお筆者は、軍事には素人です。もし間違いがあったらご教示ください。それなのにこんな記事を書いた理由の1つは、ロッキード・マーティン社の前身、マーティン・マリエッタ社に多少付き合いがあったからです。同社はSGML普及に多大な貢献をしていました。 最後になりましたが、宇和島水産高校の皆様方には、大変なご心労かとお見舞い申し上げるとともに、朗報を念じております。
山崎俊一(やまざき しゅんいち)
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