書評


Webサービスの基礎、動向、実践など目的別の6冊

新野淳一
@IT編集局
2002/10/24

この6冊
まるごと図解 最新Webサービスが分かる
Webサービスエッセンシャルズ
Webサービス完全解説

Webサービス完全構築ガイド

Webサービス完全ガイド

Webサービス実践ガイド

 Webサービスという言葉が登場して2年以上がたつ。こうした最新技術はまず雑誌やWebサイトなどで情報の多くが提供され、その後書籍として情報がまとめられていく。Webサービスもそうした段階に入ってきたようだ。ここではムック(雑誌形態の書籍)を含む6冊の書籍を選んで紹介したい。

 Webサービスのような最新技術を扱う書籍にとって厄介なのは、仕様がどんどん変化していることだ。2002年10月現在でも、SOAPはバージョン1.1から1.2へ移行中、WSDL 1.1も策定中で、UDDI 3.0の登場も近づいている。また、実装面でもApache SOAPはApache AXISへ移行しようとしている。もちろんWebサービスの基本的な考え方は変わらないとしても、個々の技術の詳細は半年もたてばずいぶん変わってしまうことがある。この書評に登場している書籍で解説されていることも、必ずしも最新バージョンを基にしたものでない、ということは認識しておいた方がいいだろう。

短時間で知りたいところだけを拾い読みできる

まるごと図解
最新Webサービスがわかる


日本アイ・ビー・エム株式会社 jStartチーム著
技術評論社 2002年
ISBN4-7741-1476-6
1580円

 本書はWebサービスにおけるビジネスモデルあり、XMLの解説あり、SOAPやWSDL、UDDIの仕組みあり、開発あり、事例ありと、盛りだくさんの内容だ。特に1章と2章で、EDIからWebサービスによるBtoBへとモデルが変遷していく様子や、Webサービスを使ったビジネスの仕組みなどは図解によって分かりやすく解説されている。解説はどれも2から4ページ程度で完結しており、短時間で知りたいところだけを拾い読みできる形式になっている。

 3章以降ではSOAP、WSDLなどの技術的な解説が中心になるため、図解というよりも、XML文書のリストが多くなる。SOAPについては、分散コンピューティングなどの技術的経緯も踏まえて詳しく解説しているが、基本的にはここでも、それぞれの解説をできるだけ数ページごとに区切って、簡潔な展開にしようという努力が見られる。WSDLやUDDIについても必要十分に解説されており、またWebSphere Application Serverによるシステム構築法にも触れているため、手早く実践してみたい人にも役立つ。

 本書はWebサービスの概念や全体像を手早く把握したい、という読者を想定した書籍として、網羅性がありよくまとまっている1冊だ。

UDDIの解説にもたっぷりとページを割く

Webサービスエッセンシャルズ

Ethan Cerami著
長瀬嘉秀監訳
株式会社テクノロジックアート訳
オライリー・ジャパン 2002年
ISBN4-87311-089-0
3200円

 SOAP、WSDL、UDDIにXML-RPCを加えた4つの技術を解説している。Webサービスの技術面についての解説は、いまのところ最も詳しい1冊といえるだろう。翻訳された文章もこなれている。

 SOAPの解説では、SOAPメッセージや符号化など仕様の詳細を紹介したうえで、Apache SOAPでの実装を使っての実践、そしてJavaBeansのWebサービス化を通してのプログラミングも紹介している。ただし、実践部分はApache SOAPベースなのが残念だ。

 WSDLとUDDIにもたっぷりとページを割いているのは、本書の特徴の1つ。特にUDDIの解説は本書の半分近くを占める。UDDIは多くの機能を持つため、単に仕様を見ていくだけでは全体像を理解しにくい。本書では利用シナリオを提示して、機能の解説を行っている。ただし、その解説の大半はUDDIやUDDI4JのAPIのリファレンスなどだ。

 本書は基本的には現状のSOAP 1.1、WSDL 1.1、UDDI 2.0をベースにしているようだが、ところどころに仕様の最新バージョンに対する注釈が入っている。しかしそれぞれの技術を詳しく紹介しているからこそ、最新バージョンに対応した解説が読みたいと欲が出てしまう。早期の新版の発行を希望したい。

IBM製品とApacheによる実践構築が充実

Webサービス完全解説

米持幸寿著
翔泳社 2002年
ISBN4-7981-0102-8
3200円(税別)

 当XML eXpert eXchangeフォーラムに連載された「SOAPの仕掛け」を基に、大幅な加筆修正を行った書籍。全体は7章に分かれ、前半がWebサービスの基礎知識編、後半はWebサービスの構築編となっている。基礎知識編では、Webサービスを利用したビジネスモデルや応用分野、そしてSOAP、WSDL、UDDIのそれぞれの役割と、その構造などについて解説している。文字どおり、それぞれの仕様に関する基本的な知識の解説だ。

 本書で力点が置かれているのは、4章以降のApache SOAPやWebSphere Application Serverと、DB2 UDB、そして開発ツールのWebSphere StudioなどのIBMのソフトウェアを利用して、SOAPだけでなくWSDL、UDDIまで含んだWebサービスのシステム構築を実践するところ。Apache SOAPでRPCアプリケーションを試しに作成し、UDDI4JでUDDIを立ち上げたり、DB2データベースの内容をWebサービスとして構築する、といった開発手順を、画面を示しながら丁寧に解説している。実践を通してWebサービスを理解してもらう、というのが本書のスタンスのようだ。付録のCD-ROMには、本文中で登場したサンプルコードやWebSphere Application Server、WebSphere Studio、DB2 UDBなどの評価版が収録されており、解説された内容を自分で確認することができるようになっている。

 こうしたシステム構築を実際に試す読者がどれくらいいるかは興味あるところだが、いずれにせよ実際の製品を基にしっかりWebサービスの構築を解説している資料は少なく、情報を求めている読者にとっては貴重だろう。執筆時期を考えると仕方ない面もあるが、Apache SOAPの次のプロジェクトであるApache AXISにも触れてほしかった。

Webサービス対応システムの設計に重点

Webサービス完全構築ガイド

嶋本正、柿木彰、西本進、野間克司、野上忍、亀倉龍、松本健、福原信貴 著
日経BP 2001年
ISBN4-8222-8116-7
3200円+税

 サブタイトルに「XML、SOAP、UDDI、WSDLによる先進Webシステムの設計・実装」とある通り、「Web商事」という仮想の会社にWebサービスを導入する際の要件や設計、あるいは受発注システムを開発する際のプロトコルの選定からインフラの設計といった点が主題になっている、ユニークな書籍だ。

 もちろん、ほかの書籍にあるようなWebサービスの概要としてのSOAP、WSDL、UDDIの解説は最初の方で行われている。そしてそれに続き、Web商事における受発注システムの要件を満たすシステムを、いかにWebサービスで構築するかの解説が始まる。しかし、その要件はWebサービスを想定したからといって、特に奇抜なものが含まれているわけではない。従来EDIで行われていたようなBtoBの受発注システムの要件を、Webサービスで実現するための方法を考えていく中で、Webサービスの留意点、セキュリティ、問題の解決策や負荷分散の手法、そしてWSDLの記述といった、Webサービス固有の実装方法などが語られていく。具体的な製品を想定した設定法やプログラミングなどは、ほとんど出てこない。

 本書は、すでに基本的な知識を身に付けて、顧客にWebサービスを含んだ提案をしたい、というときの参考書にいいだろう。Web商事のシステム設計を通して、読者は一通りの提案内容を体験できるからだ。

 次に紹介する2冊は、いわゆるムックと呼ばれる雑誌形態の書籍である。Webサービスのような変化の激しい分野では、書籍よりもこうした雑誌に近い形態のメディアの方が合っているのかもしれない。

ムックならではの最新情報をフォロー

Webサービス完全ガイド

日経インターネットテクノロジー/日経Windowsプロ編集
日経BP 2002年6月30日
ISBN4-8222-2325-6
1886円+税

 『日経インターネットテクノロジー』と『日経Windowsプロ』に掲載された複数の記事を基に、最新情報を加えるために全面的に書き換えて1冊のムックに仕上げたもの。Webサービスの歴史を振り返るところから、標準化動向、製品動向など、雑誌の機動力を生かしたタイムリーな内容。冒頭の「Webサービスの歩み」と題された1998年から2002年9月までの年表は、関連技術を一目で見渡せるうえ、見ていて楽しい。版型の大きいムックならではの企画といえるだろう。

 内容は、第1部で技術の最新動向、第2部で各社の製品戦略、第3部で国内企業の構築事例を、第4部でApache AXISとASP.NETを題材にしたWebサービスの構築、第5部と第6部で仕組みや用語の解説、となっている。

 特に注目したいのは、第3部の国内事例と第4部の構築だ。事例では、稲畑産業、リスクモンスター、イースト、アイ・ティ・フロンティア、KDDIをそれぞれ4ページずつ紹介している。現在のところWebサービスの事例はそれほど多く公開されているわけではないため、これから構築しようとしている人にとってはよい参考になるだろう。また、第4部ではApache AXISによるWebサービス構築の詳細があり、これもタイムリーな企画だ。今後SOAPのリファレンス実装はApache SOAPからApache AXISへと切り替わるといわれており、これから実装を試そうとしている人にとっては、Apache SOAPはお勧めできない。Javaの対比としてASP.NETによる構築も紹介されている。書籍に負けない内容の充実度と新鮮さで、お薦めの1冊だ。

読んで楽しくWebサービスの動向が分かる

Webサービス実践ガイド

インプレス 2002年8月1日
ISBN4-8443-1652-4
1900円+税

 『インターネットマガジン』のWebサービス関連の記事を中心にまとめたムックだ。前掲のムックと同様、Webサービスの技術動向とベンダの製品動向や戦略、そして事例などを紹介し、構築方法も紹介する、という構成になっている。とはいっても、受ける印象はずいぶん違い、こちらはインターネットマガジンの(リニューアル前の)記事らしく、技術動向とベンダ動向に重きを置いた内容になっている。また、Webサービス対応製品カタログも用意されている。

 SOAPやWSDLなどの仕様の詳細は深追いせず、それがどのように使われるのか、業界はどう変わっていくのか、という視点で多くの記事が作られている。中でも、Webサービスのブームをけん引してきたマイクロソフトの.NET戦略と、最近になって頭角を現してきたSunONEとの対比や、それぞれの見通しなど、後半の読み物が充実している。全体に気楽に読んで楽しみながらWebサービスの状況がつかめる1冊だ。

最新バージョンへの対応はこれからに期待

 ちなみにここで取り上げた書籍では、SOAP 1.2、WSDL 1.1、UDDI 3.0に本格的に対応したものは残念ながらなかった。もしかしたら、数カ月後にはこれらに対応した新しい書籍が、上記の書籍に取って代わって書店にずらりと並ぶのかもしれない。そのときには、またあらためてそれらを集めた書評を企画するつもりだ。

各書評にあるボタンをクリックすると、オンライン書店で、その書籍を注文することができます。詳しくはクリックして表示されるページをご覧ください。


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