W3C/XML Watch - 10月版
QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格
加山恵美2005/10/21
先日iTunesをバージョンアップしたときに、ライブラリがXML形式で保存されていることに気付きました。こんなところにもXMLが。もうXMLは空気のように周囲に浸透しているのだなと実感しました。
■8〜9月の勧告、勧告案、勧告候補
それではW3Cの動向を見ていきましょう。勧告が2本、勧告案が1本、勧告候補が2本でした。8月には「QA(品質保証)フレームワーク:仕様ガイドライン」が勧告になりました。主にW3C仕様の編集者向けで、高品質な仕様を策定するための指針がまとめられています。9月には「xml:id 1.0」が勧告になりました。もともとXMLの規格で属性名に「xml:」と付くものはxml:space、xml:lang、xml:baseなど数えるほどで、xml:idも特殊な存在です。今回の勧告ではXML文書でID属性としてのxml:id属性、およびその処理を定義しています。
- 【勧告】QA Framework: Specification Guidelines(8月17日発表)
- 【勧告】xml:id Version 1.0(9月9日発表)
勧告案は「SMIL 2.1」です。マルチメディア情報を同期するための仕様です。今年1月にSMIL 2.0 第2版が出ましたが、そこから拡張を加えたものです。最近ではモバイル分野への対応に力点が置かれるようになってきました。勧告候補は「Webサービスアドレッシング 1.0」について2本です。
- 【勧告案】Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL 2.1)(9月27日発表、レビュー終了10月28日)
- 【勧告候補】Web Services Addressing 1.0 - Core(8月17日発表、フィードバック期限11月1日)
- 【勧告候補】Web Services Addressing 1.0 - SOAP Binding(8月17日発表、フィードバック期限11月1日)
■8〜9月のドラフトとノート
ドラフトはラストコール付きが8月に5本、9月に2本で合わせて7本、ラストコールなしが8月に3本、9月に15本で合わせて18本、トータルで25本ありました。ラストコール付きでは「SPARQL」関連で2本、「WSDL」関連で4本、「EMMA」で1本でした。
- SPARQL Query Results XML Format(8月1日発表、ラストコール9月1日)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 0: Primer(8月3日発表、ラストコール9月19日)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 1: Core Language(8月3日発表、ラストコール9月19日)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 2: Adjuncts(8月3日発表、ラストコール9月19日)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 SOAP 1.1 Binding(8月3日発表、ラストコール9月19日)
- SPARQL Protocol for RDF(9月14日発表、ラストコール10月14日)
- EMMA: Extensible MultiModal Annotation markup language(9月16日発表、ラストコール10月28日)
ラストコールなしでは、「国際化」や「コンパウンド・ドキュメント」関係、「sXBL」などがあり、さらに9月15日付けで「XQuery」や「XPath」に関係したものが一気に11本更新されました。
- New Internationalization and Localization Markup Requirements(8月5日発表)
- Compound Document by Reference Use Cases and Requirements Version 1.0(8月9日発表)
- SVG's XML Binding Language (sXBL)(8月15日発表)
- New Scope of Mobile Web Best Practices(9月1日発表)
- Evaluation and Report Language (EARL) 1.0 Schema(9月9日発表)
- Web Services Internationalization (WS-I18N)(9月14日発表)
- Compound Document Framework
1.0 and WICD 1.0 Profiles(9月15日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Full-Text Use Cases(9月15日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Data Model(9月15日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Functions and Operators(9月15日発表)
- XML Path Language (XPath) 2.0(9月15日発表)
- XQuery 1.0: An XML Query Language(9月15日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Full-Text(9月15日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Formal Semantics(9月15日発表)
- XML Query Use Cases(9月15日発表)
- XML Syntax for XQuery 1.0 (XQueryX)(9月15日発表)
- XSLT 2.0 and XQuery 1.0 Serialization(9月15日発表)
- XSL Transformations (XSLT) Version 2.0(9月15日発表)
ノートは8月に2本、9月に3本ありました。
- Discussion of Alternative Schema Languages and Type System Support in WSDL 2.0(8月17日発表)
- Variability in Specifications(8月31日発表)
- The QA Handbook(9月6日発表)
- Test Metadata(9月14日発表)
- RDF Calendar - an application of the Resource Description Framework to iCalendar Data(9月29日発表)
■CAP 1.1とXMLカタログ 1.1がOASIS標準に
10月に新しいOASIS標準が2つ誕生しました。緊急事態の警報と通知をXML形式で送るための「CAP 1.1」と、文書共有のための「XMLカタログ 1.1」です。昨今のテロや自然災害が緊急時の迅速な情報伝達の必要性をさらに高めているのかもしれません。
次に技術委員会の動きです。新設の委員会には、遠隔制御XML(Remote Control XML)技術委員会、Webサービス品質モデル(Web Services Quality Model)技術委員会、SEE(Semantic Execution Environment)技術委員会があります。最後のSEE技術委員会はセマンティックWebサービス向けの実行環境用のガイドラインなどを策定します。
■コマンドラインでXMLを操作
独特なXMLツールに「XMLStarlet」があります。このツールはまだベータ版だそうですが、試してみる分には問題ないようです。コマンドラインでXMLデータの表示や編集ができます。UNIX系のsedコマンドのように扱えるので、UNIX系に親しみがある人には楽しめるツールです。UNIX系に親和性があるとはいっても、マルチプラットフォームなのでWindowsでも使えます。
例えばXMLStarletのelementsコマンドではUNIXのlsコマンドやDOSのdirコマンドのようにXMLの構造を表示できます。オプションを指定すれば階層を指定したり、重複を省いて表示することもできます。また別のコマンドではノードの追加や削除ができたり、ExcelのデータからXMLを生成することもできます。ちょっとしたXML文書を手軽に扱うためのツールと考えるといいでしょう。ただしXPathやXSLTの知識がないと使いこなすのは難しそうです。
■さらなるXML技術の発展に期待
この連載はW3Cを中心にXML技術の進展を定点観測するものとして2001年7月から開始しましたが、今回で終了となります。いままで読んでくださった読者の方に心よりお礼を申し上げます。あらためてXMLそのものについて感想を少し述べたいと思います。
振り返れば1998年2月にXML 1.0がW3Cの勧告となり、後に2000年10月にXML 1.0 第2版、2004年2月にXML 1.0 第3版およびXML 1.1が出ました。このXMLを中心として周辺技術や各種標準が草の根のように発展してきました。当初はXMLというキーワードだけでも斬新でインパクトがありましたが、いまでは空気のように当たり前な存在として活用されてきています。ふと気が付けば周囲がXMLの森になっていたかのようです。
これまでXMLの発展を見届けてきました。たまにXMLをまったく知らない人に「XMLとは?」と質問されることもありますが、これには言葉が詰まります。XMLとはデータの意味も付加できるデータ、つまりデータ記述方法の一種ではありますが、それだけでは価値が伝わりません。XMLの優れているところには幅広く使えるということもあると思います。
例えばどこかのベンダが策定したデータ形式だとそのベンダ製品でないと扱えないこともありますが、XMLならテキストをベースにしているので中身は一目瞭然(りょうぜん)です。そして何よりもXMLで関係者が標準を策定してきた実績に意義があると筆者は感じています。XMLでデータが標準化され、中立的となり、そのプロセスは「みんなで決める」ことから民主的とも感じます。多くの人が策定や決定に関与するため、完成度が高く永続的なものになると確信しています。
またこれまでXMLは多くの関係者をつなぎましたが、当然ながら多くのシステムもつなげてきました。Web技術が文書の閲覧だけではなく商業的な価値を強めてきたことを背景にしつつ、XML技術はWebサービスやSOAがキーワードになってきました。流行の移り変わりは視点の移動というよりはズームアウトしてより広い範囲で考えるように遷移してきたと感じます。
いまではXMLは簡単に説明するのが困難なほど広範に発展しましたが、基盤技術はなお完成度を高めるように改良や開発が続いています。特に国際化、モバイル、マルチメディアなどの方面は積極的です。またより高度な形であるセマンティックなWebを実現するためにもXML技術は開発が続けられています。今後も技術開発は続いていくことでしょう。XML技術を取り巻く多くの技術者に敬意を表しつつ、さらなる技術発展に期待しています。
ではまたどこかで、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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