BtoBの時代に備える(1)
BtoBが大事な本当の理由
平野洋一郎
インフォテリア株式会社
代表取締役社長
2001/3/27
最近、インターネット技術を活用したBtoB(Business to Business:企業間電子商取引)が、さまざまなメディアで報じられ、大きな注目を浴びています。BtoBによって企業と企業をつなぐことによってもたらされるメリットは、短期的な「時間短縮やコスト削減」だけでなく、中長期的には「企業の競争力」を高めるものです。企業が、系列やグループを超えて取引をし、「生産性の向上」と「変化への対応」を両立させなければならない今、インターネットベースの新しい企業間システム、つまりBtoBがこの発展を支えていくのです。
このコラムでは、BtoBについて、幾つかの視点から、近い将来に訪れるBtoBの普及期に備えて何をしたらいいか、皆さんと一緒に考えてみようと思います。
BtoBは、企業におけるIT革命の大きな流れ
オフィスにおける生産性向上と、それに関与したITの歴史を見ると、今後企業間システム、つまり「BtoB」が重要になってくることの必然性が明らかになります。
オフィスにコンピュータが登場したのは1980年代ですが、この時代にはワードプロセッサ、表計算、会計ソフトなどが普及し、それまで個人が手作業で行ってきた業務の生産性が飛躍的に向上しました。その結果として、個人の生産性と組織の生産性のギャップが顕著になりました。例えば、「資料はとっくに完成しているのに、会議に必要な人が集まらないので来週まで決定できない」などといったことが発生するようになったのです。
このキャップを埋めるように、1990年代は、組織の生産性を向上させる技術が開花しました。企業内でのLANの普及をベースに、電子メール、グループウェア、イントラネット、ERPやRDBMSなどを使った情報管理・共有により、社内業務の効率が大幅に向上したのです。これらは、企業内のチームやグループの生産性を飛躍的に向上させ、現在では社内は高度にIT化されるようになりました。しかし、社外とのやりとりのプロセスはいまだにFAXや電子メールなどの人手に頼ったままです。ここに、高度にIT化された社内システムの生産性やスピードと、人手に頼った社外プロセスとのスピードのギャップが生じています。
企業内はIT化が進んだ。次は企業間だ
つまり、今後のITが企業活動に貢献しなければならない点は、高度にIT化された企業をつなぎ、そのプロセススピードと効率のギャップを埋めることなのです。ちょうど時期を同じくして、世界的にインターネットが普及し、各企業を物理的につなぐことが容易で、かつ安価になっています。そして、その上でインターネット技術、XML技術などを利用して企業と企業の間でのプロセスをコンピュータ同士をつないで埋めるのがBtoBであり、これまでのIT革命の進展と同様に、それぞれの企業が取り組んでいかなければならない大きな課題なのです。
このように私はBtoBを一過性のブームではなく、企業におけるIT革命の第3段階として非常に重要なものであり、今後5年、10年といった長い時間をかけて真剣に取り組んでいくべき大きな流れだと考えています。私は、BtoBが普及することにより、企業内プロセスと企業間プロセスが融合し、また、社内でできることと社外でできることの差が極小化され、単なるコスト削減だけでなく、企業の競争力の向上にまで貢献できると確信しています。
企業内プロセスと企業間プロセス
ビジネスプロセスには、企業内と企業間の2種類に分けられます。企業内では、電子メールをはじめRDBMSやERPなどいろいろなソフトやITのインフラが揃っていて、10年前に比べると効率化とスピードアップが実現されています。その結果ボトルネックとして浮かび上がってきたのは、企業間のビジネスプロセスです。なぜそこがボトルネックなのでしょうか? もちろん、さらに企業内プロセスを効率化することはできるでしょう。しかし、企業間プロセスの効率が停滞したままで企業内プロセス効率を2倍にしても、ビジネスプロセス全体の効率化にはあまり貢献できません。一方で、企業間プロセスを2倍効率化すれば、ビジネスプロセス全体への貢献は大きいはずです。このことからも、これからBtoBに取り組んでいくことの効果の大きさがわかります。
FAXでいいじゃないかと言われても
BtoBが注目されている一方で、「企業間の取引を行うなら別にいままで通りFAXでもいいじゃないか」、という声もよく耳にします。「契約書も見積書もFAXでやりとりしているし、実際の受発注もFAXで行っている。これをわざわざBtoBに変える必要はないじゃないか」という意見です。
また一方で「BtoBは導入コストもかかるし、使い方もよくわからない。そもそも取引先がまだ使っていない」という話もよく聞きます。もちろん現在は、まだそうでしょう。しかし、つい20年前にはFAXの導入についても同じようなことが言われていました。現在世界中で使われている「G3」というFAXの規格がCCITTより勧告になったのは1983年です。それから5年くらいであっという間にFAXが普及したことは皆さんの記憶にも新しいことと思います。今、もし会社にFAXがなくなったらどうでしょうか。日々ビジネスに大きな支障をきたしますね。そして、同じような進化がBtoBでも発生するでしょう。
FAXのメリットは明白でした。ドキュメントをそのまま迅速に送ることができるのです。そしてBtoBのメリットも明白です。それら企業間でやりとりされるドキュメントを、印刷することなく直接コンピュータ同士でやり取りできるのです。再入力の労力やミスもなくなり、自動化の度合いも高まります。10年後、多くの皆さんは「もうFAXベースの取引には戻れない」と言っていることでしょう。それは今日、「もう電話と郵送ベースの取引には戻れない」と言うのと同じように。
このように、BtoBは世界的に普及したインターネットを使ってコンピュータとコンピュータをつないで企業間での業務を行う仕組みですが、これが普及したときにBtoBを導入していなかったら、ビジネス上大変不利な状況になることは想像に難くありません。数年先に困らないために、今からBtoBに取り組んでおくことは決して早過ぎないのです。
XMLはBtoBに必須の技術
さて、いざBtoBで企業間取引を行おうとした時に、多くの企業が問題にぶつかってしまいます。それは、自社と相手の会社の異なった既存システムとをどうやって接続し連携させるのかということです。
結論から言うと、XMLはこの問題の解決に必須の技術です。言い換えれば、BtoBの実現に必須の技術といえます。企業間をつないで処理を行うシステムそのものはBtoB以前から存在していました。例えば、グループ内や系列企業内では、専用のオンライン回線を使ってEDIやグループウェアも活躍していました。これらの接続の手法はあくまでもシステムやソフトを「統一」してつなぐというものでした。しかし、取引先との接続の場合はそう簡単にはいきません。全ての取引先に自社と同じソフトやシステムで統一させることなどとても不可能だからです。企業間がインターネットでつながり、しかも接続する相互の企業のソフトウェアやシステムが違っていたとしても、それらが互いに「対話」できるようにしなければ、それぞれのシステムをつないで取引を行うことはできません。
そう、ソフトウェアやシステムの「共通言語」が必要になってくるわけで、その共通言語がまさしくXMLなのです。
次号では、「BtoBの現状とこれから」について考えます。
筆者紹介 |
平野洋一郎 熊本県生まれ。株式会社キャリーラボ設立にあたり熊本大学工学部中退。1983年から1986年の間、株式会社キャリーラボにて、日本語ワードプロセッサを開発し、1985年に年間ベストセラーになる。1987年から1998年まで、 ロータス株式会社にて、表計算ソフト「ロータス1-2-3」から、グループウェア「ロータスノーツ/ドミノ」まで、幅広い製品企画とマーケティングを統括。元ロータス株式会社戦略企画本部副本部長。1998年インフォテリア株式会社を創立し、現職に就任。 |
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