XMLフロンティア探訪
第5回 浸透し拡散するXML

XMLに対する一時の熱狂は冷めたようにも思えるが、これは決してXMLの普及のペースが下がったり、XMLの重要度が低下したからではない。XMLの普及は堅実に進行中だが、その中身は徐々に一般の目からは見えないところへ広がっている。そしてその広がりゆえに、XML全体を一人の技術者が把握できる時期は確実に去ろうとしている。(編集局)

川俣 晶
株式会社ピーデー
2001/9/26

今回の主な内容
浸透し拡散するXML
新たな時代を担うWebサービス
過去の問題を軽やかに乗り越える
勧告になったSVGは実用なるか
XMLによるニュース配信が稼働
XMLのすべてに精通するのはもはや困難

浸透し拡散するXML

 最近、「XMLに対する世間の注目度が下がっている」というようなXML終末論が出ていた。しかし、現実の世界の動向を見ると、XML関係のニュースは減るどころか増える一方であり、ニュースにならないXML採用の事例も依然として増加傾向にある。つまり、XMLの普及はゆるやかに加速しつつ、堅実に進行中といえる。そこで今回は、具体的に進行中のいくつかのXML関連トピックを具体的に紹介してみたい。

新たな時代を担うWebサービス

 いま、XML関係で最もホットなキーワードは「Webサービス」(あるいは「XML Webサービス」)ではないかと思う。Webサービスとは、World Wide Web(WWW)で行う情報サービス一般のことを指すのではなく、SOAP(Simple Object Access Protocol)、WSDL(Web Services Description Language)、UDDI(Universal Description, Discovery and Integration)などを使って分散処理システムを構築する特定の方法論を意味するキーワードである。SOAPは、情報通信を行う高レベルのプロトコルであり、WSDLは通信相手に提供する機能の仕様を記述する言語である。また、UDDIは公開されているWebサービスの機能の一覧表を記述する。つまり、欲しい機能が公開されているかUDDIを使って調べ、WSDLで機能の技術詳細を知り、SOAPを使って機能にアクセスすることができるのである。

 従来、WWWを通した情報通信といえば、HTMLで記述されたコンテンツを送ったり、HTMLのフォームを経由してデータを渡す、といった方法が主流であった。この方法では、いちいちデータをHTMLなどの形式に直して、HTTPなどのプロトコルを意識しながら送信する必要があり、低レベルの機能を組み合わせて処理を記述しなければならなかった。これを専用ツールなどで自動化しても、HTMLやHTTPの持つ機能と性能の低さはどうにもならない。かといって、従来の分散オブジェクトなどを使おうとしてもファイアウォールという文字どおりの壁が立ちはだかる。ネットワーク管理者からすれば、外部に対して開くポートは少なければ少ないほど安全である。そのため、ネットサーフィンや電子メールのような、限られた必須機能以外はシャットアウトしてしまうことが多い。

過去の問題を軽やかに乗り越える

 このような問題を、Webサービスは軽やかに乗り越える。SOAPは、HTTPなどの従来型のプロトコルの上位レイヤとして機能する。WSDLは豊かなデータ型の定義を持ち、HTMLのフォームなどよりもきめ細かい定義ができる。これらにより、いとも簡単にインターネット越しのRPC(Remote Procedure Call)が実現される。プログラマーは、自分のプログラム内のメソッドにアクセスするかのように、ネットワーク経由で遠く離れたコンピュータのメソッドを呼び出すことができる。しかも、HTTPを通して行けば、ファイアウォールにも邪魔をされない。

 このように、これまでの苦労がうそのように消し飛ぶWebサービスだが、その内部を開いてみれば、右も左も上も下もXMLだらけである。全面的にXMLの力に頼って実現されているといってもよい。SOAPはすべての情報をXML文書の形式に直してからやりとりをするし、WSDLやUDDIは、XMLによって作られた言語そのものである。

 もし、Webサービスが幅広く使われるようになれば、膨大な数のXML文書がネットワーク上を飛び交うことになるだろう。おそらく、大多数の利用者はそこにXMLが使われていることに気付かないだろうが、システムのトラブルの調査などを行う技術者はそれらのXML文書と向き合うことになるだろう。WebサービスにとってのXMLとは、必須の基礎技術であるが、もはやXMLを使っていることは、強くアピールされない。どのようにWebサービスを構築して運用するかが最重要の課題であり、もはやXMLを使うことの是非や意義は問われていない。

勧告になったSVGは実用なるか

 SVG(Scalable Vector Graphics)は、2001年9月4日にW3C勧告となった。これまで、インターネット標準といえるベクターグラフィックスの標準がなかっただけに、速やかな普及が期待されるところだが、いまのところ大したニュースにはなっていないように見える。現実問題として、解像度の極端に違うさまざまなデバイスを相手にコンテンツを作る側からすれば、大歓迎となるはずなのだが、そういう熱狂も見られない。

 冷静に考えてみると、2つのことに気付かされる。1つは、W3C勧告といっても、Webブラウザへの標準実装が実現したわけではなく、使おうとすればプラグインのインストールが必要だ。プラグインを要求するということは、見にくる人に負担を要求することになる。プラグインを入れる手間もあるし、プラグインは全てのプラットフォームに用意されているわけではない。それを考えると、画像の表示には昔懐かしいGIFと、依然として有益なJPEGだけで何とかしようと思ってしまうのも仕方がない。もう1点重要なことは、Webデザイナーという職種が生まれて以来、GIFとJPEGだけが標準として使えるという時代が続いてきたために、この2つで何とかするノウハウがWebデザイナーに染み付いていることだ。それで不十分ならFlashやPDFを使うことも習慣としてすでに染み付いているかもしれない。その状況で、手慣れたFlashを捨ててSVGを使うかといわれれば、そこまで踏み切れない人が大多数だろう。

 このような状況から考えると、SVGがすぐに普及することは難しいといえるだろう。WebデザイナーがSVGを安心して使える日は、大多数の利用者がSVGを閲覧できる環境を持つ遠い未来までお預けとなりそうだ。

 だがここで注意すべきことがある。SVGの活躍が遠い未来の出来事だとしても、それはSVGが失敗したテクノロジであることを意味しない。SVGをはじめとするWWW関連のXML標準の普及は遅々として進んでいないように見えるが、膨大な利用者を抱えるWWWの世界なのだから、テクノロジが世代交代する速度は決して速くはない。インターネットは、ドッグイヤーというように極めて時代の変化が速い世界だといわれるが、何もかも素早く変化するわけではないのである。

XMLによるニュース配信が稼働

 不特定多数者向けのサービスの場合は、だれもが受け取ることができるデータ形式を使うことが強く求められるが、半面、送信者、受信者ともに限られていれば、新しい技術をどんどんつぎ込むことができる。その典型的な例がニュースの配信だろう。実際に、ロイターなどはNewsMLと呼ばれるXMLベースの言語で提携先にニュースを配信しているそうである。日本でもXMLによるニュース配信の試みが始まっているらしい。

 この場合、ポイントになるのは、配信を受け取る側が特定少数であることだ。われわれ一般人は、配信を受け取る側にはカウントされていない。配信を受けるのは提携している報道機関であって、一般人は報道機関が提供する記事を読んで、ニュースを知ることになる。その際、一般人が受け取る形式は、普通のHTMLであったり、テレビ番組や新聞記事であったりする。報道機関というフィルタが、内容を(紙や音声などの)より普及した形式に変換してしまえば、元の形式が何であっても構わない。このように、相手が特定少数であればあるほど、XMLの普及は加速可能であるといえる。

 しかし、特定少数者間の通信で用いられる詳細仕様は非公開になるか、公開されてもあまり積極的に宣伝されないことが多い。そのため、XMLの利用が増えても、あまり目立たないことが多い。

XMLのすべてに精通するのはもはや困難

 ここで紹介したいくつかの事例は、XMLの置かれた現状について把握するための好サンプルといえるだろう。Webサービスは、まったく新しいテクノロジを構築するためにXMLを全面的に利用した例だ。このような使い方では、XMLはその能力を余すところなくを発揮するだろう。普及速度も新しいテクノロジの普及と完全に一致しているといえる。Webサービスが使われれば、自動的にXMLも使われる。

 これに対して、SVGの事例は、何もかもが素早く普及するわけではないことを示している。じわじわと時間をかけて普及していく技術もある。そのことは、XMLの失敗や敗北を意味しない。むしろ、じわじわと普及していく長い目で見ることができる点に、XMLの優秀性があるといえるだろう。XMLは一過性の流行ではないのだ。

 だが、条件次第では普及速度は加速できる。NewsMLの事例はそれを示している。相手が絞られれば絞られるほど、新しい技術の導入は容易になる、反面、相手が絞られた技術はあまり宣伝されることがなく、使われているのに目立たないという現象につながる。

 ここまでは普及速度について見てきたが、分野の違いも重要だ。この3つの事例だけ見ても、すべてに精通することは極めて困難といえる。まったく応用分野が異なっているからだ。つまり、普及速度という縦軸が大きく開きつつあるだけでなく、応用分野という横軸も広がりつつあり、一人の技術者が全体を見通せる範囲をはるかに超えてしまっている。このような状況は、浸透しつつ拡散しているとでもいえばよいだろうか。決して単純に浸透するだけの存在ではない点が、XMLの大きな特徴といえるだろう。

 そのことから考えれば、これからのXML技術者は、「XML関係のことは何もかも分かります」とはいえなくなる。自分の得意分野を決めて、そこに集中することが要求されるだろう。

「連載 XMLフロンティア探訪」


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