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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(18)

債務超過283兆円! 憂うべき赤字国債の深刻度

高田直芳
公認会計士
2011/9/1

国が持っている「打ち出の小槌」は、増税、国債増発、政府紙幣発行の3本立てだ。そのうち今回は、国債について取り上げ、経営分析のノウハウを適用して、その最適残高を模索していきたい。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年10月30日)

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 債務超過は283兆円!
JALより深刻な国の財政状態

 では次に、わが国の貸借対照表を検証していこう。これは「国の財務書類関連」にて閲覧できる。そのサイトにある2008年3月期を要約したのが〔図表2〕である。

 資産合計は694兆9127億円、負債合計は977兆7778億円。さすが一国の貸借対照表だけあって、金額を億単位としてもその内容が豪快である。

〔図表2〕国の貸借対照表(2008年3月期)

 

 国の財政というのは難物だ。〔図表2〕に掲げた08年3月期の貸借対照表上では、公債が676兆円ある。ところが、連結貸借対照表の公債は418兆円となっている。連結仕訳まで開示してもらわないことには、両者の違いがよくわからない。(〔図表2〕は「連結」ではない貸借対照表のほうを採用した)

 〔図表2〕の右下を見ていただきたい。国の貸借対照表の大きな特徴は、純資産の部がないことだ。〔図表2〕の右下にあるのは、債務超過282兆8650億円である。負債(978兆円)が資産(695兆円)を上回っているのであるから、その差額が債務超過となる。

 第15回(JAL編)や第16回(三井不動産編)では、JALをサカナに債務超過という用語を持ち出した。国はJALの財政状態を糺(ただ)す前に、自らの債務超過を省みる必要があるようだ。

 マスメディアなどでは、負債の部に計上された公債(676兆円)を人口で割って、1人あたりの借金の多さを煽ることがある。しかし、公債は債券という資産となり、借入金は貸付金という資産になるのであって、相手方には利息収入がもたらされる。理屈の上では正負が相殺されるのだから、そんなに騒ぐことではない。

 問題は、債務超過(283兆円)にある。これは誰にも資産として保有されない、無条件の債務である。

本来は禁じ手である赤字国債は
なぜ乱発されたか

 財政再建を語るときに指摘されるのが、この債務超過である。公債(676兆円)から債務超過(283兆円)を差し引いた額が、公債の最適残高だ、と主張されることもある。これによって貸借対照表は、文字通りバランスする。

 しかし、企業の貸借対照表ならともかく、国の貸借対照表で「資産の部」と「負債の部」を均衡させること、すなわち、内部留保をゼロに保たなければならない理由はない。債務超過そのものを語っても意味がないのである。むしろ、借金がどれほど肥大化しているかを語るほうが現実的であろう。そこで今回は、公債(676兆円)に注目していく。

 公債は主に、赤字国債と建設国債から構成される。赤字国債は、国の財政が赤字となる場合に発行される、債券という形をとった借金である。そこをとらえて、赤字国債と呼ばれる。

 建設国債は、社会資本整備のために発行され、社会資本それ自体が将来の国民にも役立つものであることから、その発行が正当化される。それに対して赤字国債は将来の国民にツケをまわすことから、財政法4条において「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」とあるように、本来は禁じ手の資金調達方法だ。

 「昭和40年不況」のときに、その禁じ手を破って赤字国債が発行された。その後、第1次石油危機(1973年10月)のときには税収の落ち込みによる歳入欠陥を補填するために、三木武夫内閣の下で赤字国債が大量発行され、現在に至っている。

流動負債に隠された
「不活動負債」の恐怖

 赤字国債についてしばしばヤリ玉にあげられるのが、その大きさだ。しかし、過剰負債だと騒ぐのであれば、最適残高はどれくらいなのか、ということを指摘する必要がある。

 そこで、本コラムでは赤字国債の最適解にチャレンジしてみたい。

 しかし、結論を先に述べると、最適解を求めるのは難しい。その代わり、過剰負債がもたらす奇妙な問題を浮かび上がらせることができるようだ。

 旭化成の負債の部を例に、負債というものの性質を見ておこう。〔図表1〕では、流動負債4879億円、固定負債2801億円が計上されている。

 資産や負債を流動と固定に分類するのは、地球の公転運動に基づく。地球が太陽のまわりを1周するまでに資金が1回転以上するのであれば流動資産・流動負債であり、それ未満のものは固定資産・固定負債となる。こうした分類を、流動性配列法という(財務諸表等規則13条)。

 ところが、流動負債に計上されている債務であっても、資金が1回転しないものがある。その典型が「ころがし単名」と呼ばれるものだ。

 これは支払期日を1年以内に定めて銀行に約束手形(単名手形)を振り出し、借り入れを行なうものである。名目上の返済期限は1年内に設定されるため、流動負債の短期借入金に計上される。

 ところが実際には、同額での手形の書き換えが行なわれて、実質的には長期の借り入れとして貸借対照表の流動負債に、ベッタリと張り付いているケースが多い。これを不活動負債と呼ぶことにしよう。不活動負債の恐ろしいところは、元本が減らずに利息をだらだらと支払い続ける点にある。

 一方、固定負債の多くはベッタリと張り付いたものが多いのが原則だ。それでも若干の残高の増減はある。固定負債であっても動きのある部分を、活動負債と呼ぶことにする。もちろん、流動負債のほとんどは、活動負債である。こうした視点から、流動負債・固定負債を、活動負債・不活動負債に分解し、その割合を以下で分析していこう。

 作業として、第17回(コマツ&クボタ編)で紹介したランニング―ストック方程式(基本はキャッシュフロー方程式)を活用する。そのコラムで在庫の最適解を求めたときは棚卸資産回転期間を用いたが、今回は債務償還年数を活用するのがミソである。

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