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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(17)

コマツとクボタの分析で分かる在庫調整のわな

高田直芳
公認会計士
2011/8/4

大企業の在庫調整が一巡し、いよいよ景気も回復傾向かと思われたが、決してそうではない。なぜなら、大企業の在庫圧縮は、下請け企業から納品された「部品」を戻すことによって行われることもあるからだ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年10月16日)

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 タイトルに「大不況に克つ〜」と銘打っている本コラム。2009年2月に連載を開始した当初は、各方面で「百年に一度の」や「未曾有の」という形容までついて、世界経済や日本経済は崩壊してしまうのではないか、と危惧するほどの騒ぎであった。

 いまはかなり回復したようで「よかった、よかった」──と、筆者の顧問先企業の経営者や従業員相手に語っていたら、彼らから袋叩きにあってしまった。

 鳩山政権の登場で、製造業派遣禁止や最低賃金引き上げなどの政策が導入されようとしている。大企業であれば、子会社や下請け企業という「受け皿」へ余剰人員を押しつけることもできるが、自身に受け皿を持たない中小企業は、これから「雇いどめ」の修羅場を迎えると言っても過言ではない。

 コンサルティング会社などが開催する、人員整理のための労務対策セミナーが活況なのも頷ける。これから本格的に解雇の嵐が吹き荒れようとする状況下で「よかった、よかった」と簡単に言って欲しくない、というのが「彼ら」=中小企業の言い分なのだ。

中小企業を苦しめる
“消えた”大企業の在庫の行方

 中小企業にとって問題なのは、ヒトの問題だけではない。マスメディアなどではマクロ経済指標を持ち出し、09年以降は在庫の縮減が進み、景気回復の端緒が見えるという。ところが、中小企業の側からいわせると「とんでもないこと」だ。

 大企業の在庫が減っているのは、需要が回復して商品や製品が売れているからではない。実際は、下請け企業から納品された「部品」を、下請け企業に戻すことによって、元請け企業では在庫の圧縮が図られている。

 これを「出戻り」という。業界によっては、もっとすごい隠語があるようだが、それは差し控えておく。いずれにしろ、大企業からヒトやモノを押しつけられている中小企業の経営は、いまや風前の灯火といったところなのである。

 ヒトの問題は取り上げると微妙なものがあるので、今回は在庫の面から、景気が本当に回復したのかどうかを検証することにしよう。

実態を正確に表すことができない
回転期間分析の限界

 元請け企業へいったん納入した部品を、後日、突き返された中小企業は悲惨である。実務を知らぬ会計専門家は、これは返品なのだから売掛金から棚卸資産へ振り替えろ、と口喧(やかま)しくいうだろう。

 しかし、中小企業にそんな原則論が通用するわけがない。貸借対照表では回収もままならない売掛金が増大する一方で、倉庫には元請け企業から返品された在庫が山積みとなっているのが現状だ。

 「悪魔は細部に宿る」。マクロ経済では景気が回復しているように見えても、中小企業という「経済の末端」には悪魔が宿っていると考えたほうがいい。

 では、その悪魔の正体を暴いてみよう。〔図表1〕は、中小企業庁のサイトで公開されている『中小企業実態基本調査』に基づいて、製造業と小売業の売掛金回転期間と棚卸資産回転期間を調べたものである。

〔図表1〕回転期間分析


  経営分析の世界には、収益性分析とキャッシュフロー分析がある。〔図表 1〕に示した回転期間分析が収益性分析の一つとして語られることがあるが、拙著『ほんとうにわかる経営分析』(PHP)でも紹介している通り、回転期間分析はキャッシュフロー分析に属するものである点に留意して欲しい。〔図表1〕は〔図表2〕の式に基づいている。

〔図表2〕売上債権と棚卸資産の回転期間

 

 求められる解は「月単位」である。マスメディアがその記事で論ずる回転期間は総じて〔図表2〕の式が背景にある。

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