PR

「生産管理の鬼」トヨタも
苦戦する固定費削減

　次に、〔図表2〕にあるb（基準固定費）を使った分析を行なう。〔図表4〕は、トヨタの固定費推移を解析したものだ。

　〔図表4〕において黒い線で描かれているのは、一般に流布しているCVP分析（損益分岐点分析）により算出した固定費の推移である。「CVP年間固定費」としている。08/3（08年3月期）ではCVP年間固定費がマイナスに転落しており、CVP分析が分析道具として破綻していることがわかる。

〔図表4〕トヨタの固定費推移

　CVP年間固定費は08/9（08年9月期）以降、年間固定費は6兆円と8兆円の間で推移しているが、第8回コラム（ニトリ＆ポイント編）でも指摘した通り、CVP分析は固定費を過小評価している点に注意したい。

　〔図表4〕において赤い線で描かれているのは、筆者オリジナルのSCP分析により算出した基準固定費の推移である。「SCP基準固定費」としている。以下、〔図表6〕まで同じ構成を採用している。

　トヨタの場合、08/9（08年9月期）に12兆円を瞬間的に突破して以降、SCP基準固定費は微妙な上下動を繰り返しながらも、なだらかに減少している。ただし、08/3（08年3月期）以前までの水準（8兆円〜9兆円）には戻していない。

　どうやら「生産管理の鬼」といわれるトヨタでさえ、胸を張れるほどの固定費削減には至っていないようである。他の上場企業がその決算発表で誇らしげに語っている固定費削減など、“かなりの作文”が混じっていると疑ってかかるべきだろう。

ホンダは固定費削減努力をせず？

　続いて、ホンダの固定費推移を解析したのが〔図表5〕である。

〔図表5〕ホンダの固定費推移

 

　08/3（08年3月期）に大きな蛇行を描いているのは、第2回コラム（ホンダ編）で紹介した「移転価格税制」の影響によるものである。09/3（09年3月期）以降は、巡航速度に戻ったといえるだろう。

　ただし、ホンダのSCP基準固定費は4兆円台前半を推移しており、確かに決算短信で「固定費削減の効果」をうたうほどではない状態であることがわかる。

ニッサンの固定費急減の裏にある
「日産リカバリープラン」

　次の〔図表6〕は、ニッサンの固定費推移を示したものである。

〔図表6〕ニッサンの固定費推移

　09/3（09年3月期）以降、SCP基準固定費・CVP年間固定費ともに急減している。ホンダのような特殊事情がないにも関わらず急減するのは、あまりに不自然だ。また、固定費の大幅な削減に成功した結果、ニッサンの業績が急回復したと解釈している人がいたとしたら、それは大きな誤りである。

　その原因を探るために、売上高と総コスト（売上原価〜法人税等）の関係を〔図表7〕で調べた。

〔図表7〕ニッサンの売上高と総コストの関係

　〔図表7〕は、08/12（08年12月期）から09/9（09年9月期）までの四半期決算データを散布させたものである。

　通常、売上高（横軸）と総コスト（縦軸）の間には、線分ABのような右上がりの比例関係がなければならない。総コストには、外注費や部品費などの変動費用が多く含まれるからだ。ところが、ニッサンの場合は、線分CDのような反比例の関係が認められる。これが、固定費急減の原因である。

　09/3（09年3月期）で損失を先食いすることによって、その半年後の09/9（09年9月期）で「日産リカバリープランの効果」を強調したかったのだろう。ところが、意外なところで反比例という矛盾をさらけ出してしまった。業績回復に自信があるなら復配してもよさそうなものだが、10年3月期まで無配とするのは、さすがに良心が痛んだか。

　そういえば、ゴーン社長の就任1年目にも「事業構造改革特別損失」という演出が行なわれ、第3回コラムでは「監査法人がよくも認めたものだ」と述べた。今回は「とうとう二の轍を踏んでしまったか」とだけ述べておきたい。ニッサンのお家芸とまではいわないが、業績回復を意図的に演出しようとすると、“固定費急減”と“業績の反比例”という、「珍妙な尾ヒレ」がつくことをお忘れなく。

前のページ｜1　2　3｜次のページ