連載:IFRS先行企業インタビュー(2)
丸紅「IFRSは自然な流れ、早ければ2012年度から適用も」
垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2009/12/16
グローバル展開する大手総合商社の丸紅がIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の早期適用を決めた。プロジェクトを推進する「IFRSタスクフォース」を6月に設立。同社の経理部 決算総括課長 岩根秀禎(正しくは示へんに貞)氏と、経理部 担当課長 決算総括課の横田佳明氏に聞いた。
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――IFRSタスクフォースを立ち上げた経緯を教えてください(参考記事)
岩根氏 当社は米国会計基準で連結決算をしていますが、タスクフォース立ち上げの最初のトリガーは、米国証券取引委員会(SEC)が2008年11月に公開したIFRSアドプションに向けたロードマップ案の公表でした。その後、国内においても2009年1月に金融庁からIFRSアドプションの是非を検討するロードマップ案が公表され、また、6月30日に実際の中間報告が公表されたことからIFRSタスクフォースを立ち上げることになりました。
丸紅 経理部 決算総括課長の岩根氏 |
SECのロードマップ案が公表されて以降、当社でもIFRS適用を実際に考え始めました。世界で一番認知されているグローバルスタンダードで開示していくことが大切ですので、米国の会計基準が仮にIFRSを適用し、また、日本においてもIFRSになるのであれば、IFRSに対応するのが、自然な流れと考えています。そう考えると、できるだけ早く対応し、いつでも(会計基準の)切り替えができる態勢にしなければならないということで、経営会議での承認を2009年6月に得て、具体的にプロジェクトが動き始めました。
――6月に設立されたタスクフォースの概要は
岩根氏 当社の経理部には、主に、丸紅グループ全体の決算計数や開示の取りまとめを行う「経理部」と、3つの「営業経理部」があります。営業経理部は各産業分野に特化して、管理会計を含めて担当しています。タスクフォースには、その3つの営業経理部から2名ずつメンバーを出していただき、加えて決算総括課の私たち2名(岩根氏、横田氏)の常時8名で活動を行っています。予・決算業務などをしながらの兼任ですが、決算総括課と予算管理課を中心にプラス7〜8名が適宜加わる形で運営しています。決算期にはその作業に入ってしまうので、時期によってタスクフォースへのかかわり方は濃淡があります。
日本基準、米国基準、IFRSのGAP分析
――タスクフォースはどのような作業をしていますか
岩根氏 当社は2013年度(2014年3月期)から、早ければ2012年度(2013年3月期)からIFRSを適用しようと計画しています。そのため、実務レベルでは、2012年度からの適用をターゲットに作業をしています。このスケジュールからさかのぼり、今年度はフェイズ1と位置付け、まず、日本基準、米国基準、IFRSのそれぞれのGAP分析を行っていく予定です。
2010年度からのフェイズ2ではGAP分析を行った結果から、さらに掘り下げる必要がある分野をもう少し細かく分析し、分野別にいろいろな影響を見ていく予定です。またグループアカウンティングポリシーの作成に着手します。その過程で、事業会社にもアンケート等を実施し、影響調査を行っていきます。
――金融庁の2012年の決定は考慮しますか
岩根氏 米国では2011年に、2014年度からの強制適用の是非が決定される予定です。従って、金融庁の動向だけでなく、SECの動向もフォローしていく必要があります。最終的にはSECや金融庁の動向でIFRS適用の時期が変わる可能性もありますが、その判断を待っていると後手後手になりますので、実務レベルでは併行的にプロジェクトを進めていかざるを得ないと考えています。
丸紅 経理部 担当課長 決算総括課の横田氏 |
一方で、日米会計基準それぞれの審議会(ASBJ/FASB)と国際会計基準審議会(IASB)とのMoUでは主要な会計基準が2011年までに改定される予定になっています。従って2011年度までに早期適用すると、会計基準の改定に伴う財務数値の大幅な組替えが必要となる可能性があります。その場合、われわれの業務負担にもなりますし、外部から見ても比較可能性の観点から混乱が起きる可能性があるのではと考えています。そのため2011年に会計基準改定が一段落することを考慮し、早くても2012年度からのIFRS適用としています。
――米国の動きをどう見ますか
横田氏 米国は、早ければ今年度から一部の米国企業に対して早期適用を容認するというロードマップ案でしたが、2009年の冬になってもロードマップ案後の動きが見えていません。米国は本当にどうなっているのかと不安に思っています。
岩根氏 米国は金融危機後の対応が優先され、IFRSへの対応がSECから見えて来ませんし、これから先の具体的な動きが見えないのが現状です。