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連載:IFRS先行企業インタビュー(1)

富士通「IFRSは真のグローバル企業になるために」

垣内郁栄

IFRS 国際会計基準フォーラム

2009/7/9

2010年3月期からの適用が可能になった国際会計基準(国際財務報告基準、IFRS)は日本企業に何をもたらすのか。IFRSに積極的に取り組み、次の成長を模索する先行企業にインタビューする。第1弾は富士通。同社の財務経理本部 IFRS推進室室長の湯浅一生氏に聞いた。

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――IFRS推進室(準備室、2005年に推進室に改組)が設立されたのは2004年。その狙いは何だったのですか?

湯浅氏 もともとは当社がロンドンに上場していたことに伴うコンプライアンス対応がきっかけでIFRSの検討を始めていましたが、当時は会社の業績が非常に悪く、国内もそうですが、特に海外への投資の整理・リストラを迫られました。こうした失敗の反省から、グローバルなガバナンスを強化することが重要な経営課題だと痛感したことがあります。ガバナンス強化のための共通の経営インフラの1つとして、IFRSに本格的に取り組むことにしたものです。

 設立当初のスタッフはほかのチームとの兼務。いまは8人です。2007年に行った有形固定資産の減価償却方法を定額法に統一する作業や、棚卸資産の低価法の早期適用など、大きな仕組みの変革はビジネスサイドを中心に行ってもらいました。推進室のいまの活動は、注記も含めた財務諸表をIFRSベースで作るという、経理としての割と地味な作業に時間をかけています。当面の目標はIFRSベースで財務諸表を作って監査に耐えられるようにすることです。

IFRSで浮上する「元々あった問題」

――IFRSを適用する上での課題は?

富士通の財務経理本部 IFRS推進室室長の湯浅一生氏

湯浅氏 原則主義とされるIFRSですが、基準にざっくりと書いてあることを、具体的な経理処理の手続きまでどう落とし込むのかということが大きな課題です。懸念を1つひとつ、つぶしていくという地道な作業が要ります。私たちもこのような作業をこれまで経験していないし、監査人との調整にとても時間がかかります。

 当然のことですが、IFRSによる財務諸表の作成を(IFRS推進室の)8人だけで取り組んでいるわけではありません。グループ会社の経理担当者や現在日本基準で決算・開示をしているチームと一緒にやらないとできないのですが、日本基準の変更やJ-SOXといった新しい制度面からの要請、あるいは業績が悪くなる中でのマネジメントへのレポートといったことに対応するだけでも精一杯というのがいまの経理部門の現実です。その中で、馴染みのない会計基準にどう効率的に対応するかが重要になります。これは財務諸表の作り手から見た実務的な問題です。

 社内で、IFRSについての理解を全社的に深めてもらうことも重要な課題です。富士通の経営方針の1つとして、グローバル化をずっと掲げています。なので、IFRSの取り組みについて、マネジメントの支持は基本的に得られてはいます。ですが、実際にIFRSを適用するとどのような影響があるのか、管理手法はどう変わるのかなどといったことをきちんと説明していく必要があります。そのためにはまずわれわれがIFRSの本質を深く理解しないといけないのですが、IFRS自体がどんどん変わっていることもあって、非常に苦労しているのが現状です。ただ、これをやらないと、経営のレベルでの効果が出てこない。コストがかかる割に何をやってるんだ、という話になってしまいます。

 IFRSで社外に開示するとどうなるか、ということについても慎重に見極めが必要です。IFRSを適用することで、ほかのグローバル企業との比較可能性が高まるというメリットが考えられますが、現実問題として当社のコンペティターは米国基準で出しているところが多い。また、任意適用をしても当面は日本基準との差異を開示することが求められると、結局両方の財務諸表を作ることになりかねないので、その判断はとても難しくなります。

――それではIFRS適用の意味とは?

湯浅氏 富士通としては、真のグローバル企業になるために必要なことです。特に当社は欧州を中心に海外のグループ企業のプレゼンスが大きく、統一した基準で業績評価することが必須になっています。ですが実際にやる立場になると、IFRSは入り口でしかなくて、これをきっかけにいろいろな業務プロセスの見直し、ひいては経営のあり方の見直しにまでつなげていくことに意味があると思います。IFRS適用を検討するといくつかの課題が浮かび上がってきます。その課題はIFRS固有のものではなく、根幹は元々あった問題であることが多いというのが私たちの実感です。その課題を解決することが重要です。

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