「IFRS人材」の育て方(1)
IFRSが大きく変える「経理部門カルチャー」
野村直秀
アクセンチュア株式会社
2009/12/7
IFRSは財務・経理部門所属の経理人材に単なる会計処理ルールの改定以上の発想の転換を求める。ビジネス部門を直接支援する業務が求められるなど、経理部門のカルチャーを大きく変える可能性がある。(→記事要約<Page 3 >へ)
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2008年11月のSECによるIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)のアドプションのロードマップ案の公表、日本の金融庁の2009年6月のIFRSアドプションロードマップの公表など、各企業の経理部門の方々にとってIFRSは、J-SOXに続く新たなテーマとして注目度を上げています。
IFRSは、財務・経理部門所属の経理人材に単なる会計処理ルールの改定以上の発想の転換を求めるものです。また、このIFRSが世界経済で必要となっている状況も経理人材に様々な影響を及ぼすことが予想されます。これらをこれから2回に分けて議論していきたいと思います。
競争環境の変化
世界経済は、19世紀後半からの欧州による1極体制や北米を含めた2極体制の時代を経て、ここ数十年は戦後の日本の復興による3極体制が維持されてきました。しかし21世紀を迎え、BRICsに代表される中国、ロシア、インド、ブラジル等を含む新興国の成長は著しいものがあり、世界の経済体制は、3極体制から多極化へ移行してきています。2008年末のリーマンショックを契機とした世界同時不況の中、新興国諸国も同様に不況に陥りましたが、いち早く立ち直りの兆しを見せており、世界経済回復の牽引役として期待されています。
新興国は従来の資源の提供地域あるいは資本の投下先という位置付けから、重要な成長マーケット及び資本の供給元という観点でも重要な位置付けを世界経済の中で果たすようになってきています。これらの新興国の台頭により天然資源、技術、及び人材に関する獲得競争も激しくなっており、世界経済の構図自体が大きく変わりつつあるといえます。グローバルの資本市場に新興国の企業や資本市場が重要な位置付けを占めていくようになっていく中で、それらの整備の一翼を担うことが期待されるIFRSが全世界に普及しつつあります。
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それはIFRSという新しい共通言語がグローバルの資本市場内で確立してゆくことを意味しており、それを使用して財務情報を生成及び加工する役割を企業内で担っている経理人材にも少なからず影響を及ぼすでしょう。
日本の人材環境の変化
日本経済を支える人材全般に関しても、この十数年間に大きな課題が明らかになりつつあります。1つは少子化による労働力人口の減少傾向です。1973年からの継続的な年間出生率の減少により、2010年から2015年にかけて労働力人口は急激に減少し、2020年には2000年と比較して10%程度の減少が予想されています。このような事象により企業が活用できる人材の絶対数が減少する中で、必要な人材を確保するための企業間の競争は厳しくなることが想定されます。
2つ目は教育レベルの低下です。小資源国である日本では古くから教育が重視されており、識字率等は世界のレベルと比べても長期間にわたり高い水準を保ってきていました。しかし近年の教育レベルに関する調査等によると、日本の教育レベルは相対的に低下傾向にあるようです。この点においても、今後多極化した世界経済がより複雑化する中で、企業のコア人材を日本の人材市場において十分確保することは、より難しくなりつつあるといえるのではないでしょうか?
一方、今後大きな経済成長が期待される新興国等では、教育投資も拡大することが想定されます。それは、新興国内での良質な教育による、良質な人材の供給が増加することを意味するものです。日本企業は、コア人材を今後も継続的に獲得するためには、従来の日本の人材市場のみに依存することは厳しいと言わざるを得ません。