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「IFRS人材」の育て方(1)

IFRSが大きく変える「経理部門カルチャー」

野村直秀
アクセンチュア株式会社
2009/12/7

IFRSは財務・経理部門所属の経理人材に単なる会計処理ルールの改定以上の発想の転換を求める。ビジネス部門を直接支援する業務が求められるなど、経理部門のカルチャーを大きく変える可能性がある。(→記事要約<Page 3 >へ)

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 従来は経理部門では過去情報の獲得と整理がその主な役割であるといわれてきましたが、今後は将来情報に目を向ける必要性が出てきます。すでに日本の会計基準でも導入されている固定資産の減損会計の処理方法を例にご説明します。

 減損会計では、減損の兆候を既存の“過去”情報を中心に判断します。兆候ありと判断された場合には、当該資産を活用した事業の将来見通し情報(将来情報)を収集し、当該資産が貢献できる見込みの将来キャッシュフローを推計し、当該将来キャッシュフローに貢献できるレベルの金額まで、当該資産評価額を減損することになります。このように常に将来情報を加味した経理情報の処理が求められるといえるのです。

 このような、将来情報を加味した思考が重視されるようになるということは、経理部門に求められる役割が、よりビジネス部門を直接支援する業務が求められることとあいまって、経理部門のカルチャーを大きく変える可能性があるといえます。

財務・経理は、企業価値向上に貢献する役割機能がより必要とされている(CFOフォーム:財務マネジメントサーベイ2003から、アクセンチュアが分析)

 

グローバル基準

 IFRSは、IASBという国際機関で議論され、決定されます。議論は英語で行われ、その内容の公開も原則として英語で行われます。ASBJ等はIFRSのアドプションに備えるために、翻訳体制の強化を図っておりますが、あくまでも正文は英語であるために、特にグローバル企業では、海外子会社への説明と周知等も考慮すると、英語での理解も必要となります。つまり、英語でIFRSに関して議論できる力が必要となります。

 例えば、日本本社の各種取引を参考として社内会計処理ルールを制定した場合であっても、海外子会社では商習慣や契約内容が異なり、IFRSの原則に沿って、海外子会社の担当者と(英語で)改めて会計処理方法を協議する必要が出てきます。その協議内容を監査法人にも同様に説明して納得してもらうプロセスを踏む必要があります。

 このようなIFRSのアドプションの影響を今後の期待される経理人材像に反映させるべく、各企業及び経理部門は、人材の育成や獲得の方針を適時に見直していくとともに これらの人材が十分にその能力を発揮できるような組織・業務体制を構築していくことが望まれます。

 次回は、今後の経理の組織・業務体制の整備の方向性について議論をしていきたいと思います。

筆者プロフィール

野村 直秀(のむら なおひで)
アクセンチュア株式会社
経営コンサルティング本部 財務・経営管理 グループ統括
エグゼクティブ・パートナー 公認会計士
アーサーアンダーセン公認会計士共同事務所、朝日アーサーアンダーセン株式会社、KPMGコンサルティングを経て、2006年にアクセンチュア入社。大手メーカーの決算早期化プロジェクトや大手金融機関の内部統制強化プロジェクトなどを担当。共著書に「内部統制マネジメント」など。IFRSフォーラムで「IFRSと経営」を執筆。アクセンチュアのIFRSチームを率いる(Webサイト

要約

 IFRSは、財務・経理部門所属の経理人材に単なる会計処理ルールの改定以上の発想の転換を求める。

 IFRSは、Principles Base(原則主義)で策定されている。各社の経理部門では、社内の各種取引が該当するIFRSの原則に照らして、どのような経理処理にすべきかを検討して、社内に周知(制度化)する必要がある。また、その検討結果を監査法人に説明して納得してもらうことも必要となる。

 また、IFRSでは、公正価値による資産や負債の評価の考え方が取り入れられている。公正価値による評価を行う場合には、当該資産や負債が評価時点において、関連する将来キャッシュフローにどのような影響を及ぼすかという判断が必要。つまり将来の事象を予測する情報を獲得して整理することが求められる。

 従来は経理部門では過去情報の獲得と整理がその主な役割であるといわれてきたが、今後は将来情報に目を向ける必要性が出てくる。

 このような、将来情報を加味した思考が重視されるようになるということは、経理部門に求められる役割が、よりビジネス部門を直接支援する業務が求められることとあいまって、経理部門のカルチャーを大きく変える可能性がある。

 IFRSのアドプションの影響を今後の期待される経理人材像に反映させるべく、各企業及び経理部門は、人材の育成や獲得の方針を適時に見直していくとともに これらの人材が十分にその能力を発揮できるような組織・業務体制を構築していくことが望まれる。

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