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内部統制の過去・現在・未来(2)

内部統制は定着という名の次のステージへ

原幹
株式会社クレタ・アソシエイツ
2010/3/24

日本の内部統制報告制度は大半の上場企業が最初の年度を終え、1つの踊り場を迎えた。多くの企業が対応に苦慮したこの内部統制報告制度は今後、定着していくのだろうか? 内部統制報告制度の次のステージに向けて、現状の総括と今後の展望を解説する(→記事要約<Page 3>へ)

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内部統制評価の「仕組み化」とグループ会社への展開

 内部統制評価で最も煩雑なのは、運用状況評価(または運用テスト)の実施である。実際に業務で使用しているデータをサンプルとして集め、必要なサンプル件数を設定して文書どおりに統制が機能しているかどうかを検証する作業である。

 この運用状況評価をいかに「仕組み」として効率化するかどうかがポイントだ。具体的には

  • 文書の更新管理
  • テスト方法の自動化と標準化
  • サンプル件数の妥当性判断

などに注目することが重要だ。

 内部統制文書のいわゆる3点セット(業務フロー、業務記述書、リスクコントロールマトリクス《RCM》)は、業務の変更や職務分掌に変化が起きるたびに更新される。これらの文書量は膨大なので、運用状況評価に先だって文書の更新および整備状況評価を進めるために、これらの文書更新状況を逐次把握できる状態にしたい。

 テスト方法の自動化と標準化は、2年目以降の内部統制評価においてもっとも重要で、なおかつ効率化の効果が見込める。初年度と異なり、手作業による評価のままでは運用状況評価に毎年同じ工数を割くことになるので、一度構築された内部統制の仕組みを評価していくプロセスは各種ツールを効果的に利用して自動化を図り、より少ない工数で実施できるようにすべきであろう。

 また「内部統制実施基準」でも明示され、巷間で広くいわれる「90%の信頼度を確保するためには25件のサンプルが必要」という考え方については、文字どおり解釈するだけでなく「25件のサンプルが必要十分な水準なのかどうか」を常に検証する必要がある。

 一般的には、たとえば25件のサンプルを得てテストをした結果2件程度のエラーが発見された場合にはテスト範囲を拡大して再テストを実施する。実務ではこのようなエラーが出ないことを見越してあらかじめテスト範囲を広めに設定(例えば40件程度)し、エラーが出ても再テストをせずに済む件数を想定しておくべきだ。世にある内部統制評価ツールはこれらのサンプリング件数、データ抽出の作業を自動化するものも多いので効果的に使えるツールを積極的に利用していきたいところだ。

 内部統制評価ツールを効果的に利用することで、「文書更新ステータス」「サンプリングの自動化」「評価状況の把握」をより効率的に進めることができる。

 親会社においては内部統制整備チームが組まれて手厚いフォローができるケースが多いが、グループ会社におけるフォローが十分でないケースが初年度には多く見受けられた。具体的には、特に海外のグループ会社などにおいて内部統制評価に必要な情報が乏しく、また親会社から明確な指示がこないために作業が効果的に進められず滞るといった事態である。

 2年目以降においてはこのような事態に陥らないよう、親会社で蓄積した内部統制評価のノウハウ=「仕組み」をグループ会社に対しても効果的に展開できるかどうかが鍵になる。

監査人との連携

 2年目以降においても、監査人との連携は大事な考慮ポイントである。導入初年度においては会社側、監査人側もお互いが手探りだった事情もあり、あまり内部統制の不備および改善について強力なイニシアチブを取らないこともあった監査人も、2年目は一度通った道(評価プロセス)をより厳格に行うことを求めてくる可能性があるので注意する必要がある。

 気を付けたいのは、監査人はあくまで内部統制評価の『結果』に対して意見を表明する役割を負うのみであり、内部統制評価の『過程』についてコメントするべき立場にない(アドバイスはする)という点だ。それまで会社・監査人双方の合意に基づいて進めていたはずの内部統制評価の作業が、ある日掌を返したように求める統制レベルや評価方法が上がったり変わったりといった経験をした企業は多いだろう。そのような『空気を読まない』監査人の存在を責めるべきではない。彼らは『結果』への意見に責任を負う生き物であり、『過程』に責任を負うのは企業側の役割と割り切るのも内部統制評価に取り組むうえで忘れてはいけないポイントである。

 かといって監査人をいたずらに敵対視することなく、極力友好的に内部統制評価に協力してもらい、効果的なアドバイスをもらえるよう仕向けるのもこれからの内部統制評価において必要なところ。作業途中段階での都度のレビューや意見交換はもちろん、最終的な落としどころの想定を常に監査人と連携していくことがより効果的な内部統制整備につながっていくはずである。

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