企業価値向上を支援する財務戦略メディア

内部統制の過去・現在・未来(2)

内部統制は定着という名の次のステージへ

原幹
株式会社クレタ・アソシエイツ
2010/3/24

日本の内部統制報告制度は大半の上場企業が最初の年度を終え、1つの踊り場を迎えた。多くの企業が対応に苦慮したこの内部統制報告制度は今後、定着していくのだろうか? 内部統制報告制度の次のステージに向けて、現状の総括と今後の展望を解説する(→記事要約<Page 3>へ)

前のページ1 2 3

PR

(2)内部統制報告制度の今後の方向性

 2年目以降に向けた内部統制制度の方向性は、以下のポイントで考えることができる。

  • 評価体制の確保と重要リスク領域の識別
  • CSA(コントロール自己評価)への展開
  • IFRS(国際財務報告基準)との関連

 それぞれ見ていこう。

評価体制の整備と重要リスク領域の識別

 内部統制評価を有効に行ううえで、企業規模やタイプによって考え方が分かれる。上場企業や非上場の大会社においては、初年度を乗り切った経験を踏まえてより効果的・効率的な内部統制評価を進めるべきだ。特に外部監査が必須という環境を踏まえ、専門家のアドバイスを有効活用して推進されたい。内部統制の評価体制を整備しつつ、上述の評価ツールの充実を図ることが求められる。

 なお上場企業でも、公開まもない会社や比較的規模が小さい会社においては伝統的な大企業とは事情が異なる。大企業と比べて要員が足りない、動かす手が足りないというのは中規模以下の会社においては慢性的につきまとう課題である。一方で、現行制度上は会社規模によって内部統制の対応に区別を置いているわけではない。このような場合には多くの局面で割り切りが求められ、いかに評価対象を絞り込むか(重点リスク領域を識別するか)がポイントとなる。また小規模な組織では複数の担当者による十分な牽制を確保しにくいため、経営者自身による監視によって統制が機能しているかどうかを併せて検証するべきだ。

CSA(コントロール自己評価)への展開

 CSA(Control Self Assessment、コントロール自己評価)とは、内部統制評価におけるより先進的なアプローチとして昨今広く注目を集めている。具体的には、内部統制の経営者評価(第三者的な観点からの社内評価)に先立ち、業務の現場における自己評価を先行して進め、業務における不備の芽を未然に摘んでおくという方法である。このアプローチにより、経営者評価や外部監査の工数を削減することが期待でき、また現場においてはコントロールの重要性について周知啓蒙する効果もある。

IFRSとの関連(決算・財務報告プロセスの変更)

 日本では2012年をめどに強制適用の判断が行われるとされているIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)であるが、これが導入されることが確定すれば、内部統制評価への影響も確実に発生する。具体的には「決算・財務報告プロセス」のうち、特に「連結決算プロセス」(特に具体的には有価証券報告書作成プロセスや開示プロセス)が従来のプロセスから大きく変更する可能性がある。たとえばIFRSにおいては「注記情報」の充実が大きな特徴であるため、従来型の(開示様式に記入することを前提とする)業務からの変更は大きい。

 またコンバージェンス対応(IFRSの改訂に合わせた日本の会計基準の改訂。中期コンバージェンスは2011年6月をめどに完了を目指す)においては日々基準が変化しているため、自社の決算・財務報告プロセスへの影響を常にフォローする必要がある。



 日本における内部統制評価制度は、まだ始まったばかりの歴史の浅い仕組みだ。初年度を乗り切った企業でも、2年目〜3年目と評価を継続することを考えると、ビジネススピードが高まる中でより効果的・効率的に評価することが求められる。そして内部統制に『百点満点』はないことを常に念頭に置いて日々の継続的改善を諮っていくことこそが、制度そのものの定着につながるはずである。

筆者プロフィール

原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社数社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。
「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。翻訳書およびメディアでの連載実績多数

要約

 日本の内部統制報告制度は大半の上場企業が最初の年度を終え、1つの踊り場を迎えた。初年度では、企業側では多くの準備作業を費やし、監査側との調整にも必要以上に神経質に対処しつつ、とにもかくにも導入完了した。2年目以降に求められるのは、内部統制の仕組みをより効率的に運用し、高い品質での統制を機能させるかどうかだ。

 内部統制報告制度は「法律で求められる最低限だけ対応すればよい」という考え方が主流を占めるのが現状。内部統制導入を機にコンプライアンス重視の社風にシフトしていくという考え方をとる企業はまだまだ少数派である。だが、内部統制報告制度は決して財務経理部門のみの作業ではなく、重要な業務部門においては自部門の内部統制を評価する必要がある。「トップマネジメントの理解」「財務経理部門にとどまらない全社で取り組むべき仕事」という理解が求められる。

 テスト方法の自動化と標準化は、2年目以降の内部統制評価において最も重要で、なおかつ効率化の効果が見込める。初年度と異なり、手作業による評価のままでは毎年同じ工数を割くことになるので、評価プロセスは各種ツールで自動化を図り、より少ない工数で実施できるようにすべきであろう。

 日本では2012年をめどに強制適用の判断が行われるとされているIFRSであるが、これが導入されることが確定すれば、内部統制評価への影響も確実に発生する。日本における内部統制評価制度は、まだ始まったばかりの歴史の浅い仕組みだ。初年度を乗り切った企業でも、今後は効果的・効率的に評価することが求められる。内部統制に『百点満点』はないことを常に念頭に置いて日々の継続的改善を諮っていくことこそが、制度そのものの定着につながる。

前のページ1 2 3

@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID