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IFRS財務諸表を読みこなす(2)

IFRS時代にEVAを超える経営指標は生まれるのか

櫻田修一
株式会社ヒューロン コンサルティング グループ
2010/3/8

批判はありながらもEVAなどの企業価値指標、業績評価指標は支持されている。次世代IFRSに基づく新しい財務諸表表示は今後の経営指標に何をもたらすのだろうか(→記事要約<Page 3>へ)

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EVAがなぜ受け入れられたか

EVAの算式は以下のとおりである。

EVA=税引後支払利息控除前営業利益−資本コスト

  • 税引後支払利息控除前営業利益はNOPAT(Net Operating Profit After Tax)とも呼ばれ、事業の成果としての利益、収益性を示す
  • 資本コストは 投下資本×資本コスト率(借入金利と株主資本コストの加重平均)で算定され、事業を行うために必要な(投資した)、運転資産(売掛金、棚卸資産など)、固定資産、無形資産などを取得するのに必要なコストを表す

 EVAは事業に投下した資金が生み出す利益が、その事業に必要な投資を調達するための資金のコストをどれだけ上回っているか、を測る指標となる。投資家の視点からするとEVAがマイナスの場合、つまり当該事業からの利益が必要な資金コストを下回っている場合、投資を継続する必然性がなくなる。

 このようにEVAは事業に必要な投資、そのための資金調達のコスト、その事業の結果としての利益という企業の事業活動全体の視点を持つ指標のため「投資家の視点からは優れている」といわれている。

経営者の3つの視点

 では「経営者の視点」からはどうであろうか。製造業などのグローバル企業に代表されるように1990年代以降、企業はグループ内で複数事業を展開していることが多い。このような現代的な企業の経営者は本質的に以下の3つの視点で俯瞰的に意思決定を行い、グループ企業全体としての業績のマネジメントを行っている。

(1)個々の事業そのものの収益性の向上
 新製品の開発や市場の開拓のための新規の投資を行う、固定費を削減する、生産効率を向上する、などの施策を打ち、個々の事業の収益性を向上する。単に損益計算書の利益の絶対額ではなく、投下された資産に対する利益額、つまり効率性の視点が必要。在庫や遊休資産の削減などの資産の圧縮や、生産効率の高い設備の導入などにより効率性は向上する。

(2)複数事業のポートフォリオを最適化
 複数の事業を比較し、どの事業に優先的に投資を行い、場合によってはどの事業を縮小、撤退するか意思決定し、グループ企業全体としての業績を向上させる。近年グローバル企業は同一事業であっても米国、欧州、アジア、中東のような経済圏でのポートフォリオを素早く変化させて業績の向上につなげていることも多い。

(3)事業に必要な資金調達コストを(相対的に)減少させる
 財務的なアプローチで事業に必要な資金調達し、かつそのコストを低下させることにより、グループ全体としての業績を向上させる。

 EVAの算式はこの3つの視点のうち、(1)と(3)を内包している。事業別もしくは地域などのマネジメントが考える管理単位ごとにEVAを算出すれば(2)の事業ポートフォリオの意思決定の支援情報となる。EVAのロジックは投資家だけでなく経営者にとっても本来必要な考え方である。

 しかしながら日本においてEVAに対して否定的な意見も多かったのも事実である。EVAに基づく欧米的な経営意思決定、つまり収益が挙がらなければ事業から即座に撤退する、人員削減を行う、などの短期的な業績のマネジメントの側面が強調されたからである。営利を追求する企業である以上、事業に投下する資金の調達コスト以上の利益を稼ぐべき、というEVAの考え方は真っ当と思える。

 考慮すべきは経営意思決定の中身そのもの(事業に投資し利益を獲得するというサイクルをどれくらいの期間におくべきか、将来の事業利益のためにはいまはマイナスでもよいか、事業ポートフォリオをどれくらいの期間で変化させるか、社員をどれだけ大切にするかなど)であり、業績管理指標はあくまでもツールでしかない。

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