
IFRS財務諸表を読みこなす(2)
IFRS時代にEVAを超える経営指標は生まれるのか
櫻田修一
株式会社ヒューロン コンサルティング グループ
2010/3/8
批判はありながらもEVAなどの企業価値指標、業績評価指標は支持されている。次世代IFRSに基づく新しい財務諸表表示は今後の経営指標に何をもたらすのだろうか(→記事要約<Page 3>へ)
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前回(「財政状態計算書」「包括利益計算書」って何? )は現行のIFRSと2008年10月にIASB(国際会計基準審議会)から公表されたディスカッションペーパー「財務諸表の表示に関する予備的見解」(以下、財務諸表表示のDP)の2つの財務諸表表示について日本基準との主要な差異、特徴を概説した。
今回はこの財務諸表表示のDPによるIFRS財務諸表と企業価値指標などの業績評価指標との関連、将来これが採用された際に、企業のマネジメントがこの新しい財務諸表をどのようにとらえたらよいのかを考えてみたい。
企業の業績管理の歩み
1990年代のバブル崩壊までは、日本企業は、右肩上がりの経済を前提とした、大量生産を享受していた時代であり、経営者の関心事、つまりマネジメントすべき業績は売上数量、売上高、利益であった。1980年代、米国においてはすでに株主のために資本効率を向上させるROEに注目し始めたころでもある。日本においてもバブル崩壊後は機関投資家や海外の投資家比率が増加した事により企業の業績に関してグローバルスタンダード、つまり株主重視の経営や企業価値の向上、資本効率向上が求められるようになった。企業の業績をマネジメントするためのツール、業績管理指標としてROEやROAを用いて目標設定を行い、その達成度を把握しつつ業績のマネジメントを行うこと、いわゆる「ROE経営」が広く受け入れられた。
1990年代後半からは株価との連動性が高いなどの視点からFCF(フリーキャッシュフロー)などを指標として用いる「キャッシュフロー経営」も導入され、そして1997年に米国スタン・スチュワート社が商標登録しているEVA(Economic Value added:経済的付加価値)が紹介されたことにより、ROICなどとともに、資本効率をも重視する指標が注目された。さらに同時期に多くの企業で導入が検討されたBSC(バランスト・スコアカード)、会計ビックバンによる連結財務諸表重視の開示要請と相まってグローバルで活躍している企業を中心に企業価値経営と連結グループ全体の業績をマネジメントするEPM(Enterprise Performance Management)などの考え方、手法の導入が2005年ごろまで盛んに行われることとなった。
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その後、SOX法の導入を契機にリスクマネジメント、リスク管理指標を業績管理の体系に組み込む(ERM:Enterprise Risk Management)動きが見られるが、以前からリスクマネジメントに取り組んでいる金融機関、商社などの業種を除き、必ずしも多くの企業に定着した、とはいえる状況ではない。特に2008年の金融危機以降、各種指標によるマネジメントなど吹き飛んでしまうほどの経済環境の変化が起きたことは、このようなマネジメントの仕組みに対する経営者の興味を激減させたという背景もある。
2000年前後のEVAとBSCの枠組み以降、業績のマネジメントに関する革新的な枠組みは誰も提示できていない。EVAはその導入効果に批判もあるのも事実であるが、現時点においても代表的な企業価値・業績管理の指標の1つである。