IFRS時代のXBRL活用を探る(1)
XBRLに再び注目すべきこれだけの理由
藤田靖
電通国際情報サービス
2010/3/30
IFRSの登場で、XBRLが再び注目を集めている。高い相互比較性を理想とするIFRS、と勘定科目の組み換えやデータベースへの保存のしやすさに特徴があるとされるXBRL。この組み合わせは企業にどのようなメリットをもたらすのか(→記事要約<Page 3>へ)
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これは現行EDINETのデータ提出形式だ。財務開示における全項目をXBRLで提出できるのではなく、特に「附属明細表」などの注記部分はHTMLでの提出が求められていることが分かる。この仕様が、IFRSを通じたXBRL活用のボトルネックになってくることが考えられる。
というのも、将来のIFRSアドプションによる大幅な注記増の懸念が財務開示作業の現場における一般認識となりつつあるにもかかわらず、その注記をHTMLで作成せねばならないとすれば、XBRLを通じた相互参照性の向上が期待できないためだ。
包括利益などの新たな項目が追加されたときにそれに沿ったXBRLタクソノミが提供されれば、XBRL対応の会計システムを用いて値をセットするだけで制度改正後の財務諸表が簡単に作れる理屈なのは前項でも書いたとおりである。しかしながら、注記増が懸念されるIFRS適用財務開示書類をXBRLで作成するときは、提出するかなりの部分をHTMLで作成する必要がある。そうであれば提出側も参照側も不要な労力を費やすばかりで、XBRLが本来持つ利便は損なわれる。
国内外を通じた相互比較性の向上というIFRSのメリットを存分に生かすために、少なくとも数値項目を持つ注記情報については早急なXBRL化が求められる。
もう一点、国内におけるXBRL制度の複数併存を挙げておかねばならない。図表4で、国内の主なXBRL制度を列挙しておく。
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これらの制度は、一部を除き、互いにタクソノミなどの互換性を欠く。財務会計関連でも金融庁のEDINETと東京証券取引所のTDnetが併存するばかりか、税務上も別々な仕様となっている。
金融庁が、IFRS適用に向け2009年6月に発表した「『我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)』の公表について」では、会計と税務における異なる基準が併存することによる企業の事務手続きの煩雑化の懸念が示されている。ユーザーの利便に寄与する相互参照性を高めるうえでも、各制度におけるXBRLの仕様の統一を筆者としては願いたいところである。
海外の動向と日本への影響
日本のEDINETとは対照的に、1996年から(XBRL開示は2008年12月から)の電子開示インフラ提供実績を持つ米国証券取引委員会(SEC)は、財務開示におけるすべての注記情報を今後4段階でテキストからXBRLに取り込むためのロードマップ(PDF:英語、57〜62ページ)をすでに公開している。
この方針は、オバマ大統領政権による金融制度改革の下で米国財務会計基準審議会(FASB)が進めるIFRSコンバージェンス(PDF:英語、86〜87ページ) と密接な関連があると考えられる。オバマ政権は、金融制度改革における20カ国・地域財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)の理解を取り付けるための「ツール」として(FASBを通じた)IFRSへの関与を深めている。
とはいえ、SECは先日、IFRSの早期適用を後ろ倒しにする発表を行った(参考記事:米国のIFRS適用は2015年以降に後ろ倒し、SECが声明文)。皮肉にも、これが逆に日本におけるIFRSへの取り組みを先行事例としてきわ立たせることになったと筆者は見ている。
IFRSにとどまらずXBRLについても、早晩日本の制度当局はこれまで見られた米国への追随姿勢から大きく転じ、さらなる攻勢を掛けてくるに違いない。
なぜIFRS時代にXBRLがより重要になるか
遠くない将来に到来することが想定されるXBRLのトレンドを大きく分けると、(1)開示系、(2)収集系、に分類できる。
(1)開示系については、これまでのPDFベースの財務開示に並行しつつ、国内外の投資家などの要望を通じ、相互比較を実現するXBRLを通じた財務開示がより重きを増してくることが考えられる。
(2)収集系については、他社XBRLデータの収集を通じ、今後の実施が求められる「IFRS1号 初度適用」の開示の手本にする、あるいは同業他社との比較分析を行い経営戦略に生かすなどの利用方法が考えられる。
高い相互比較性を理想とするIFRS、および勘定科目の組み換えやデータベースへの保存のしやすさに特徴があるとされるXBRL。この組み合わせが、企業の財務会計に留まらず広報・IRやマネジメント・アプローチに基づく経営戦略立案といった業務にいっそう寄与することが期待される。
あるいは、国内におけるIFRSアドプションの進ちょく度合いはともかく、むしろIFRSに期待される国際的な相互比較性の向上の実現手段におけるXBRLのさらなる普及が図られることは十分に考えられる。そうした制度対応に準備しておくことは、決して無駄とはならない。
いずれにせよ、XBRLが今後の会計システム・トレンドの中で極めて重要な地位を占めるようになってくるのは間違いないだろう。
筆者プロフィール
藤田 靖 (ふじた やすし)
電通国際情報サービス ビジネスソリューション事業部
グループ経営コンサルティング2部 シニアコンサルタント
英国勅許公認会計士協会(ACCA)IFRS知識認定「CertIFR」保有、
修士(経営学)(MBA)
基幹系情報システム一筋でキャリアを重ね、1980年代〜1990年代末までの「土地・株バブル」「ドットコム・バブル」の下で企業情報システムの変遷の現場に携わってきた。IFRSを、企業の各部門、具体的には、財務会計と生産現場、経営管理の間にある距離を縮める「ツール」と捉え、もっぱら注目している。経営情報学会正会員。
要約
この記事では「XBRL(eXtensible Business Reporting Language)」とは何かについての説明を行う。XBRLをごく簡単に表すと「財務会計用途に特化したXML(eXtensible Markup Language)」といえる。「タグ」作成の自由度が高く、特定の用途に向けた意味を持つ「タグ」を、それを使う業務の関係者の間で広く共用できれば、データの共通性や相互参照性が高まるというメリットがある。
金融庁は「2010年版EDINETタクソノミ(案)の公表について」を公開した。さらに3月1日には、「EDINET概要書等の一部改正(案)の公表について(国際会計基準の適用関係)」を公開。今後国内で引き続き実施される予定のIFRSコンバージェンス、アドプションに対応して、今回のように制度当局がXBRLタクソノミを用意してくれるのであれば、そこで指定された表示順、計算方法、他項目との関係、表示ラベル、参考文献といった情報をユーザーは得られる。例えば、タクソノミを既存の会計システムに適用することで新たな会計ポリシーにも即座に対応できるなどのメリットが期待できるだろう。
XBRLが持つデータ構造は、今後想定されるIFRSの流れの中で非常に有用である。だが、企業の財務会計の現場でXBRLの有効活用が行われているとはいまだ言い難く、ボトルネックの存在が指摘されている。
現行EDINETでは財務開示における全項目をXBRLで提出できるのではなく、特に「附属明細表」などの注記部分はHTMLでの提出が求められている。この仕様が、IFRSを通じたXBRL活用のボトルネックになってくることが考えられる。将来、大幅に増えると言われているIFRSの注記をHTMLで作成せねばならないとすれば、XBRLを通じた相互参照性の向上が期待できないためだ。国内外を通じた相互比較性の向上というIFRSのメリットを存分に生かすために、少なくとも数値項目を持つ注記情報については早急なXBRL化が求められる。
高い相互比較性を理想とするIFRS、および勘定科目の組み換えやデータベースへの保存のしやすさに特徴があるとされるXBRL。この組み合わせが、企業の財務会計に留まらず広報・IRやマネジメント・アプローチに基づく経営戦略立案といった業務にいっそう寄与することが期待される。