長く使えるECシステムの確立を――第2回BEAシンポジウム

2000/11/14

 米BEA Systemsは、サンフランシスコで第2回「E-Commerece Symposium」を開催した。CTO、CEOを対象に、ビジネス動向や技術動向を解説する年1回のイベントである。

 技術の進歩が激しい中、情報投資への対象、タイミングの見極めは簡単ではない。今回のテーマは“変動の先に;息の長いEビジネス基盤の構築” 。各界を代表する6人のスピーカーがそれぞれの視点を披露した。その内容をかいつまんでレポートする。

『Crossing the Chasm』などで知られるGeoffrey Moore氏も登壇。e-マーケットプレイスをテーマにスピーチした

ビジネスはどうなる?―インターネット・ブームの後に

 最初に壇上にあがったのはベンチャーキャピタルIntegral Capital Partners and Silver Lake Partnersの創業者Roger McNamee氏。投資家の目からトレンドの変遷を語った。

 米国では今年の2月に、BtoCのドットコムを中心にインターネット関連企業の株価が大暴落した。McNamee氏は「ドットコムはすでに過去のもの。投資家の目は厳しくなり、ビジネスきちんと評価する本来の姿に戻る」と言う。そして6つの教訓を提示した。

1、インターネットは顧客とコミュニケーションはできても、顧客を探すことはできない
2、ビジネスモデルなしにはビジネスはありえない
3、全てのビジネスがWebに向いているわけではない
4、ホームページを持つだけでなく、ビジネス戦略にモディファイすることが必要(現実世界のビジネスと組み合わせる必要がある)
5、インターネットはビジネスに変化をもたらすが、移管できるものではない
6、Webべースのアプリケーションは常に進化・変化する

長期的視野にたったシステム、アプリケーションの構築

Marc Andreessen氏
昨年、バックエンドのインフラ関連サービスを行うLoudcloud社を設立し、BEAとはパートナー関係にある

 学生時代にMosaicの最初のプロトタイプを完成させ、元SGI会長Jim Clarkとともにネットスケープを立ち上げたMarc Andreessen氏は、長期的に使えるシステムについて語った。 

 Andreessen氏は「今こそ優れたシステムを構築する大きなチャンス」という。ECシステムに不可欠なアプリケーションサーバやルーターは、3、4年前に比べると導入・運用が簡便になり、自社内でプログラミングする必要が減ったからだ。「企業におけるインターネット利用目的は、いまだに電子メール、インスタント・メッセージが圧倒的で、ECは企業により差がある」(Andreessen氏)。注目はワイヤレスとブロードバンドで、スケーラビリティとXMLなどのクリティカルパス(必須技術)を取り入れたシステムが、長い目で見ると投資価値のあるシステムという。

Nokia社 Shortell副社長「Nokiaが1992年にモバイル市場規模を予測したとき、誰も本気にしなかった」

 ワイヤレス分野についてスピーチしたNokiaのGregory A. Shortell副社長は、モバイルアプリケーションとは「モビリティとアプリケーションの融合」という。留意点として、トータルなモビリティ、大量のトラフィックに耐えられること、既存システムとの連携、統合された単一ネットワークの4点を挙げる。「シームレスなユーザーインタフェースとパーソナライゼーションは不可欠だ。大切なのは、ユーザーがその技術を何に・どう活かすかを知ること、つまりユーザーが何を望んでいるかを把握する必要があるということだ」(Shortell氏)。

基本に帰るeビジネス

 BEAのユーザーでもあるDHL AirwaysのCTO、Oliver Deschryver氏は、「シンプルだが」と前置きをし、ハブとスポークの概念を用いたプラットフォームを提唱した。日本市場でも勢力を拡大しつつある宅配サービスを行うDHL Worldwide Expressは、約230カ国63万5千以上の拠点を結んで展開している。同社のグローバルなシステムでは、BEAの「WebLogic Process Integrator」と「WebLogic Collaborate」を用いて、イントラネットで社員間のコミュニケーションを向上させ、さらにはエクストラネットと連携させて世界中の顧客とのスムーズなやり取りを実現したという。

 当初、「技術面での地域差、システムへの適応比率の違い、ニーズの違いなどをから、あらゆる点で変化に応じられるシステムを求めていた」という。そこで、プロセス主導型のシステムをEJBコンポーネントで構築した。「開発側から見ると、ビジネスロジックとアプリケーションロジックはとても複雑な問題だが、それを解決してくれるのがEJBだ」とコンポーネントの有用性を強調、管理が簡単であるほか、最適化してバックのアプリケーションに再統合でき、プロセスエンジンの使用によりワークフローを中央で一元管理できること、カスタマーのプロファイルに合わせて動的に変化できることなどを利点にあげた。

 締めくくりに「あらゆる環境に対応する複雑なシステムは、きちんと動くシンプルなシステムにより構成される」と述べた。

プラットフォームの重要性を強調するColeman会長

プラットフォームが命

 各スピーカーのメッセージは、“システム基盤がしっかりしているかどうか、長期にわたり利用できるかどうかで、EC成功の明暗が分かれる”と集約できる。BEAの創業者・会長兼CEOであるBill Coleman氏は「スケーラビリティ、セキュリティ(顧客がプライバシーを管理する)、標準準拠、既存システムとの統合、取引相手やエンドユーサーとのコラボレーティブなコマース、パーソナライズ化の6つの点を満たすシステム」とまとめた。

 「eビジネスが現実に使えるものとなるためにはリアルタイム性が最低条件」と語ったMcNamee氏は、興味深いコメントをしている。「これからは(アプリケーションを売る)ベンダー間の争いではなく、各企業のサプライチェーン間の競争の時代。顧客はサプライチェーンで判断する。つまり良いシステムで顧客を獲得する時代に入った」(McNamee氏)。

デ・ファクト、WebLogicをベースに成長を続けるBEA

写真家Rick Smolan氏「インタラクティブ(相互のやりとり)こそ、インターネットの醍醐味」。BEAはOracle、Sunらとともに、同氏のプロジェクト“Planet Project”を支援する

 BEAは1995年の設立以来、焦点を絞ったマーケットで巧みな買収を重ね成長してきた。昨年末にはロゴを一新、キャッチも“eビジネストランザクションカンパニー”とプラットフォームへのフォーカスを全面に出した。現在、8000以上の顧客を抱え、19四半期連続増収と、堅調に成長を続けており、小粒ながらもその存在感は誰もが認めるところとなった。

 製品のラインナップも、これまでの「Taxedo」「WebLogic Server」から、「WebLogic Commerce Server」「eLink」など、トランザクションで築いた基盤技術とJavaを軸に充実させている。米国では今年中に製品化となる、e-マーケットプレイス構築を実現するソフトウェア「WebLogic Collaborate」も前評判が高い。ベータ版の段階で導入意志を表明する企業がすでに12社に達したという(日本で発売予定はまだ明らかにされていない)。

 その「WebLogic Collaborate」がプロジェクトとして初公開された今年2月のユーザーカンファレンスで、Coleman会長は「IBMがライバル」と宣言した。Webアプリケーションサーバでシェア1位(32%)という分析結果もでており、J2EEを実装したアプリケーションサーバ分野では確固たる地位を築いたといえる。技術志向型のイメージが強いが、次なる課題は、マーケティング戦略、米国以外の地域でどう展開するかというグローバル戦略を強化し、移り変わりの激しいIT業界で知名度のある安定した企業となることだろう。

(編集局 末岡洋子)

[関連リンク]
日本BEAシステムズ
BEA Systems: Symposium 2000 Webcast

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