沈黙し、科学者へ責任を促す“Ginger”の考案者

2001/3/20
(03/14/01, 8:57 p.m. ET) By Stephen Buel, TechWeb News

 今、世界で最大の興味と関心を集めているなぞの新技術“Ginger”、その中心人物が3月14日、Association of Computing Machinery(ACM)カンファレンスに登場し、IT業界と最近の動向を叱責した。

 “Ginger”という言葉は、今年1月に突然登場した。またの名を“IT”として知られる機密度の高い発明の背景にいる科学者がDean Kamen氏だ。Kamen氏は米国技術功労賞受賞者でもある。

 一部では、“IT”が正式名称で、そのコードネームが“Ginger”といわれている。この一連の話は、Steve Kemper氏が執筆する書物の企画書やWorld Intellectual Property Organization関連からそのプロジェクトの存在が明らかになった。プロジェクトは米ニューハンプシャー州マンチェスターにあるDEKA研究所で進行中とされている。このDEKA研究所はKamen氏が創立したものだ。kamen氏はWebサイト上で、“発明家、物理学者、おしゃれ(snappy dresser)”であると描写されている。

だが、登壇したKamen氏は、プロジェクトの本質に関する情報は一切提供してくれなかった。その代わり、最近著しくなった自らの知名度を用い、自分たちの革新が社会に及ぼす影響を考慮せず、技術の進歩だけに近視眼的にフォーカスしているコンピュータ科学者たちをきびしく批判した。

 「われわれ科学者の行動によってもたらされる意図せざる結末の方が、意図した結末よりも重大なものとなる。こういったケースが多すぎる」(Kamen氏)

 Kamen氏は、短期的で非現実的な執着からIT業界を遠ざけようと務めた。ここ数年間、この傾向がますます顕著になるという印象を受けている。

 Kamen氏の業績の特徴は、人間の実際のニーズに対して非常に高い応用性があるという点だ。これまでに、初の携帯用インスリンポンプ、携帯用腎臓透析機、そして先日Dick Cheney米副大統領が受けたような血管形成術で使用される動脈ステントを作り出してきた。

 同氏は、階段の上り下り、砂地の横断、2つの車輪だけでの容易にバランスを取る(実際に、Kamen氏自身が45分間の講演の中でデモをして見せた)といったことが可能な全地形対応車椅子の「iBot」という自らの最新の発明品を登場させ、名調子でカンファレンスの基調講演を行った。

 Kamen氏を突然世界で最も注目される科学者(そしてACMカンファレンスで最も期待された講演者)にしたのは、同氏が近日中に開始するプロジェクトへの情熱的な関心度の高さだった。このプロジェクトは、都市計画の立案者に都市のデザイン見直しを余儀なくさせるほど革命的な新しい輸送デバイスだと考えられている。

 Kamen氏は、“半導体の処理能力は18カ月毎に倍増する”と仮定する「ムーアの法則」に執りつかれたカンファレンスで、自らの謎めいた理論を披露した。“技術開発の意図せぬ副次的効果は25年毎に100倍頻繁に発生するようになる”というものだ。

 「計算能力、ストレージ、そしてスピードは18カ月毎に倍増しているが、人間はそれほど急激には発達しない」と警告。技術革新に対する人類の対応能力の遅れこそが、発明時に技術の副次的結果が明確にならないことが多い理由だとした。

 たとえば、1939年の万国博覧会に出品した自動車メーカーは、乗用車のスピードが間もなく時速160キロを越えると豪語した。しかし、「自動車業界は車の高速化を止め、法律関連でも制限スピードが引き下げられた。車の限界がどうであろうと関係ない。そのほかの要素がこれを遅くしていくのだ」という。

 同じ視点で、ACMカンファレンス自身の話題のいくつかを激しく非難した。参加者のインターネットへの多大な信頼、15人の講演予定者が予想したインターネット動向への信仰(講演者はプレゼンテーション中に動向予想について言及するよう求められていた)などを一蹴し、講演者の中でKamen氏はただ一人、ほかの講演者の予想は間違っているだろうとしただけで、予想ゲームへの参加を拒否した。

 Kamen氏は同時に、聴衆を「インターネット狂信者」だとして軽蔑し、参加者には、学生たちがもっと科学や技術教育の見通しに興味を持つようにしていく責任がある、と語った。同時に、数学や科学への若者の関心を促すFor Inspiration and Recognition of Science and Technology(FIRST)という同氏の非営利組織への参加を簡単に聴衆に訴えた。

 時折厳しい口調になったKamen氏だったが、カンファレンスの参加者は暖かく迎えた模様だ。報道陣や参加者は講演終了後に同氏とiBotを取り囲んだ。しかし、ついにその発明家から“Ginger”の新たな詳細を聞き出すことはできなかった。

*この記事は一部編集しています。

[英文記事]
Ginger Inventor Stays Mum, Urges Responsibility

[関連リンク]
ACM
DEKA研究所

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