e-servicesでサービス中心のコンピューティングを実現、HP

2001/5/25

 インターネットが一般に普及しつつある現在、さまざまなベンダが“次世代”という言葉をつけ、次なるビジョンを語っている。ヒューレット・パッカードでは、インターネット時代の第2章として“e-services”を提唱している。“e-services”とはインターネットを介してサービスが提供される技術で、自分が操作するのではなく、自動的にWebが自分に働きかけてくれる世界が実現されるのだという。

基調講演を行うDoug McGowan氏

 5月23日の同社のカンファレンス「hp world 2001」で基調講演を行った米HP General Manager, Service Provider&Mobile SolutionsのDoug McGowan氏は記者に対し、そのe-servicesの最新動向について語った。

 McGowan氏によれば、e-servicesの特徴は、サービスを中心としたコンピューティングと、モビリティ(携帯性)の2つとなる。同氏は基調講演で次のような将来図を描いて見せた。

 出張で飛行機に乗るために空港に行くとする。空港施設に入ったら携帯電話が鳴る。携帯電話の画面には次のようなメッセージが出ている。“空港に到着したのを確認しましたので、搭乗予定の便にチェックインを済ませました。航空便の出発時刻は予定通りです。ゲート番号は○○、お預けになる荷物がなければゲートにお進みください”。その後、目的地に到着し、飛行機を降りると再び携帯電話が鳴る。画面には“緊急の電子メールが到着しています”というメッセージとともに最寄りのプリンタ設置場所を知らせている。そして、指示されたプリンタの前に携帯電話をかざすとその電子メールがプリントアウトされる――。

 このような世界を実現するためには、3つの要素が不可欠だとMcGowan氏はいう。

  1. インターネットが水や電気のように信頼できるインフラであること
  2. さまざまなデバイスとさまざまなサービスが提供されること
  3. 「コンテクト・スペシフィック・サービス」が実現されること

 3の「コンテクスト・スペシフィック・サービス」とは、ユーザーがどこにいて何が必要かを把握して、特定のサービスの提供を実現するコンピューティングだ(コンテクストとは、状況を意味する)。

 この「コンテクト・スペシフィック・サービス」が包含されるサービス中心のコンピューティングを実現する重要な技術がe-servicesとなる。HPは、「世界各地でMobile e-Services Bazaarを実施(「端末、インフラ、e-servicesで巻き返しを図るHP」参照)、同社のWebサービスである「e-speak」の開発、パートナーと協力、そしてデバイスの開発をとおして実現していく」とMcGowan氏。パートナーに関しては、Chai(同社のJava VM技術)に関してQualcomと協力しているほか、各社と協力してサービス中心のデータセンターの運営やモバイル用アプリケーションの開発などを進行中だという。日本でもIIJと組んでサービス付加型のデータセンター構築を行うなどの事例がある。HPにとってe-servicesは、同社の他の事業拡大に貢献する技術と位置付けられており、他事業との相乗効果を狙う。「e-servicesは、これまで提供してきた製品やサービスを膨らませるもの」とMcGowan氏。

J-フォンとは、携帯電話で決済を行えるサービスの開発を進めている

 しかし、似たようなメッセージを提唱するベンダは多い。これについてMcGowan氏は、「他社とはオープンな実行環境とモバイルで差別化を図る」とした。特にサン・マイクロシステムズやIBM、マイクロソフトがそれぞれ、Webサービス戦略を展開し始めたことについては、「(IBMらは)やっとわれわれに追いついてきた。HPでは1年半前から“e-speak”を提唱している」とMcGowan氏。アプリケーション・サーバ、BluestoneとXMLをベースにインフラを構築していることを報告し、「他社のように単なる将来図を提唱するだけでなく、実現に向けて取り組んでいる」と強調する。さらに、「コンシューマー向け、エンタープライズ向け、インフラ製品、そしてプロフェッショナルなサービス、と事業範囲が広いのはわが社にとって優位になる」と余裕を見せた。

 では、サービス中心のコンピューティングの世界では、レガシーシステムはどうなるのだろうか。「あくまでも追加的なもの」とMcGowan氏。「既存のシステムからいかに情報を見せるかが重要になる」。取って代わるのではなく、効率を高め、新たなメリットを生み出すものなのだという。


Netactionの詳細を発表、「開発者コミュニティ形成に取り組む」

 HPが同社のミドルウェア戦略として「Netaction」を発表して3カ月(「.NETとJavaに対応が特徴、HPのECプラットフォーム」参照)。5月24日、「hp world 2001」に合わせて来日中の米HP Middleware部門General Manager, Starategic MarketingのJohn h. Capobianco氏が会見を開き、「Netaction」戦略の説明を行った。

 同社のソフトウェアは、開発、統合、実行、管理の4分野からなり、管理については「hp Open View」がカバーする。「Netaction」はそれ以外の分野を受け持つ。しかし、この分野ではHPはこれまでBEAなど他社とパートナーを組んできたため、どちらかといえば新規事業に近い。

 HPは2000年10月、アプリケーション・ベンダの米Bluestoneを買収し、基盤を手に入れた。Bluesotoneは日本での知名度こそ低いものの、米国ではPure Javaの実行環境を実現するアプリケーション・ベンダとして高い評価を得ていた。Capobianco氏はBluestone出身で、Bluestoneではエグゼクティブ・バイス・プレジデントとして戦略立案にかかわってきた人物だ。

 同社の「Netaction」は、J2EE準拠のBluestoneのアプリケーション・サーバをベースに、「e-speak」や「process manager」などe-servicesのサービスモジュールから構成され、XMLを利用して情報の動的な配信を可能にする。同社はOASISに加盟しており、UDDIではマイクロソフトらと協調関係にある。

 今回Capobianco氏が協調するのが、開発者コミュニティ形成への積極的な取り組みだ。「ISV(独立系ソフトウェアベンダ)、企業のIT担当者、将来的にはビジネスディベロッパーも視野に入れてツールの提供やサポートを行う」とCapobianco氏。クオリティの高いアプリケーションを、容易に、素早く開発できるツールの提供とともに、包括的な開発者向けプログラムを世界で展開する。統合開発環境「Integrated Service Environment(ISE)」や、ガートナーグループの提案する開発モデルを含んだ「Service-oriented Development of Application(SODA)」環境を発表し、サービス中心の開発をサポートしていく。具体的なツールとしては、WebGainやRationalのツールも含まれている。

 今後の取り組みとして、6月に開発者向けポータルサイトを開設し、秋には米国、ヨーロッパ、アジアの3カ所で開発者向けカンファレンスを開催する。「これまで開発者向けの取り組みが弱いと指摘されてきたが、今後は積極的に行っていく」(Capobianco氏)。現在、アプリケーションサーバ分野でBluestone製品の占めるシェアは5%程度、同社はこれを3年後に20%にするという。

 この分野では、IBM、サン・マイクロシステムズなどと競合することになる。「OSを限定しないPure Javaを実装していること、拡張性に優れていること」と技術での優位性を挙げ、「われわれが提供するのはあくまでもプラットフォーム。他社のようにコマース・サーバなどを提供するようなことはしない。プラットフォームの上でビジネスを行うISVとは良好な関係を保つ」と強調した。

(編集局 末岡洋子)

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