合併を擁護するHPフィオリーナ氏とコンパックのカペラス氏

2001/10/16
Wednesday, October 10, 2001, 12:14 AM ET. InternetWeek, By Mitch Wagner

 米ヒューレット・パッカード(HP)のCEO、カーリー・フィオリーナ(Carly Fiorina)氏は先週、第一印象が悪いという理由だけで同社と米コンパックは合併計画を破棄すべきだと業界の一部観測筋が示唆していることに対し、「信じがたいこと」だと語った。

批難を浴びた合併発表から1カ月

 「この業界で長年経験を積んできた経験豊かな方々である経営陣や役員が、われわれが約2週間ほどマスコミから批判されたからといって“確かにそうだ。良いアイデアではなかった”と、方針を転換すると思っているのだろうか? それほど浅はかな考えに基づいて面白半分に合併に踏み切ると皆が考えている点に関しては、大きな疑問が湧く」(フィオリーナ氏)

 米コンパックと米HPの両社が合併に合意したこと発表したのは9月4日のことだ(「HPがコンパックを買収、巨大企業が誕生」参照)。この発表を受け、この日21.15ドルで取引が開始されたHP株が9日には16.95ドルの終値をつけ、4日に12.95ドルで取引を開始した米コンパック株は10日の終値が9.05ドルになるなど、両社ともに株価を大きく下げてしまった。

 顧客企業各社は警戒しながらも楽観的であるのに対し、アナリストたちは同社を猛烈に批判した。合併実施前から株価が値を下げ、マーケットシェアが低下しつつある2社の企業が単独で活動するよりも一緒に活動した方が果たして良いのか、との疑問を投げかけているのだ。

 だが、フィオリーナ氏と米コンパックCEOのマイケル・カペラス(Michael Capellas)氏は先週、InternetWeekなど複数メディアによる合同インタビューに応じ、今回の合併の根拠を繰り返し強調した。

 両CEOによると、合併後に誕生する企業は、両社のサービス、サーバ、およびストレージの各ビジネスでスケールメリットと相乗効果を享受することになるという。もしこの合併がうまくいけば、米HPの会長兼CEOであるフィオリーナ氏が、ヒューレット・パッカードと呼ばれることになる合併後の新会社の会長兼CEOに就任する。一方、現在、米コンパック会長兼CEOであるマイケル・カペラス氏は社長に就任する。

ビジネスコンサルではパートナー戦略を

 合併後の会社が米IBMグローバル・サービセズや英プライスウォーターハウスクーパーズ(PwC)といった企業と競合するには、ビジネスプロセスコンサルティングにフォーカスする必要がある、と評論家たちは口をそろえる。その一方でカペラス氏は、両社はこの分野に参入する意図はなく、その代わりに自社製品向けサービス、アウトソーシング、そして技術コンサルティングといった中核となるビジネスにフォーカスするという。両社はビジネスコンサル分野に関しては、必要に応じてPwCなどのビジネスコンサルティング各社と提携する作戦をとる。

 カペラス氏は、カスタマの獲得については両社が持つ幅広い製品と自社製品向けサポートがカギになると語る。

 「2年前には、Webサーバのフロントエンドを構築する際、どの企業もどこかの小規模の会社を探し出し、さらにそのシステムのサポートにほかの会社に依頼していた」(カペラス氏)。だが、今の大企業は技術をワンストップショップから購入したがっているという。

 「少数の企業とパートナーを組み、さらなる統合の実現と完全なソリューションスタックの提供を受けることを望んでいる。カスタマの望みは、(だれかに)技術をまとめてもらうことだ」(カペラス氏)。

製品ラインは重複ではなく補完

 今回の合併を批判する声の中に、両社の製品ラインの重複を指摘するものがあるが、カペラス氏はこれについて、「実際には(両社の製品ラインは)補完的な関係にある」という。

 「重複部分は人々が考えているよりはるかに少ない」(カペラス氏)

 フィオリーナ氏は、「カスタマが不安を抱くのはロードマップが分からないときだ。カスタマがどのような環境で製品を利用しているのかに着目すれば、ロードマップはぐっと明確になる」と加えている。

 例えば、商用UNIXの主流であるHP-UXはERPなどの業務アプリケーションを運用しているユーザーにとって魅力で、Tru64 UNIXは主に科学技術関連アプリケーションで利用されている。両CEOによると、両社はTru64の高可用性およびクラスタリングの機能は、いずれはHP-UXも搭載されるようになるという。

 だが両CEOは、政府の規定によって発言が禁じられているとし、製品ラインの併合に関する具体的な計画については明言を避けた。

 フィオリーナ氏によると、プリンティング事業でも相乗効果が期待できるという。カスタマはスタンドアロンのプリンタよりも、ネットワークプリンタの方を要求している。そして、ネットワーク型の場合、ネットワークインフラを供給するベンダが必要となる。

 「何かを印刷して複製し、それを物理的に配付するというのが古いモデルだったが、ネットワークプリンティングがこのパラダイムを変える。現在では、コンテンツはネットワーク経由でデジタル配付され、必要な場面になった時点で印刷されるようになっている」(フィオリーナ氏)

 米HPと米コンパックが合併後に狙うことになる成長市場としては、このほかにデジタル写真と商業印刷の2つがある。

 両CEOは、既存の製品ラインについては、今後も製品の寿命を全うするまでサポートするとし、カスタマを安心させている。

 「多数のカスタマを新世代の技術へと移行させることがこの業界の仕事だが、これは今日行われている技術の移行としてはそれほど困難なことではない」(フィオリーナ氏)

最大のライバル、IBMに対向する策

 同氏は特に詳細には触れなかったものの、IBMの方が複雑な技術移行に直面している、と語った。

 両CEOによると、合併後の会社にとって最大のライバルは、会社の規模、製品ラインの幅、およびサービス組織の規模から見て、IBMになるだろうという。

 ところがIBMは異なるビジネスモデルを持っており、マイクロプロセッサを含むあらゆるものを製造している、とフィオリーナ氏は語る。対する新会社は、業界標準のコンポーネントと互換性を頼みの綱とすることになるという。

 カペラス氏は、製品ラインの拡大、ワイヤレスアプリケーションなどのソリューションパッケージングの改良、およびチャネルの在庫管理改善など、今回の合併のメリットを次々に列挙してみせた。

 同氏は、PC市場において両社がシェアを落としていることにフォーカスしたニュース記事など、自ら誤解だと主張するものについても敢えて言及した。同氏によると、今回の合併は完全なエンタープライズ戦略の実現が目的であって、単にPCの売上げ拡大を目指すものではないことを強調した。

 同氏はさらに、今回の合併の条件が現金による買収ではなく株式交換であるため、たとえ販売価格が下がったとしても、合併後の会社が長期的な成功を収めれば株主に見返りがあることも強調した。「今回の合併は短期的なメリットを目指すものではなく、長期的な成功を狙ったものだ」(カペラス氏)。

 同氏は最後に、今回の合併は取引ベンダの数を削減し大規模な水平統合サプライヤを求めるカスタマのニーズに対応するものであることを強調した。

テロによる打撃は大きかった

 9月11日のテロ多発事件以来、エンタープライズカスタマは一段と保守的になったことにも話は及んだ。両氏によれば、大災害に直面してもビジネスを継続できるよう、素早い対応が可能なベンダから信頼性の高いシステムを望む傾向が強くなったという。カペラス氏によると、先のテロ攻撃後、米コンパックの金融業界カスタマは全員がネットワークを復旧させており、これが同社の評判確立に大いに役立ったという。

 フィオリーナ氏は、「人々は品質、信頼性、そして冗長性に高い関心を持っている」と加えた。これは長期的な影響だが、短期的には特定の範囲内でビジネスを麻痺させた「システムに対する心理的なショック」があるとし、この記憶が消えるのがいつになるのかは分からない、と同氏はいう。

 フィオリーナ氏とカペラス氏は、フロリダ州のWalt Disney Worldで開催されたカンファレンスでこのインタビューに応じたが、両CEOと報道陣はこのテーマパークの来場者が減っていることについて記者会見前にコメントを出し、特に子どもの姿が見えないことに言及した。

 「“Disney Worldに人がいないのは異様な光景だ”などの話をした。この状態がいつまでの続くのか分からないが、永遠に続くものではないと信じている」(フィオリーナ氏)

 カペラス氏によると、先のテロ攻撃とその余波は、減速する経済によって既に力が弱まっている一部の企業を窮地に追い込む可能性が高いという。

 フィオリーナ氏は、テロ発生の前から既に優先事項だったネットワークセキュリティは、一段と重要性を増しつつあると語る。カスタマは実世界で実証済みのメリットや導入事例を望んでいるという。また、自身の最大の関心事として、経済状況と国際政治状況の2つを挙げた。「“テクノロジー業界にとって最悪の落ち込みだ”とか、“過去40年で最も急激な景気の下降だ”との声が上がった9月11日以前から、私にとってこの2点は重大なテーマだった。このような状況で大切なことは、基本を忠実に守ることだと思う。われわれは何年も前からIT業界にある一連の基本的傾向とともに、経済のサイクルに忠実に従っているのだから」(フィオリーナ氏)

 フィオリーナ氏のいう“基本的傾向”とは、オープン標準、互換性、柔軟性、そしてオープンソースコードなどの流れを指している。

 「価格効果と柔軟性は、業界にとって必然的で変えられない動きとなっている。これらのトレンドは景気に関係なく今後も逃れられないものになる。状況の良し悪しにかかわらず価値を生み出すにはどうすればよいか、そして状況の良し悪しにかかわらずキャッシュフローを生み出すにはどうすればよいか、と問い続ける必要がある」(フィオリーナ氏)

 フィオリーナ氏は、長期的なメリットを省みず、短期的な社会通念に重点を置くことに対して警告している。社会通念は間違っていることが多いのだという。

 「つい最近でも、米ハンドスプリングと米パームが世界を制覇しつつあるとか、エクソダスこそが未来のトレンドだという話があった。その瞬間に話題になっていてメディアや市場が重点を置いているものにフォーカスしていたら、確実に間違いを犯すことになる」(フィオリーナ氏)

[英文記事]
Fiorina, Capellas Defend HP-Compaq Merger

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