組み込みソフトウェア開発の現場で何が起こっているのか

2002/8/1

  OMG Japanは7月31日、都内で「第2回 MDA(Model Driven Architecture)テクノロジー・フォーラム」を開催した。テーマは「組込/リアルタイム・システム開発におけるMDAアプローチ」。組み込みソフトウェアが大規模化、複雑化する中で、組込システム向けUML(eUML)が注目されている。組込UMLの現状と今後の展開について、国内のパイオニアの1人と言われるキャッツの取締役副社長 渡辺政彦氏が講演した。

 現在、携帯電話機、デジタルテレビ受像機、カーナビゲーション・システムなどに組み込むソフトウェアは、年率約40%の割合で大規模化しているという。しかし、機器メーカーにおけるソフトウェアの開発能力は、大規模化に見合った伸びをしていない。その結果、ソフトウェア開発に起因する機器の市場投入の遅れや市場投入後の不具合発生などの事態を招くことが多くなっている。

 渡辺氏は従来までの開発スタイルの問題点として、(1)新サービス(仕様)への対応の遅さ、(2)新しい技術(Bluetooth、IMT-2000、電子認証、ソフト無線)の習得の遅れ、(3)短納期で低コストな作業環境、(4)数百人単位の開発チームおよびグローバルな開発による開発管理体制の不備、などを指摘する。また、顧客やLSIメーカーの多くは、日本語と英語の混在する書面で仕様を決定しており、その結果、書面解釈の違いで手直しが頻発、平均9カ月〜1年の設計期間のうち半分以上が手直しに費やされているという状況は珍しくないと話す。

 さらに、開発現場の現状は、OJTによる教育を行い、試行錯誤を繰り返しながら経験を積み上げていくのが一般的だが、渡辺氏は「専門的な知識体系を持った人材が、ケーススタディを参考にし、分析的手法をもって業務を行うのがあるべき姿であり、経験的よりもむしろ演繹的なアプローチの方が望ましい」とする。

 ここでいう、分析的手法の段階にUMLが活用される。組み込みソフトウェアに特化する場合に利用するのは、eUML(組み込みUML)ということになる。システムをモデル化するための表記法であるUMLを、組み込み応用向けにアレンジしたものが「eUML」である。渡辺博之氏(オージス総研)、堀松和人氏(ソニー)、渡守武和記氏(松下電器産業)、渡辺政彦氏(キャッツ)、萩原裕志氏(キャッツ)などの有志がeUML仕様のドラフトを作成している。

 UMLを組み込みソフトウェア開発に活用する場合のベストプラクティスとして、渡辺氏が提唱するのが以下の6点である。
  • ユースケース分析で状態図を使用する
  • ドメインとオブジェクトのカテゴリを明示する
  • エンティティ分析ではきちんとデータモデリングを行う
  • 再利用を重視する
  • 設計に状態表(キャッツではEHSTMを使用)を適用する
  • システムレベルのテストを行う
 分析は、システムビヘイビア分析から、ドメインユースケース分析、オブジェクトビヘイビア分析、オブジェクトコラボレーション分析、オブジェクト構造分析、エンティティ分析、サブシステム分析、ドメイン定義まで行う。ドメイン定義やオブジェクト構造分析などの段階では、何をどこまで定義し、分析するのかが最初の問題となるのだが、渡辺氏は「決めうちで限定してしまうことが重要」と言い切る。例えばドメイン定義では、「アプリケーション開発」、「メカニズム」、「デバイス」、「ユーザーインターフェイス」の4つに決めてしまい、ほかのドメインを定義することはしないことをあらかじめ決めてしまうことが重要だとする。

  現在、eUMLは、「SoC WG」、「FA WG」や「Automobile WG」「Communication WG」「Formal Method WG」などのワーキンググループでドラフトを作成中だが、「いまはまだ妥協の産物に過ぎない側面もある。今後、さらに実践的な方法論を目指して協議を行っていく。組み込みソフトウェアの開発に限らず、現行の開発手法はすでに通用しなくなっていることは確かだ」と強調した。

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